自治体を「談合業者・悪徳業者の守護神」にする住民訴訟制度の改悪に反対する
2001年8月5日
全国市民オンブズマン連絡会議
第8回京都大会参加者一同
 今年3月9日、政府は住民訴訟制度の性格を根本的に変える法案(地方自治法改正法案)を国会に上程した。法案は、さきの国会では継続審議となったが、政府は次の国会での成立をねらっている。
 住民訴訟はこれまで、地方自治体の違法な財務会計行為を是正する上で大きな役割を果たして来た。市民オンブズマン活動においても情報公開請求と監査請求・住民訴訟は車の両輪だ。今回の法案は、住民訴訟制度を骨抜きにした上、地方自治体に「住民訴訟つぶし」の主役をつとめさせようとするものである。われわれオンブズマンは、次の理由により、この法案に断固反対する。
1.住民訴訟の諸類型の中でも、住民が自治体になり代って、不法な利益を得た第三者や重大な任務違反をした首長らの責任を追及するという類型の訴訟〈代位請求訴訟〉の数が最も多い。
 今回の法案が成立すると、住民が第三者や首長個人を直接訴えることは禁止され、自治体の執行機関に対して間接的に「『損害賠償等の請求をすること』を請求する」訴訟(!)を提起するという迂遠な方法だけが許される。
 この「第1ラウンド」の訴訟において原告住民側が「第三者や首長は違法行為をした、クロである」と主張・立証するのに対して被告自治体側は、「彼らの行為は適法である、シロである」と応戦することになる。つまり、これまでのように住民が自治体を代位するという関係はなくなり、住民と地方自治体の関係は敵対的なものとみなされ、自治体の努力は住民訴松をつぶすことに向けられる。もちろん被告側弁護士の費用は自治体の公金から支出される。 そして「第1ラウンド」で住民の勝訴が確定すると、最終的解決のための「第2ラウンド」が始まるが、ここでは住民の出る幕はない。自治体がそれまでの姿勢を一転して(?)、第三者や首長の責任を追及するという、密室内お手盛方式である。
 野球にたとえれば自分のチームのエースがなんと相手チームのマウンドに立ち(第1ラウンド)、ようやくこれを打ち負かしたのに、「優勝決定戦」は、相手チームだけで、それもグラウンド上でなくロッカールームの中でやる(第2ラウンド)というようなものである。
2.政府は「住民訴訟の被告となるという負担から首長や職員を解放する」ためにこのような制度改革が必要だ、と言うが、この説明は間違っているし、この説明は真っ赤なウソだ。
 第1に、新しい制度ができると、自治体が身体を張って庇うのは首長や職員だけではないということが隠されている。代位請求訴訟のうち約4分の1は、談合業者など自治体と取引をした第三者を被告とするものだ。たとえば1昨年公正取引委員会が摘発したゴミ焼却炉談合は、三菱重工業など大手機械メーカー5社が4年余りの間に60件の工事について談合を行ったというケースだが、受注金額は合計9260億円にのぼる。この60件のうち18件(受注金額4800億円)について、全国で11のオンブズマンによる住民訴訟が進行中だ。 賄賂を使って公有地を安く払下げさせたり、民間では売れない土地を自治体に高く買い取らせたりした悪徳業者を被告とする訴訟もある。請求金額を基準にすれば代位請求訴訟の大部分は第三者を被告とする事件だと言ってよい。
 このような第三者被告事件についても、自治体を談合業者を庇う側、つまり住民訴松を圧殺する側に立たせようとするのがこの法案の特徴である。
 第2に、被告とされる首長や職員個人は、現行法の下でも自治体による十分な庇護を受けている。すなわち自治体が被告側に参加することを申出た場合には、裁判所はほぼ例外なくこれを許可している。首長や職員個人と自治体とが同じ弁護士を依頼することにより、その費用は実質的に自治体が負担している。自治体の参加がはばかられるような事件でも、結果として首長・職員側が勝訴すれば、弁護士費用は自治体が負担する。被告として住民訴松を受けて立つ首長・職員は、現行法の下でも「親方日の丸」の「殿様訴訟」をやっている訳である。
 第3に、住民訴訟の数は、全国市民オンブズマン連絡会議の設立以後増加しているとは言え、3300の自治体に対し提訴件数は1年間に260件程度にとどまる。平均して都道府県と政令市は1年に1件、一般市は10年に1件の割合にすぎない。このことは黙過できない事案だけが訴訟こ持ち込まれている、ということを意味する。真面目に働いている普通の公務員にとって住民訴訟が「負担」であるなどと呼ぶには、100年は早いと言うべきだろう。
3.要するに、「住民訴訟の被告となるという負担から首長や職員を解放する」いうのは全くの口実に過ぎない。法案のねらいは自治体を首長・職員だけでなく、談合業者や悪徳業者ら遵法行為者すべての「守護神」にすることにある。このことは、「住民訴訟つぶし」のために多数の公金を投入することであり、また自治体と談合業者・悪徳業者との癒着を促進することに他ならない。
 われわれはこの第8回京都大会を契機として、地方行財政の浄化、住民自治の確立や住民参政権の伸長をめざす、すべての国民と手をつないでこの悪法の成立を阻止する運動を展開する。
以上