2006.9.16−17 第13回全国市民オンブズマン福岡大会
指 定 管 理 者 制 度 調 査 報 告
全国市民オンブズマン連絡会議
.  2003年9月の地方自治法の改正で、公の施設の管理に指定管理者制度が創設されてから3年の経過措置期間が終了し、本年9月2日をもって、従来の管理委託制度は全廃となり、公の施設は、自治体の直営をのぞき、指定管理者制度へ全面移行した。この全面移行に向けて、昨年度は、全国の自治体で指定管理者の選考・指定作業が急ピッチで展開し、本年4月には、大多数の自治体で、公の施設が本格的に指定管理者による管理に移行した。
 全国市民オンブズマン連絡会議では、選考・指定作業が進んだ昨年度、9月開催の別府大会、3月発表の情報公開度ランキングの2回にわたり、指定管理者制度をとりあげ、全国調査を行った。
 そして、本年4月以降の状況を確認し、問題点を明らかにするために、3回目になる今回の調査に取り組んだ。


.
(1)
指定管理者関連のこれまでの調査
第12回全国市民オンブズマン別府大会

調査項目 : 制度導入(予定)施設数  情報公開条例改正の有無と改正の内容
協定書中の情報公開に関する条項の有無  開示請求の受付場所と宛先
提言内容 : 協定書に情報公開に関する条項を設けるだけでは不十分で、情報公開条例を改正するべき。その改正の内容も、指定管理者・指定実施機関(自治体)に対する努力規定ではなく、文書提出要求規定を明示することが望ましい。
(2) 第10回情報公開度ランキング
請求文書 : 指定管理者の公募にあたり選考で第1位になった団体が提出した応募書類一式
および選考の経過がわかる文書
結 果 : 指定管理者が民間の会社等である場合、その意向を受けて、提案書中の提案内容(企業の「ノウハウ部分」)、財務状況、人件費の積算内訳などを非開示とする自治体が多かった。選考経過の透明度にはバラツキが見られた。


今回の調査のねらいと方法

 指定管理者による公の施設の管理が本格的に始まった06年4月時点の導入状況と、情報公開制度の整備状況を点検する目的で、5月中旬に自治体の情報公開担当宛てにアンケートのフォームをメール送信し、6月中に回答を得た。対象は、全都道府県と政令市。
昨年の全国大会では情報公開に絞って調査したが、今回は導入状況についても概況の把握を試みた。

調 査 結 果
T 指定状況
調査項目は次のとおり。
 1 指定管理者の管理運営に移行した施設総数
 2 ジャンル別施設数
(社会福祉施設および保育園の運営形態の移行状況)
 3 事業者の内訳
1 施設総数
(1) 指定管理者制度導入比率
 本調査では、各自治体が設置する公の施設全体に占める指定管理者制度導入施設の比率については調査項目としなかったので、「日経グローカル」誌(54 06.6.19刊)(*注)の調査結果を参考として紹介すると、自治体が設置する公の施設のうち、指定管理者制度を導入した施設は都道府県で58.7%と6割に迫るが、政令市では29.4%にとどまる(06年4月1日現在)。
(*注)全都道府県と全市区を対象に指定管理者制度導入調査を行い、47都道府県と692市・東京23区から回答を得た調査結果を掲載

(2) 指定管理者制度導入施設総数
 指定管理者を導入した施設の総数には、都道府県で10(京都府)〜599(兵庫県)、政令市で52(堺市)〜754(横浜市)と極端な幅がある。
この極端な幅は、
ア. 県営・市営住宅の施設運営に指定管理者制度を導入しているかどうか、
イ. 導入している場合、個々の団地をカウントしているか(例 横浜市267 広島市248 )、全体を1つと捉えているか(例 愛知県は304団地を1とカウント)
によるところが大きい。自治体からの回答は、横浜市方式と愛知県方式と2通りで寄せられているが、便宜的に愛知県方式で県営・市営住宅が含まれる場合は1つと数えると、導入施設数(指定済み施設数)の特に少ない自治体、多い自治体は以下のようになる(カッコ内は施設数)。
導入施設数が特に少ない 導入施設数が多い
都道府県
(30施設以下)
京都府(10)沖縄県(13)
奈良県(14)三重県(17)
青森県(26)新潟県(26)
愛媛県(26)長野県(30)
都道府県
(100施設以上)
東京都(211)島根県(119)
岡山県(102)愛知県(100)
政令市 30施設以下はなし
少ない順に 堺市(52)
静岡市(93)
政令市
(100施設以上)
左記3市以外の12市
多い順に 横浜市(488)
神戸市(436)広島市(334)
(参考 横浜市方式で、導入施設総数を出すと、施設数の多い順に、横浜市(754)、北九州市(702)、
神戸市(647)、兵庫県(599)、広島市(581)、大阪府(444)、名古屋市(404)となる。)
 導入施設数そのものの比較よりは、(1)で述べた、公の施設全体に占める導入施設数の比率の方が、制度導入の進捗状況を示すと思われるが、本調査では施設数しか集計しなかった。しかし、京都府、奈良県で導入率が低いことは、施設数からも明らかである。上述の「日経グローカル」誌も、都道府県で導入率が最も低いのは京都府(4.5%)、次いで奈良県(13.5%)であると指摘している(逆に導入率が90%を超えているのは、大阪府、愛知県、宮城県)。
 導入施設数が多い自治体の中では、自治体の規模からすると島根県(119 県営住宅を入れると214)の多さが目立ち、指定管理者制度の積極的導入をはかったことがうかがわれる。

2 ジャンル別施設数
 今回の調査では、公園、野外施設、公営住宅等、施設を17に分類して、それぞれ指定管理者による管理運営に移行した施設がいくつあるか尋ねたが、15都道府県と4政令市は、その分類によらず、「集中改革プラン策定」における総務省提示の施設分類(5〜6分類)にそっての回答であったため、全体をならした結果は得られなかった。そこで、要チェックと思われるジャンルに限って見ていくことにする。
(1) 図書館・公営住宅・病院
 施設によっては、指定管理者制度の導入に不安や疑問の声が出ている分野もある。調査対象のほぼ全ての自治体が設置する公の施設のうち、図書館、県営・市営住宅、病院は、指定管理者による管理に移行したところとそうでないところに分かれた。概観すると次のようになる(総務省型分類で回答してきた自治体は、図書館・病院については数が把握できず、不明として除外)。
指定管理者制度導入施設あり 指定管理者制度導入施設なし 不明
図書館 岩手県/広島市 北九州市 青森県 東京都など40自治体 19自治体
公営住宅 右の11府県3市を除く
48自治体
群馬県 新潟県 福井県 
岐阜県 静岡県 京都府 
奈良県 和歌山県 岡山県
愛媛県 高知県
/京都市 大阪市 堺市
病院 東京都 福井県 京都府 
大阪府 福岡県
/札幌市 仙台市 横浜市
京都市 広島市 福岡市
左の5都府県6市を除く
広島県 大阪市など32自治体
19自治体
(2) 社会福祉施設
 特に社会福祉施設と保育園については、指定管理者制度導入前に自治体が保有していた施設が、指定管理者制度導入後の06年4月1日時点でその運営形態がどのように変化したか質問したところ、次のような結果となった。
(福祉施設の総数が5以下の自治体は除く。カッコ内の数字は社会福祉施設総数に占める比率)
都道府県 政令市
自治体直営施
設が65%以上
長野県(93%)北海道・静岡県(ともに71%)
千葉県(71%)富山県(67%)
広島市(80%)名古屋市(78%)
堺市(74%)千葉市(70%)
直営と指定管
理者がほぼ同
数(10%以内
の差)
茨城県 東京都 福井県 三重県 奈良県
鳥取県 山口県 徳島県 愛媛県 福岡県
なし
指定管理者制
度導入施設が
65% 以上
熊本県(91%)福島県(90%)鹿児島県(88%)
岐阜県(87%)大分県(83%)和歌山県(81%)
愛知県(79%)滋賀県・兵庫県(ともに76%)
香川県(75%)秋田県・山形県・埼玉県(ともに
68%)
横浜市(91%)川崎市(87%)
神戸市(77%)
さいたま市(66%)
北九州市(66%)仙台市(65%)
民営移行施設
が40%以上
岩手県(60%)徳島県(50%)沖縄県(48%)
奈良県(47%)鳥取県(46%)長崎県(43%)
なし(多くて福岡市の22%
京都市の21%)
(3) 保育園(保育園については政令市にのみ質問)
今回の調査時点では、自治体直営の形態を維持している政令市が多かった。
100%直営 仙台市、さいたま市、千葉市、静岡市、名古屋市の5市
90%以上の施設を直営 横浜市、川崎市、大阪市、神戸市、広島市の5市
直営が50%以下 京都市(直営46% 指定管理者4% 民営化50%)
北九州市(直営50% 指定管理者22% 民営化28%)
指定管理者による施設
の比率が2桁以上
北九州市と札幌市(17%)の2市のみ
民営化した施設の比率
が2桁以上
京都市、北九州市、堺市(28%)、福岡市(22%)の4市

3 指定管理者になった事業者の内訳
 調査では、以下の分類に該当する事業者数を尋ねた(指定管理者が複数の事業者からなる場合は代表格の事業者の種別で回答)。
@ 民法上、商法上、特別法上の法人であるかを問わず、自治体の出資が50%以上の団体
A 民法上、商法上、特別法上の法人であるかを問わず、自治体の出資が25%以上の団体
B 民間企業(但し@Aに該当するものは除く)
C NPO等団体 
D任意団体、組合 その他
(注 この@〜Dの分類は、日経グローカル誌の調査あるいは毎日新聞社の調査(06.8.21朝刊掲載)とは若干異なるので、以下に述べる出資法人比率、民間事業者比率等は両調査の結果の数値と異なる場合がある。)
集計上の問題点については先に「導入施設総数」の箇所でも述べたが、事業者の内訳についても、
ア. 施設数で問い合わせたが、指定管理者数(公募の単位数)で回答を寄せた自治体がある
(1指定管理者が複数の施設で指定されることがあるので施設数と指定管理者数は一致しない)
イ. 公営住宅で、「個々の団地をカウント」「指定管理者数をカウント」「公募の単位をカウント」している自治体が混在
ウ. 公営住宅は施設数が非常に大きいので、個々の団地をカウントすると、全体の状況が把握しづらくなる(住宅供給公社が指定管理者になっていると、出資団体の比率がはねあがってしまう。日経グローカル誌や毎日新聞社の調査の数値はこちらの方式によるもの。)
といったことがあげられる。

 集計結果は、本文末尾 表−1のとおりであるが、上に述べたことを考慮して、県営・市営住宅を個々の団地数でカウントしている自治体については、団地数を指定管理者数に引きなおして全体の内訳比率を再計算した数値を「C」として掲げてある。
 このやり方(C の数値が出ている自治体についてはそちらを採用)にもとづいて、事業者の種別ごとの導入施設数の比率(導入施設全体に占める割合)の平均を見ていくと、
都道府県 自治体の出資が50%以上の団体(30%) 自治体の出資が25%以上の団体(7%) 
民間企業(19%) NPO等団体(3%)  任意団体、組合他(42%)
政令市 自治体の出資が50%以上の団体(41%) 自治体の出資が25%以上の団体(3%) 
民間企業(14%) NPO等団体(3%)  任意団体、組合他(39%)
という結果で、出資団体がともに約4割を占め、民間企業は2割弱にとどまることがわかった。


 さらに、事業者の種別ごとに比率の高い自治体を抜き出してみると、次のようになる。
(団地数のカウントを変えても上位ランキングに変化がない場合は備考欄に「左記のとおり」と記載)

事業者の種別 比率が高い自治体
 (団地数=指定管理者数で算出)        
(備考 : 個々の団地をカウントし
て算出した場合の上位ランキング)
出資団体
(出資50%と出
資25%の団体の
合計)
1大阪府(63%) 2富山県(62%)
3埼玉県、山梨県、徳島県、愛媛県
(58%)
1兵庫県(90%) 2広島県(89%)
3愛知県(84%) 4宮城県(83%)
5山形県(77%)
1さいたま市(88%) 2仙台市
(79%)
3広島市(74%) 4札幌市(70%)
5堺市(64%)
(左記のとおり)
民間企業 1東京都(63%) 2奈良県(57%)
3静岡県(42%)
4青森県、京都府、香川県(40%)
1東京都(63%) 2奈良県(57%)
3青森県、石川県(56%) 
5静岡県(42%)
1川崎市(47%)2福岡市(26%)
3神戸市(21%) 以下略
(左記のとおり)
NPO等団体 1長野県(17%) 2岩手県(13%)
3和歌山県、愛媛県(12%) 
5京都府(10%)
(左記のとおり)
1堺市(15%)2福岡市(8%) 
以下略
(左記のとおり)
任意団体ほか 1神奈川県(93%) 
2茨城県、岡山県(84%)
4福島県(77%) 5長崎県(65%)
団地数を指定管理者数に変えると
1岡山県(84%) 2福島県(77%)
3神奈川県(67%) 4長崎県(65%)
5和歌山県(60%)
1名古屋市(76%) 2神戸市(73%)
3横浜市(67%) 4大阪市(66%)
5京都市(64%)
1大阪市(66%) 2京都市(64%)
3名古屋市(63%) 4神戸市(59%)
5北九州市(53%)

 上の表から特に顕著な点をあげれば
ア.  先に公の施設全体に対する指定管理者制度の導入率が高いとして紹介した大阪府、愛知県、宮城県は、出資団体が占める割合が高い。愛知県、宮城県は団地数をカウントした比率なので、当然とも言えるが、大阪府は団地数を1つとカウントしての1位である。
イ.  東京都の民間企業参入状況は、施設数で132箇所、比率で63%である。 20%以下の自治体が過半数を占めるなか突出している。それに比べると政令市での民間企業参入は14%と奮わなかった。
(参考 日経グローカル誌は東京都が民間企業を指定管理者にした施設を30としているが、株式会社に限ったものと思われる。オンブズの分類だと、25%以上の出資法人でない社会福祉法人等も含まれる)
ウ.  NPO法人等の参入率は総じて低かった。
エ.  神奈川県は、公募率の高さを考えると、結果的に任意団体が占めた比率(93%。県営住宅を1と数えても67%)は、際だって高いといえる。対照的に民間企業は3団体(1%)しか参入していない。
一方、政令市で、任意団体の比率が高いところは、公園やコミュニティセンターなどの地域の市民利用施設の指定管理者に、自治会がらみの地域団体が選ばれるなどの動きが影響していると思われる。
オ.  民間企業の参入が3施設以下のところは次の1道10県である。
北海道、福島県、茨城県、栃木県、神奈川県、福井県、三重県、鳥取県、岡山県、愛媛県、高知県

4 まとめ
 公募時・選定経過の透明度については、情報公開度ランキングの際に取り上げたので、今回は現在の状況の把握に主眼をおいた。指定管理者を公募した施設と非公募の施設に分けての状況把握、当該施設を従来の管理委託制度のもとで管理していた事業者がそのまま指定管理者に横滑りした比率等と組み合わせて調査できれば、より実態を浮き彫りにできたかと思われるが、そこまでは手がまわらなかった。
 今回集約したデータは、各地のオンブズマンがそれぞれの地元の状況を点検する際に参考にしていただきたい。

U 情報公開
 昨年の別府大会の時点では指定管理者制度が導入済みの施設がない自治体もあったが、この1年間で状況は大きく変わった。情報公開に関連する状況の変化としては、
 ア. 指定管理者制度導入にともなう情報公開条例の改正をしていない自治体が
都道府県 24→8 政令市 9→8 と若干減った。
 イ. 多数の自治体が指定管理者の情報公開について、要綱等の規定を作成した。
 ウ. 多数の自治体が個々の指定管理者に情報公開規程等の作成を課した。
 エ. 指定管理者による管理運営の開始に先立ち、実施機関と個々の指定管理者の間で協定書が締結され、情報公開についての規定が盛り込まれた
といったことがあげられる。
 こうした状況の変化を受けて、今回の全国調査では、以下の項目について調べた。
(1) 情報公開条例改正状況
(2) 指定管理者の情報公開についての要綱等 規定作成の有無
(3) 指定実施機関に協定書の雛型を提示したか
(4) 個々の指定管理者に情報公開規程等の作成を課しているか
(5) 文書提出要求規定が条例、要綱等の規定類、協定書にあるか
 この(1)〜(5)の項目について、以下調査結果を【表−2】にそって述べ、加えて異議申出について見ていく。

1 情報公開条例改正状況 【表−2 1列】
 今回の調査時点で指定管理者制度導入にともなう情報公開条例の改正を行っていない自治体は、
     茨城、千葉、石川、長野、静岡、京都、大阪、沖縄の8府県
     仙台、横浜、静岡、京都、神戸、広島、北九州、福岡の8政令市 である。
 このうち、下線の2県3市は文書提出要求規定(後述)を何らかの形で設けており、それをもって、情報公開条例を改正することなく指定管理者の保有する情報の開示請求に対応できる、とするスタンスであると思われる。
(参考:北九州市からは、「指定管理者が持つ“管理に関する情報”は行政に帰属するものであり、実施機関(行政)が保有している。また、実施機関が保有していない情報は、地方自治法244の2第10項を根拠に報告させることができる、という理由により、情報公開条例の改正を行っていない」という見解が示された。広島市も地方自治法244の2第10項を根拠に文書提出要求規定を設ける必要はないという見解。しかし、同項により報告させるかどうかは自治体側の判断にかかっているから、市民にとって権利を保障されたとは言いがたい。)

2 情報公開条例改正類型 【表−2 2列】
(1)  改正類型については、昨年の全国大会時の報告と大勢は変わっていない。すなわち、
 ・指定管理者に対し    →「情報公開への努力/必要な措置」を課す
 ・実施機関(行政)に対し→「指定管理者の情報公開が推進されるよう努力/
                  指導/必要な措置」を課す
という内容が、都道府県で39改正例中37、政令市で7改正例中6と圧倒的多数を占めた。
 表‐2では要約して記載したが、細かく見ると努力規定の域をでないものと、義務づけの度合いが強いものとで差違がある。この範疇で若干異なった表現となっているのは、岩手県(協定書に情報公開のために指定管理者が講ずべき措置の記載を義務づけ)と徳島県(実施機関に協定に講ずべき措置の明記・指導義務づけ)で、また、指定管理者の努力義務の中に情報公開規定(後述)の作成を明示しているのは宮城県である。
 「必要な措置」が実際に何を指すのか、要綱等の補足的な規定を見てもわかりにくい自治体が多かった。神奈川県のように、実施機関が行う指導・支援について別に要綱を設け、具体的に明示してあると理解しやすい。

(2)  昨年の全国大会の報告で、自治体が責任を持って市民の知る権利を保障する、という視点から望ましい条例改正として提案したのは、文書提出要求規定を設けた類型である。都道府県・政令市にあって外形的にこれに該当するのは、北海道と札幌市の2自治体である。この2自体の条例を、下記に付した神奈川県逗子市の条例と比べると、ひとつには請求権の明示がないことがあげられるが、2自治体の下位の規定(事務取扱の要綱や要領)と合わせて見るとさらに決定的な違いがある。
 この2自治体では、実施機関が請求を受付けて指定管理者に文書を提出させても、それは単なる中継ぎであって、情報公開条例の適用を受ける行政文書にはならず、諾否決定はあくまで指定管理者が行う、としているのである。
 札幌市条例の該当箇所は次のとおり(北海道は出資法人の情報公開を準用)。これを一見すると、提出された文書は公文書として情報公開条例の対象になりそうだが、2自治体は公文書にならないとしており、非公開とされても行政処分として争うことはできない。

第22条の2  指定管理者(地方自治法第244条の2第3項に規定する指定管理者をいう、以下同じ。)は、その保有する文書であって自己が管理を行う同法第244条第1項に規定する公の施設に関するものの公開に努めるものとする。
2 実施機関は、前項の公の施設に関する文書であって実施機関が保有していないものに関し閲覧、写しの交付等の申出があったときは、当該指定管理者に対し、当該文書を実施機関に提出するよう求めるものとする。
3 前2項の文書の範囲その他これらの規定による文書の公開及び提出に関し必要な事項については、実施機関が定める。
比較のため、逗子市の条例の該当箇所を掲げる。
(指定管理者に関する特例)
第23条 指定管理者(中略)は、同法第244条第1項に規定する公の施設に関する情報(当該指定管理者が公の施設の管理を行うに当たって保有するものに限る。以下この条において同じ。)の公開に努めなければならない。
2 何人も、指定管理者を指定した実施機関(以下「指定実施機関」という。)に対し、前項の情報について公開請求をすることができる。
3 指定実施機関は、前項の公開請求があったときは、指定管理者に対し、当該情報を提出するよう求めなければならない。

(3)  上記(1)、(2)に含まれない例が奈良県である。条例では
第32条の2 県は、地方自治法第244条の2第3項の規定により指定管理者に公の施設の管理を行わせるときは、当該指定管理者の保有する当該管理に関する情報の収集に関し必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の情報の収集に関しては、地方自治法第244条の2第3項の規定による指定に係る協定において定めるものとする。
とあるだけだが、協定書における以下の記述と合わせると文書提出規定の構成となる。 しかし、「必要があると認め資料等の提出を求め」るどうかは実施機関の判断にかかっており、市民の権利を保障するものとはなっていない。
(資料等の提出要求への対応)
第31条 地方自治法第244条の2第10項の規定に基づき報告を求める場合のほか、甲(実施機関)が必要あると認め資料等の提出を求めた場合は、合理的な理由がある場合を除いて乙(指定管理者)はこれに応じなければならない。
(情報公開)
第52条 乙が甲に提出した文書等は、奈良県情報公開条例第2条第2項に規定する行政文書として同条例の適用を受けるものとする。

3 文書提出要求規定【表−2 3列・7列】
 上記の文書提出要求規定が、情報公開条例ではなく、要綱や協定書に盛り込まれた事例は、奈良県も含めると全9事例ある。
 しかし、要綱は行政内部の法規で市民と行政との権利・義務関係を定めるものではなく、また協定書は実施機関と指定管理者の2者間の取り決めにすぎない。
 これら9事例では、指定管理者から提出された文書は行政文書として情報公開条例の適用を受けるので(上記奈良県の条例参照)、開示請求への諾否決定は実施機関が行う。しかし、指定管理者が文書提出を拒んだ場合は、「実施機関が保有する文書」という行政文書の要件を満たさず、市民が訴訟で指定管理者の文書の公開を求めようとしても、目的が達成できるとは言い難い。

4 指定管理者への情報公開規程等作成義務づけ【表−2 4列・6列】
 行政不服審査法にもとづく、非開示(一部開示)決定に対する救済制度が適用されるか否かということはひとまずおくとして、実施機関にではなく指定管理者に文書の請求をして開示される要件としては、個々の指定管理者が情報公開に関する規程等を設けることがあげられる。これについては、条例から導かれる自治体は少なかったが、要綱等の規定類または協定書で作成を課しているという自治体は35府県6政令市と多数を占めた。
 多くの条例改正例に見られた「実施機関は必要な措置を講ずる」という文言が、具体的には、個々の指定管理者が情報公開規程等を作成するよう、指導したり、義務づけたりすることを含むのかどうかという点については、原則的に条例の文言からのみ判断したが、「含む(あるいはイコールである)」という条例の解釈運用基準を示してきた自治体については、その内容を加味して判断したものである。

5 指定管理者のみが保有する文書を請求した場合の開示の可能性【表−2 8列】
 条例、諸規定、協定書の外形的判断にもとづいて開示の可能性をおおまかに予測してみた。
 何らかの形で情報公開条例を改正していて、条例以外(要綱等の諸規定や協定書)で文書提出要求規定を設けている3県1政令市(奈良県、岡山県、佐賀県、大阪市)には○、同様に文書提出要求規定は設けているが情報公開条例に全く手をつけていない2県3政令市(千葉県、石川県、仙台市、北九州市、福岡市)は、区別して△をつけている。
 無印は、実施機関が取りあえず何らかの形で指定管理者に情報公開規程等の作成を課しているところ。情報公開条例等により、実施機関の指定管理者の情報公開に対する指導、措置などはうたっているが、請求に対する諾否決定は指定管理者に委ねた形になっているため、実際の制度運用では結果にバラツキが予想される。
 個々の指定管理者への情報公開規程等の作成の義務づけがなく、文書提出要求規定もないところは、外形的判断で開示の可能性が他よりも低いとして、▲をつけた。8府県3市ある。このうち、茨城県、長野県、静岡県、大阪府、沖縄県、横浜市、静岡市、神戸市は情報公開条例の改正も行っておらず、指定管理者制度導入にともなう情報公開制度の整備が立ち遅れていると言わざるをえない(このうち神戸市からは、情報公開について必要な措置を講ずるよう協定書に規定しており、文書提出要求を含めた対応を想定しているとの回答を得ているが、データとして確認できなかった)。
 北海道と札幌市(※印)は条例の規定が外形的には文書提出要求規定型であるのに、規定の文言が生かされていない。
6 異議申出について【表−2に記載なし】
 これまで見てきたように、指定管理者の情報公開については、情報公開条例に文書提出要求規定を設け、提出された文書は行政文書として実施機関が諾否決定を行い、不服申立にも対応する、という仕組みが最善であると考える。しかし、実際には、そのようにはなっているところはなかった。
 非開示(一部開示)決定を請求者が不服とした際の現行の対応についてまとめると、下表のようになる。(提供された情報が不十分で判断ができなかったところは、枠外に「不明」とした)
異議申出の取扱いについての規定の内容 自治体名
非開示(または一部開示)決定を受けた請求者は、決定を行った当該指定管理者に異議の申出を行うことができる。申出を受けた指定管理者は、決定について再検討を行い、結果を文書で回答する。 東京都 新潟県 愛知県 
和歌山県 鳥取県 島根県 
香川県 佐賀県 熊本県
/札幌市
A+指定管理者は再検討に際し、自ら設けた審査会(徳島県)・検討会(鹿児島県)の意見を聴く。 徳島県 鹿児島県
A+指定管理者は再検討に際し、指定実施機関(自治体)に報告し、その助言を求めたり、協議を行い、実施機関から助言等があった場合はその意見を尊重する。   青森県 岩手県 宮城県 
秋田県 山形県 群馬県 
神奈川県 富山県 福井県
山梨県 兵庫県 山口県 
愛媛県 高知県 大分県
長崎県 宮崎県/
千葉市 川崎市 名古屋市 
京都市 広島市
B+指定管理者は再検討に際し、自ら設けた審査会の意見を聴くことが望ましい 福岡県
B+知事は必要に応じて情報公開審査会の意見を聴く 福島県 埼玉県 滋賀県 
三重県/堺市
開示決定等について苦情がある者は、指定管理者に対し書面により苦情を申出ることができ、指定管理者は書面により回答する。(←Aに相当)当該回答に対し更に苦情のある者は、所管課に対し「苦情申出書」を提出でき、所管課長は調査審議の上、回答するとともに、指定管理者に対し、当該回答に沿って対処するよう指導する。(←BあるいはCに相当) 栃木県
異議申出についての規定なし
@何らかの形で文書提出要求規定があるため または運用上自治体が開示申出を受付けるため
北海道 石川県 奈良県
/仙台市 大阪市 北九州市 
福岡市
A@以外 茨城県 広島県
異議申出についての規定はないが、指定管理者に情報公開申出に対する判断の際の県との協議を義務づけ 岐阜県 
<不明>千葉県 長野県 静岡県 京都府 大阪府 岡山県 沖縄県 
さいたま市 横浜市 静岡市 神戸市  

 上記の分類ではAよりB、BよりCの方が実施機関の関与が大きいという解釈だが、実際はAに分類された自治体でも、情報公開条例の「公の施設の管理に係る情報の公開が推進されるよう必要な指導・措置を講ずる」という規定に、異議申出の受付けに際しての指導が含まれると解釈しているケースもあると思われる。
 また、ひとくくりにBとした中でも、「市が、指定管理者から不服の申出についての報告を受けた場合または請求者から直接不服の申出を受けた場合に、当初の決定等を変更し、文書等を公開し又は一部公開の範囲を拡大することが妥当であると判断したときは、指定管理者は市の判断に従い当該文書等を公開しなければならない」としている自治体(例 京都市、広島市)から、単に異議申出があった際の所管課への報告を指定管理者に課している自治体(例 川崎市)まで、関与の度合いは様々である。
 むしろ区分として意味が大きいのは、必要に応じ実施機関の情報公開審査会に諮問できるとしたCで、福島県、埼玉県、滋賀県、三重県、堺市の姿勢は評価できる。

7 まとめ
 指定管理者の情報公開については、指定管理者を情報公開の実施機関とするよう情報公開条例を改める、という選択肢がある。実際、神奈川県藤沢市や厚木市は「処分権限のある指定管理者を情報公開条例の対象にする」という条例の改正を行っている。
 しかし、今回調査対象とした都道府県・政令市はともかく、一般市や町のレベルの公の施設の指定管理者には、地域に根ざした任意団体や小規模の民間企業も参入していることから、情報公開条例の実施機関となりうることを指定管理者の条件にすることは、民間事業者の参入に高いハードルを設定することによる、情報公開とは別の観点からのデメリットも予想される。
 繰り返しになるが、その意味で汎用性があるのは、文書提出要求規定を情報公開条例に盛り込むことである。残念ながら都道府県・政令市ではモデルとなる事例はなかった。
ア.  北海道および札幌市の条例の規定は空洞化している。
イ.  奈良県の条例の文言は明確な規定とはなっておらず、協定書の「資料等の提出要求への対応」においても「合理的な理由がある場合を除いて」という、裁量でどのようにも解釈できる例外が設けられている。
ウ.  要綱または協定書で文書提出要求規定を設けているところは、「3 文書提出要求規定」で述べたように、不十分である。条例に盛り込むべきである。

 以上、自治体により、様々なバリエーションがあり、自治体の意識としては、指定管理者の情報公開について、それぞれ前向きに取り組んでいると自覚しているのかもしれないが、市民の観点からすると「情報公開条例によって自治体の責任をはっきりさせる」ということが置き去りにされていると言わざるをえない。
指定管理者制度については、今後各地で問題が噴出することが懸念される。混乱を未然にふせぐ手だてとして、自治体による情報公開のいっそうの徹底と、非開示に対する司法的救済制度を確保することが不可欠である。 

この調査の集計および報告 担当
かながわ市民オンブズマン 保坂令子