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ランク付けの決定方法について
A〜Eのランク付けにあたっては、個別テーマごとにA〜Eの評価をした。その上で、例えば、3テーマの監査報告がある自治体で、各テーマの評価がそれぞれA・B・Cである場合、その中で最も良いAを採用した。このやり方は、B・C・D・Eについてもほぼ同様である。
但し、例えば、2テーマの報告がある場合に、それぞれの評価がBとEの場合とCとDの場合では不公平な評価になるというもっともな批判も生じよう。しかし、評価班では、原則として複数テーマがある場合は、監査人が最も良い評価となったテーマを中心に監査を行ったものとして、以上のようなランク付け方法を採用したものである。
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2. |
今回の総合A評価は、都道府県では宮城県・長崎県・沖縄県、中核市の福山市、それに条例市の八王子市の監査報告書5つである(以下、自治体名で評価を付すが、それは当該自治体の監査報告書のことである)。長崎県は1テーマでA、その他は複数テーマのうちの1つでA評価を獲得し、総合評価でAとした。宮城県・沖縄県は、今回監査人が変わっている。福山市・八王子市は、昨年評価をしなかった監査人のものである。これらの監査結果は、すみやかに行政上措置をとってしかるべき(そうでない場合は住民監査請求の対象となるぐらい具体的な)ものがある。
長崎県は、県の外郭団体に対する委託費等の支出が不当に高額であること、随意契約に根拠がないことを、具体的な事例を挙げて鋭く追及している。また、県の反論を紹介し、その反論に対しても理由にならないことを論証している点は、高く評価できる。
沖縄県は、今各地で問題になっている第三セクターの問題について、特に需用過大予測に焦点を当て、その原因をモノレールの計画決定の過程を追いながら具体的に解明している。
宮城県は、今年もよく調査し検討されていた。監査人が変わってもA評価という点は、監査人の能力や努力によるのはもちろんであるが、市民オンブズマン活動も盛んであり、知事が市民オンブズマンを「必要な敵」と言い、自ら耳の痛いことを指摘してもらってよいという姿勢で、遠慮なく具体的な指摘や意見を言いやすいところにもあるとも思われる。
福山市は、個別A評価とした委託も、個別B評価とした補助金も、適法性監査の良い例を示している。有効性を含む3E監査にもよく踏み込んでいる。
八王子市は、報酬額は都道府県のレベルと比べると格段に低い(836万3,250円)が、内容的に優れておりAであった。経費的にも努力されていることが伺える。費用額が監査の内容・質の言い訳にならない証拠である。2つのテーマのうち補助金については、309件の補助金等すべてについて3Eの観点からも監査を行い、問題点を類型化し、市に必要な措置を講じるよう求めていて活用度は高い。監査人の指摘を受けて、補助決定を取り消したものも現れている。また、市の保有土地に関するテーマも、土地開発公社についてさまざまな角度から問題点を指摘し、公社の存在意義やディスクロージャに対する意見は参考になる。監査結果に対しいずれのテーマも市の積極的な対応が問われており、活用度の高い監査として評価した。
今回のA評価についても、私達は手放しで評価するものではない。班内でも評価について異論があったものもある。しかしながら、@外部監査人として誠実な職務遂行がはっきり認められるもの、A行政現状の追従や一般的な改善意見だけでなく独自の見識が認められるもの、B今後の外部監査例として他の参考になり得るもの、C自治体にとっての活用性などを考慮し、圧倒的多数の評価でA評価とした。
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3. |
総合B評価は、北海道、埼玉県、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、島根県、広島県、高知県、福岡県、鹿児島県、仙台市、横浜市、京都市、大阪市、福岡市、北九州市、長野市、静岡市、浜松市、豊橋市、堺市、和歌山市、長崎市、文京区の計29自治体である。
これらの監査の中には、個別テーマによってはD・E評価の含まれるものもあり、これらについては今後特に改善を求めたい。また逆に、総合評価はBとしたが個別評価としてはAに近い努力の認められたものがあった。
病院で言えば、昨年A評価の横浜市の監査例があり、今年病院を対象としたものはこれに及ばなかった。この意味で、病院については、特別の新視点がないとAにならないのは厳しすぎるという意見と、先例に学ぶことができるのだからという意見がある。
今回の自治体の中でも2番目に報酬の安い文京区は、行政サービスコストの検討をテーマに、対象となる施設ごとに個別の損益分析を行い、施設ごとの運営状況を対比し、個別に改善点を指摘していて活用性も高い。コストの削減に伴う施設の統廃合だけでなく、効率的運営による図書館の夜間開館や日曜開館の可能性にも言及している点は評価できる。行政サービスにおけるコスト対効果の観点からの指摘は、今後の業務改善を考える上で参考になる。
昨年D(今年のE)評価であった京都市は、2つの対象ともB評価となった。同じ監査人であるが、著しい向上のあとが見られるし、その作業の労も判る。私達の厳しい批判に実践をもって応えられたことは、誠にうれしいところである。
鹿児島県は、今年地方自治法改正で問題となった政務調査費を取り上げ、議会各会派の会計処理の杜撰さを明らかにしている。情報公開に触れていない点が減点となった。
長崎市の二つのテーマのBのうち一つは、衛生公社について採算は難しくても廃止できないことを踏まえて、直営化、委託制、補助金制、完全民営化の4パターンを比較検討したユニークな提言を行っている。
島根県は、貸付金業務に対象をしぼり、豊富な問題事例をあげて、実務的に活用度の高い具体的な提言や、制度の根本に迫る提言を多数行っている。
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4. |
総合C評価は最も多い。33自治体である。
その評価の根拠は総括表に記載したが、総じて言えることは、@具体的な調査を尽くす(そのテーマと範囲、深さを考慮する)、A調査の結果に基づく現行行財政の是非を明確にすること、Bその上でどう改善するかの方向性を示す、という点で不十分であった。また、一部のA・B評価のものにも言えるが、市民が読む報告書としては、より判りやすくする工夫と改善を求めたいものである。
なお、個別C評価の中にもBという意見のものがかなりあった。例えば、鹿児島市のゴミ問題に関するレポートは、内容は非常にユニークでその心意気を買ってBとする意見も有力であったが、委託契約の問題点の追及が「予定価格の積算さえしっかりすれば税金のムダは起きない」などとの記述は認識不足である等と指摘され、Cとなった。
山口県の監査のうち、5つの特別会計を対象としたものの中の下関漁港管理特別会計を対象とした分は、監査内容、提言ともに充実していて、この分に限れば、B評価に値するが、対象を広げすぎ、他の4会計についての部分が不十分なために、C評価にとどまった。
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5. |
総合D評価は19自治体である。D評価は、対象選定が不適切であったり、対象への調査も不十分で、一定の調査をしていてもはっきり問題点を把握して指摘していないか、言葉を濁して、行政当局へのはっきりした改善の指摘も認められないものであった。
もっとも、前述のランク付けの方法からすると、同じ総合D評価でも、群馬県・岡山県・宮崎県は2テーマの個別評価がDとEで総合D、金沢市は3テーマでD・E・E、岐阜市は3テーマでD・D・Eと、Eに近いD評価も含まれている。完全な(?)D評価のものは、栃木県、富山県、岐阜県、奈良県、鳥取県、愛媛県、大分県、札幌市、郡山市、姫路市、岡山市、高松市、大分市、倉敷市であった。
それぞれの評価は総括表に記載しているが、例えば、群馬県は、監査対象は病院と多くの出資団体とされているが、報告書の総頁数も56頁と少なく、広く浅く数字の羅列に終始しており、監査人独自の分析が見られない。
昨年D評価(今回のE評価にあたる)の宮崎県は、2つのテーマでそれぞれDとE評価であった。昨年の私達の指摘にもかかわらず、向上が見られない。昨年は制度の解説に終始し監査とは言えない内容の報告書であったためDとなったが、今年も土地をテーマにした監査は、県に提供を受けた資料を並べ、事務手続きについて意見を述べるだけで、E評価となった。もうひとつの農業開発公社を取り上げた報告書も外郭団体に対する問題意識が全く感じられず、Eに近いD評価である。
岡山県の後楽園はEで、その意義を認め難い。その文化的・社会的意味をも考慮して検討しないと、何のための監査か目標を失う。もうひとつの監査報告も対象選定が広く浅きに失っている上、現に破綻した第3セクターを含めながら、その破綻原因について分析しておらず、また経営不振の他の第3セクターは対象から除外されている。
岡山市は、対象選定が著しく広く浅く、しかも監査に当たっての「現在」である平成11年度が対象にされていない。「現在」を意図的に除外することは理解に苦しむ。
鳥取県は、適法性に疑問のある事実を明確に確認しながらも、その判断をあえて避けている。
倉敷市は、極端な欠陥はないかわりに、すべての面において力不足である。
大分市の2つはいずれも分析が甘く、大事なポイントが抜けている。会計処理の誤りを指摘する場合はその結果の影響金額を明記するべきである。まじめに監査を行っている形跡があってEを免れた典型的なD評価のタイプである。
大分県の場合は同じDでもさらに評価は低い。貸付金を取り上げた報告書は数多いが、水準にほど遠く、しかもテーマは一つだけである。大きなテーマや他に前例のないテーマならともかく、前例も多数あってその水準に達しないのであれば一つに絞った意味がない。
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総合E評価は、福井県、秋田市、いわき市、新潟市、豊田市の5自治体である。
福井県は、昨年に比べると、量的に多くなっているが、監査対象の説明や行政データの引用が大半で、独自の分析による適法性監査、3E監査は不十分である。一般的な要望意見もあるが、その裏づけが読み取れず、行政の追認になっている。昨年のD(今年のE)評価に続き、厳しい評価をせざるを得ない。どうも、監査人自身が昨年の監査報告書で十分とする考えのようで、他の監査例や昨年の私達の指摘は考慮されていないようである。
これ以外は、中核市の監査報告例であった。
秋田市は、監査の方法、監査結果、意見の理由・根拠等は示されておらず、結論のみである。外部監査人には市民に対して説明責任がないと考えているのであろうか。監査の内容面においても、表面的であり調査も十分なものと評価できない。
いわき市は、意見書を含め12頁であるが、54億円以上という欠損金のある病院事業の監査としては、粗略にすぎ、その内容を市民が理解できない。結論のみで、考察過程がわからない。
新潟市は、外部監査に必要な情報と認識が欠落している。入札価格について指名競争入札の落札価格が予定価格の98・5%という状況は、談合を強く疑わせ、改善が必要であるにかかわらず、入札により1・5%の工事費を節約し、入札は価格面で効率的であったと思うという。このような認識で行政の適法性をチェックすることはできず、現に、必要な調査、検討はほとんど行われていない。また、公社については会計処理に関する個別的指摘はなされているが、適正な会計処理を行った場合の財務の全体状況は明らかになっておらず、財務分析も行われていない。
豊田市は、市税の収納状況を実質1頁に満たない記述で「ほぼ適正」と断じ、「課税もれを防ぐことが望まれます」「長期滞留分の整理が望まれます」「今後さらに管理の徹底が望まれます」「期限内申告の向上に努めることが望まれます」などと4頁の要望意見を付しただけのものであり、1,155万円もの監査費用を要した報告書とはとても思えない。報告書を見る限り、全国の中で最悪のものと言わざるを得ない。
これらE評価の報告書は、多額の費用を負担する地元の市民がこれを読み、了とするとは全く思えない。
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7. |
まとめ
以上のとおり、各自治体の監査報告書を評価したが、全体として何点か指摘しておきたい。
- 今年は、採点は昨年より「辛め」にしたが、一般的には自己及び他の監査経験を生かされ、また私達市民オンブズマンの指摘も反映したと思われ、一般的には監査報告書の内容は向上している。
- また、実施2年を経て、包括外部監査はより定着しつつあり、中核市・任意実施都市も増えている。
包括外部監査の実施2年目は、より広範な対象テーマが取り上げられている。そのテーマは一応分類したが、重複する分野も多い。自治体の問題領域は広く、今後の新課題は尽きない。既に取り上げられたテーマについては新視点を加え、先例の監査の成果に上乗せして取り組まれることが期待される。
監査の対象の選定について、前年度に引き続き、病院事業が高頻度に選定されている。取り組みやすい部門として選ばれている感があり、同様の監査手法により、同様の監査意見が全国で繰り返されるのは、行政全体を監査対象とする観点からは妥当ではない。財産管理、契約、課税のあり方など他の自治体の監査で指摘された点でも採用できるものが多い。他を含めて行政側の学ぶ姿勢が望まれる。
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