1 |
情報公開条例改正状況 【表−2 1列】 |
今回の調査時点で指定管理者制度導入にともなう情報公開条例の改正を行っていない自治体は、
茨城、千葉、石川、長野、静岡、京都、大阪、沖縄の8府県
仙台、横浜、静岡、京都、神戸、広島、北九州、福岡の8政令市 である。
このうち、下線の2県3市は文書提出要求規定(後述)を何らかの形で設けており、それをもって、情報公開条例を改正することなく指定管理者の保有する情報の開示請求に対応できる、とするスタンスであると思われる。
(参考:北九州市からは、「指定管理者が持つ“管理に関する情報”は行政に帰属するものであり、実施機関(行政)が保有している。また、実施機関が保有していない情報は、地方自治法244の2第10項を根拠に報告させることができる、という理由により、情報公開条例の改正を行っていない」という見解が示された。広島市も地方自治法244の2第10項を根拠に文書提出要求規定を設ける必要はないという見解。しかし、同項により報告させるかどうかは自治体側の判断にかかっているから、市民にとって権利を保障されたとは言いがたい。)
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2 |
情報公開条例改正類型 【表−2 2列】 |
(1) |
改正類型については、昨年の全国大会時の報告と大勢は変わっていない。すなわち、
・指定管理者に対し →「情報公開への努力/必要な措置」を課す
・実施機関(行政)に対し→「指定管理者の情報公開が推進されるよう努力/
指導/必要な措置」を課す
という内容が、都道府県で39改正例中37、政令市で7改正例中6と圧倒的多数を占めた。
表‐2では要約して記載したが、細かく見ると努力規定の域をでないものと、義務づけの度合いが強いものとで差違がある。この範疇で若干異なった表現となっているのは、岩手県(協定書に情報公開のために指定管理者が講ずべき措置の記載を義務づけ)と徳島県(実施機関に協定に講ずべき措置の明記・指導義務づけ)で、また、指定管理者の努力義務の中に情報公開規定(後述)の作成を明示しているのは宮城県である。
「必要な措置」が実際に何を指すのか、要綱等の補足的な規定を見てもわかりにくい自治体が多かった。神奈川県のように、実施機関が行う指導・支援について別に要綱を設け、具体的に明示してあると理解しやすい。
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(2) |
昨年の全国大会の報告で、自治体が責任を持って市民の知る権利を保障する、という視点から望ましい条例改正として提案したのは、文書提出要求規定を設けた類型である。都道府県・政令市にあって外形的にこれに該当するのは、北海道と札幌市の2自治体である。この2自体の条例を、下記に付した神奈川県逗子市の条例と比べると、ひとつには請求権の明示がないことがあげられるが、2自治体の下位の規定(事務取扱の要綱や要領)と合わせて見るとさらに決定的な違いがある。
この2自治体では、実施機関が請求を受付けて指定管理者に文書を提出させても、それは単なる中継ぎであって、情報公開条例の適用を受ける行政文書にはならず、諾否決定はあくまで指定管理者が行う、としているのである。
札幌市条例の該当箇所は次のとおり(北海道は出資法人の情報公開を準用)。これを一見すると、提出された文書は公文書として情報公開条例の対象になりそうだが、2自治体は公文書にならないとしており、非公開とされても行政処分として争うことはできない。
第22条の2 指定管理者(地方自治法第244条の2第3項に規定する指定管理者をいう、以下同じ。)は、その保有する文書であって自己が管理を行う同法第244条第1項に規定する公の施設に関するものの公開に努めるものとする。
2 実施機関は、前項の公の施設に関する文書であって実施機関が保有していないものに関し閲覧、写しの交付等の申出があったときは、当該指定管理者に対し、当該文書を実施機関に提出するよう求めるものとする。
3 前2項の文書の範囲その他これらの規定による文書の公開及び提出に関し必要な事項については、実施機関が定める。 |
比較のため、逗子市の条例の該当箇所を掲げる。
(指定管理者に関する特例)
第23条 指定管理者(中略)は、同法第244条第1項に規定する公の施設に関する情報(当該指定管理者が公の施設の管理を行うに当たって保有するものに限る。以下この条において同じ。)の公開に努めなければならない。
2 何人も、指定管理者を指定した実施機関(以下「指定実施機関」という。)に対し、前項の情報について公開請求をすることができる。
3 指定実施機関は、前項の公開請求があったときは、指定管理者に対し、当該情報を提出するよう求めなければならない。 |
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(3) |
上記(1)、(2)に含まれない例が奈良県である。条例では
第32条の2 県は、地方自治法第244条の2第3項の規定により指定管理者に公の施設の管理を行わせるときは、当該指定管理者の保有する当該管理に関する情報の収集に関し必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の情報の収集に関しては、地方自治法第244条の2第3項の規定による指定に係る協定において定めるものとする。 |
とあるだけだが、協定書における以下の記述と合わせると文書提出規定の構成となる。 しかし、「必要があると認め資料等の提出を求め」るどうかは実施機関の判断にかかっており、市民の権利を保障するものとはなっていない。
(資料等の提出要求への対応)
第31条 地方自治法第244条の2第10項の規定に基づき報告を求める場合のほか、甲(実施機関)が必要あると認め資料等の提出を求めた場合は、合理的な理由がある場合を除いて乙(指定管理者)はこれに応じなければならない。
(情報公開)
第52条 乙が甲に提出した文書等は、奈良県情報公開条例第2条第2項に規定する行政文書として同条例の適用を受けるものとする。 |
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3 |
文書提出要求規定【表−2 3列・7列】
上記の文書提出要求規定が、情報公開条例ではなく、要綱や協定書に盛り込まれた事例は、奈良県も含めると全9事例ある。
しかし、要綱は行政内部の法規で市民と行政との権利・義務関係を定めるものではなく、また協定書は実施機関と指定管理者の2者間の取り決めにすぎない。
これら9事例では、指定管理者から提出された文書は行政文書として情報公開条例の適用を受けるので(上記奈良県の条例参照)、開示請求への諾否決定は実施機関が行う。しかし、指定管理者が文書提出を拒んだ場合は、「実施機関が保有する文書」という行政文書の要件を満たさず、市民が訴訟で指定管理者の文書の公開を求めようとしても、目的が達成できるとは言い難い。
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4 |
指定管理者への情報公開規程等作成義務づけ【表−2 4列・6列】
行政不服審査法にもとづく、非開示(一部開示)決定に対する救済制度が適用されるか否かということはひとまずおくとして、実施機関にではなく指定管理者に文書の請求をして開示される要件としては、個々の指定管理者が情報公開に関する規程等を設けることがあげられる。これについては、条例から導かれる自治体は少なかったが、要綱等の規定類または協定書で作成を課しているという自治体は35府県6政令市と多数を占めた。
多くの条例改正例に見られた「実施機関は必要な措置を講ずる」という文言が、具体的には、個々の指定管理者が情報公開規程等を作成するよう、指導したり、義務づけたりすることを含むのかどうかという点については、原則的に条例の文言からのみ判断したが、「含む(あるいはイコールである)」という条例の解釈運用基準を示してきた自治体については、その内容を加味して判断したものである。
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5 |
指定管理者のみが保有する文書を請求した場合の開示の可能性【表−2 8列】
条例、諸規定、協定書の外形的判断にもとづいて開示の可能性をおおまかに予測してみた。 |
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・ |
何らかの形で情報公開条例を改正していて、条例以外(要綱等の諸規定や協定書)で文書提出要求規定を設けている3県1政令市(奈良県、岡山県、佐賀県、大阪市)には○、同様に文書提出要求規定は設けているが情報公開条例に全く手をつけていない2県3政令市(千葉県、石川県、仙台市、北九州市、福岡市)は、区別して△をつけている。 |
・ |
無印は、実施機関が取りあえず何らかの形で指定管理者に情報公開規程等の作成を課しているところ。情報公開条例等により、実施機関の指定管理者の情報公開に対する指導、措置などはうたっているが、請求に対する諾否決定は指定管理者に委ねた形になっているため、実際の制度運用では結果にバラツキが予想される。 |
・ |
個々の指定管理者への情報公開規程等の作成の義務づけがなく、文書提出要求規定もないところは、外形的判断で開示の可能性が他よりも低いとして、▲をつけた。8府県3市ある。このうち、茨城県、長野県、静岡県、大阪府、沖縄県、横浜市、静岡市、神戸市は情報公開条例の改正も行っておらず、指定管理者制度導入にともなう情報公開制度の整備が立ち遅れていると言わざるをえない(このうち神戸市からは、情報公開について必要な措置を講ずるよう協定書に規定しており、文書提出要求を含めた対応を想定しているとの回答を得ているが、データとして確認できなかった)。 |
・ |
北海道と札幌市(※印)は条例の規定が外形的には文書提出要求規定型であるのに、規定の文言が生かされていない。 |
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6 |
異議申出について【表−2に記載なし】
これまで見てきたように、指定管理者の情報公開については、情報公開条例に文書提出要求規定を設け、提出された文書は行政文書として実施機関が諾否決定を行い、不服申立にも対応する、という仕組みが最善であると考える。しかし、実際には、そのようにはなっているところはなかった。
非開示(一部開示)決定を請求者が不服とした際の現行の対応についてまとめると、下表のようになる。(提供された情報が不十分で判断ができなかったところは、枠外に「不明」とした)
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異議申出の取扱いについての規定の内容 |
自治体名 |
A |
非開示(または一部開示)決定を受けた請求者は、決定を行った当該指定管理者に異議の申出を行うことができる。申出を受けた指定管理者は、決定について再検討を行い、結果を文書で回答する。 |
東京都 新潟県 愛知県
和歌山県 鳥取県 島根県
香川県 佐賀県 熊本県
/札幌市 |
A+指定管理者は再検討に際し、自ら設けた審査会(徳島県)・検討会(鹿児島県)の意見を聴く。 |
徳島県 鹿児島県 |
B |
A+指定管理者は再検討に際し、指定実施機関(自治体)に報告し、その助言を求めたり、協議を行い、実施機関から助言等があった場合はその意見を尊重する。 |
青森県 岩手県 宮城県
秋田県 山形県 群馬県
神奈川県 富山県 福井県
山梨県 兵庫県 山口県
愛媛県 高知県 大分県
長崎県 宮崎県/
千葉市 川崎市 名古屋市
京都市 広島市 |
B+指定管理者は再検討に際し、自ら設けた審査会の意見を聴くことが望ましい |
福岡県 |
C |
B+知事は必要に応じて情報公開審査会の意見を聴く |
福島県 埼玉県 滋賀県
三重県/堺市 |
D |
開示決定等について苦情がある者は、指定管理者に対し書面により苦情を申出ることができ、指定管理者は書面により回答する。(←Aに相当)当該回答に対し更に苦情のある者は、所管課に対し「苦情申出書」を提出でき、所管課長は調査審議の上、回答するとともに、指定管理者に対し、当該回答に沿って対処するよう指導する。(←BあるいはCに相当) |
栃木県 |
E |
異議申出についての規定なし
@何らかの形で文書提出要求規定があるため または運用上自治体が開示申出を受付けるため |
北海道 石川県 奈良県
/仙台市 大阪市 北九州市
福岡市 |
A@以外 |
茨城県 広島県 |
F |
異議申出についての規定はないが、指定管理者に情報公開申出に対する判断の際の県との協議を義務づけ |
岐阜県 |
<不明>千葉県 長野県 静岡県 京都府 大阪府 岡山県 沖縄県
さいたま市 横浜市 静岡市 神戸市
上記の分類ではAよりB、BよりCの方が実施機関の関与が大きいという解釈だが、実際はAに分類された自治体でも、情報公開条例の「公の施設の管理に係る情報の公開が推進されるよう必要な指導・措置を講ずる」という規定に、異議申出の受付けに際しての指導が含まれると解釈しているケースもあると思われる。
また、ひとくくりにBとした中でも、「市が、指定管理者から不服の申出についての報告を受けた場合または請求者から直接不服の申出を受けた場合に、当初の決定等を変更し、文書等を公開し又は一部公開の範囲を拡大することが妥当であると判断したときは、指定管理者は市の判断に従い当該文書等を公開しなければならない」としている自治体(例 京都市、広島市)から、単に異議申出があった際の所管課への報告を指定管理者に課している自治体(例 川崎市)まで、関与の度合いは様々である。
むしろ区分として意味が大きいのは、必要に応じ実施機関の情報公開審査会に諮問できるとしたCで、福島県、埼玉県、滋賀県、三重県、堺市の姿勢は評価できる。
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7 |
まとめ
指定管理者の情報公開については、指定管理者を情報公開の実施機関とするよう情報公開条例を改める、という選択肢がある。実際、神奈川県藤沢市や厚木市は「処分権限のある指定管理者を情報公開条例の対象にする」という条例の改正を行っている。
しかし、今回調査対象とした都道府県・政令市はともかく、一般市や町のレベルの公の施設の指定管理者には、地域に根ざした任意団体や小規模の民間企業も参入していることから、情報公開条例の実施機関となりうることを指定管理者の条件にすることは、民間事業者の参入に高いハードルを設定することによる、情報公開とは別の観点からのデメリットも予想される。
繰り返しになるが、その意味で汎用性があるのは、文書提出要求規定を情報公開条例に盛り込むことである。残念ながら都道府県・政令市ではモデルとなる事例はなかった。
ア. |
北海道および札幌市の条例の規定は空洞化している。 |
イ. |
奈良県の条例の文言は明確な規定とはなっておらず、協定書の「資料等の提出要求への対応」においても「合理的な理由がある場合を除いて」という、裁量でどのようにも解釈できる例外が設けられている。 |
ウ. |
要綱または協定書で文書提出要求規定を設けているところは、「3 文書提出要求規定」で述べたように、不十分である。条例に盛り込むべきである。 |
以上、自治体により、様々なバリエーションがあり、自治体の意識としては、指定管理者の情報公開について、それぞれ前向きに取り組んでいると自覚しているのかもしれないが、市民の観点からすると「情報公開条例によって自治体の責任をはっきりさせる」ということが置き去りにされていると言わざるをえない。
指定管理者制度については、今後各地で問題が噴出することが懸念される。混乱を未然にふせぐ手だてとして、自治体による情報公開のいっそうの徹底と、非開示に対する司法的救済制度を確保することが不可欠である。
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この調査の集計および報告 担当
かながわ市民オンブズマン 保坂令子
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