資料 ―― 住民訴訟はどんな役割を果たして来たか
住民訴訟の勝訴判決リスト

2001.10.18
全国市民オンブズマン連絡会議


前注 1. 別紙のリストは『判例地方自治』誌上で最近10年間に紹介された住民訴訟の判決を中心として、住民側が勝訴(もしくは勝訴的和解が成立)した主なケースのリストです。
2. ただし、今回法改正が問題になっている「4号請求」だけに絞ったので、違法な公金支出の事前差止(1号請求)、怠る事実の違法確認(3号請求)などはリストアップされていません。
3. 同じ事件について複数の審級の判決がある場合は、原則として最上級の判決だけをリストアップしました。
4. 判決全体を便宜上次のように分類しました。
公費天国を是正する住民訴訟
1. 議員や首長らの「視察」旅行
2. 議員野球大会
3. 架空の接待
4. 高額な飲食
5. カラ出張・ヤミ手当 その他
放漫財政とたたかう住民訴訟
1. 公有財産の格安売却
2. 私有財産の高価買上げ
3. 民間法人に派遣した職員の給与負担
4. 違法な補助金交付
5. ズサンな契約管理
巨悪とたたかう住民訴訟
1. 談合による不当利益
2. 暴力への屈服
人権侵害とたたかう住民訴訟
5. このリストに記載されたもの以外にも上記要件に該当する判決はあると思いますので、補充・訂正の御指摘をお待ちします。


第1 「公費天国」の是正を追及する住民訴訟

1.議員や首長らの「視察」旅行

93.01.28 高松高裁 徳島県吉野町議13名に、旅費205万円の返還を命令
(バンコック、シンガポールへ4泊5日の買春ツアー)
(97. 9.30 最高裁判決も原判決を支持)
93.02.23 奈良地裁 奈良県斑鳩町長らに旅費59万円の返還を命令
(3泊4日の北海道旅行の大半が観光)
94.08.10 神戸地裁 兵庫県稲美町長に30万円の支払を命令
(町議18名が沖縄旅行の出張命令を受けながら台湾旅行。
270万円の旅費は3年後に返還したが、遅延損害金未払い)
95.10.18 大津地裁 滋賀県豊郷町長に56万円の賠償命令
(観光旅行とまでは認められないが、条例上の制限を越えて支出)
96.03.25 名古屋地裁 元愛知県議会事務局長に600万円の賠償を命令
(同県議会恒例の年度末県外出張のうち、大部分がカラ出張)
97.02.04 甲府地裁 山梨県知事に33万円の返還を命令
(東南アジアへ一緒に旅行する県議11人に対し知事が餞別として1人3万円を交付)
99.04.16 大阪高裁 大阪府高槻市議5名に対し、旅費74万円の返還を命令
(党務や観光と認められる部分の公務性を否認)
00.12.12 和歌山地裁 和歌山市議ら21名に対し旅費220万円の返還命令
(カレー毒物混入事件直後に、青森ねぶた祭を「視察」した旅行全体の公務性を否認)


2.議員野球大会

00.04.26 東京高裁 新潟県議29人に対し254万円の返還を命令
00.04.28 秋田地裁 県議20人に対し320万円の返還命令
00.09.05 福島地裁 県議24人に対し240万円の返還命令
00.09.28 高松高裁 県議に対し183万円の返還を命令
00.10.26 福岡高裁 大分県知事に対し職員分の旅費10万円の返還命令
00.10.31 山形地裁 前県会議長に対し参加県議分の旅費410万円の返還を命令


3.架空の接待

94.02.18 大阪地裁 大阪府水道局長らに118万円の返還を命令
(他府県の職員を接待したように仮装し、身内だけで飲食)
94.04.21 大阪地裁 (和解)
同趣旨の第2次訴訟について、もと総務部長が68万円プラス利息を支払うことを約束
95.10.20 京都地裁 もと民政局課長に対し69万円の返還を命令
(他府県の同和行政担当者の接待を仮装)
95.12.08 京都地裁 もと民政局長らに対し430万円の返還を命令
(上と同様のケース)
96.02.08 大阪地裁 (和解)
大阪市の前市長ら幹部職員が、請求金額と利息の満額に相当する2200万円を市に返還したことを確認
(私的な飲食に公金を使用)
96.03.28 仙台地裁 (和解)
宮城県財政課長らに対し架空接待のための食糧費支出1900万円を請求した訴訟について、被告側が非を認め、県庁が全体として使途不明金の根絶に努めることを約束したので訴を取下げ。
96.11.22 徳島地裁 もと県監査事務局長らに1万5000円(遅延損害金)の支払を命令
(県監査委員が、他県の監査委員との懇談を偽って仲間内で飲食。提訴後、元本分だけは返還)
97.10.14 札幌地裁 北海道庁幹部職員らに457万円の返還を命令
(国の補助金を使った中央官僚の接待だが、一部は架空、残りは不必要であって、いずれも違法と認定)
98.12.10 東京高裁 静岡県東京事務所次長と同県監査委員に37万円の返還を命令
(中央の官僚の接待を擬装した私的な飲食と認定)
99.06.25 秋田地裁 県教育長に対し、6件の食糧費支出相当額の返還を命令
(公務員同士の酒食を伴う会合の公務性を否定)
01.04.13 千葉地裁 県知事に対し75万円の返還を命令
(監査事務局による懇談会の開催は架空である疑いを払拭できないと認定)


4.高額な飲食

96.11.22 大阪高裁 大阪府泉南市幹部らに27万円の返還を命令
(接待の相手方の地位、氏名が明らかにされない場合は一般職員と見なし、1回6000円を超える支出は、裁量権の濫用と判断)
97.04.25 東京地裁 都監査事務局長に80万円の返還命令
(関東地方1都9県の監査委員と事務局職員計81名の懇談会をホテルで開き、会場費以外に220万円を支出、コンパニオンやプロの司会者のギャラなどは行きすぎ)
98.08.27 東京地裁 都下水道局長に64万円の返還命令
(「大都市下水道会議」の懇親会が終わった後のカラオケ二次会の公務性否定)
98.09.21 大津地裁 滋賀県空港整備所長らに196万円の支払いを命令
(中央官僚や町職員、地権者らの接待のうち1人8000円を超える部分は裁量権の濫用)
98.12.21 大阪地裁 大阪府吹田市長らに43万の返還命令
(特殊法人理事長らの接待のための支出のうち1人10,000円を超える部分は裁量権の濫用)
00.06.20 神戸地裁 神戸市長らに対し39万円の返還を命令
(懇談会費用のうち、外部者の接待は1人8000円、市の関係者は1人4000円を超えれば違法)
00.10.31 神戸地裁 兵庫県幹部らに対し12万円の返還を命令
(懇談会費用のうち、外部者の接待は1人8000円、県の外部団体職員などは1人6000円までが限度)
00.12.12 高松高裁 県議35名らに321万円の返還を命令
(2泊3日の県外視察に際し、連日1人あたり29,000円の飲食費の支出は違法)
01.03.22 福岡地裁 北九州市長ら71名に1340万円の返還を命令
(1人あたり5000円を超える食糧費の支出は原則として違法)
01.05.17 金沢地裁 県知事らに58万円の支払を命令
(誘致した企業の幹部を料亭で芸妓をあげて接待するのは公務性なし)
01.10.17 福井地裁 県知事らに13万円の支払を命令
(欧州視察旅行の際、県の規定の上限を大幅に超える高級ホテルに宿泊)


5.カラ出張・ヤミ手当その他

97.01.23 大阪地裁 もと大阪市長らに5970万円の返還を命令
(職員全員に一律に超勤手当を支給したのは条例違反。
98.10.28大阪高裁で、現職管理職らが合計1億円を市に返還するという内容で和解成立)
97.09.10 和歌山地裁 (和解)
県監査事務局職員の「水増し出張」について、過払い分8万円余を県に返還。
和解調書上も「不適切な支出」と確認。
97.11.28 高知地裁 (裁判外で解決)
県職員が住民の請求に応じタクシー代13万円を県に返還
(公務と無関係にタクシー券を支給)
97.12.18 宇都宮地裁 宇都宮市長に413万円の支払いを命令
(夏期一時金上積みの便法として超勤を仮装)
98.07.17 札幌地裁 札幌市長に対し、200万円の支払いを命令
(長期欠勤による労組専従者に対し給与等6000万円余を支払ったことは違法、ただし元本は組合から返還済みなので、遅延損害金のみ)
98.10.29 名古屋地裁 前名古屋市長らに4665万円の返還を命令
(市議全員を、内規で設置した市長の諮問機関「市政調査会」の委員に委嘱し、登庁しただけで「調査費」を支給)
00.08.10 大阪地裁 大阪府美原町長に100万円の返還を命令
(「特殊勤務手当」を要件に該当しない職員にバラマキ)
01.03.20 大津地裁 滋賀県志賀町長に73万円の返還を命令
(新庁舎完成式の出席者130人に各5000円の商品券を「記念品」として配布したのは違法)
01.04.12 京都地裁 (裁判外で解決)
京都府加茂町長が住民の請求に応じ6万円を返還
(府議選や近隣町長選の「陣中見舞」を公金から支出)


第2 放漫財政とたたかう住民訴訟

1.公有財産の格安売却

92.01.17 福井地裁 福井県松岡町の町有地と私有地の交換契約を無効とし原状回復を命令(3倍の価格差)
94.07.11 熊本地裁 熊本県植木町の町有地と私有地の交換契約を無効とし原状回復を命令(10倍の価格差)
98.07.28 大阪高裁 天理市から土地の払下げを受けて転売利益を得た建設会社に対し12億5000万円の賠償命令
(市が9億8000万円で払下げた土地を、建設会社は半年後に40億円でデパートに転売)
01.02.07 東京高裁 川崎市幹部にワイロを贈って市有地の払下げを受けた契約を無効とし原状回復を命令
(1850万円のワイロの見返りに、当初約7億2000万円と評価されていた土地を、鑑定士に命じて評価を下げさせ4億5000万円で払い下げ)


2.私有財産の高価買上げ

97.12.27 名古屋高裁 名古屋市長らに対し2億1000万円の賠償を命令
(世界デザイン博終了後、同博の赤字隠しのため、施設の残骸を10億円で市が購入)
98.05.18 仙台高裁 (和解)
仙台市が、今後の土地の取得にあたっては、特定の鑑定士だけに依頼せず、かつ鑑定書を公開することを約束したので、訴え取下げ
(大年寺山公園用地として私有地を適正価格より10億円高く購入したので、市長らに同額の賠償を請求)
01.01.31 前京都市長に対し約4億7000万円の賠償を命令
(開発業者からゴルフ場用地を適正価格の2倍以上の価格で購入)


3.民間法人に派遣した職員の給与負担

94.10.25 東京高裁 埼玉県上尾市都市開発公社に対し3662万円を市に返還するよう命令
(上尾駅ビルを管理する同三セクに対し市の職員を派遣して給与を支給)
95.02.28 広島高裁
岡山支部
岡山県備前市の三セク、備前総合開発に対し、400万円を備前市に返還するよう命令
(ゴルフ場を開発するための同三セクに市の職員を派遣して給与の一部を支給)
96.02.14 福岡地裁 福岡県勝山市長に対し283万円の支払いを命令
(不動産会社へ研修名目で職員を派遣し、給与を負担)
99.03.31 東京高裁 神奈川県茅ヶ崎市長と同市商工会議所に対し、441万円の支払を命令
(商工会議所へ市の職員を派遣して給与を負担。最高裁 98.4.24判決で差し戻し後の控訴審判決)
01.06.28 広島高裁
岡山支部
岡山県が出資するチボリ・ジャパン社に対し22億6000万円を県に返還するよう命令
(倉敷チボリ公園を運営する同社に対し県の職員を派遣して給与を負担)


4.違法な補助金交付

99.11.19 高松高裁 徳島県三加茂町の元町長に対し774万円の返還を命令
(町内会役員の慰安旅行に1人あたり5万円の補助金を交付)
99.12.15 東京高裁 埼玉県川口市の元市長に対し710万円の返還を命令
(町内会長らによる海外視察旅行の費用を補助)
01.03.19 大分地裁 大分県挟間町の元町長に対し300万円の返還を命令
(放漫経営のため赤字が嵩積した三セク、「挟間町陣屋の村」に800万円の補助金を交付)
01.05.29 広島高裁 山口県下関市の元市長に対し3億4100万円の返還を命令
(倒産した三セク、日韓高速船(株)の銀行債務を保証義務のない市が肩代わり)


5.ズサンな契約管理

96.10.16 富山地裁 富山市長に対し200万円の支払を命令
(市の「里山整備事業基本計画」の策定を林野庁の外郭団体に2000万円で委託。同団体は単なるトンネルで実際の業務は民間会社が1800万円で受託)
99.02.10 前橋地裁 草津町開発協会に対し、9000万円の返還を命令
(県から町に支払われたゴルフ場整備委託費を、町長が議会にはからず、予算に計上しないまま協会にトンネル支出)


第3 巨悪とたたかう住民訴訟

1.談合による不当利得

00.03.28 鳥取地裁 東芝と下水道事業団に対し、1658万円を鳥取県に支払うよう命令
(県が事業団に委託した下水処理場電気設備工事について、事業団と随意契約を結ぶ東芝が予定価格ラインで受注でき るよう、他社と事業団職員が協力。)
00.03.31 大阪地裁 大阪府阪南市の建設業者6社に対し、9270万円を市に支払うよう命令
(同市の発注した中学校校舎新築工事の入札について談合)
00.07.14 名古屋地裁 建設業者5社と名古屋市幹部らに対し9億円を市に支払うように命令
(同市の発注したごみ焼却施設新南陽工場建設工事の入札について談合)
00.11.15 富山地裁 県内建設業者8社に対し、829万円を富山県に支払うよう命令
(県農林部発注の土木工事の入札について、談合)
00.12.07 津地裁 三重県久居市内の建設業者に対し、1億1979万円を同市に支払うよう命令
(同市の発注する公共下水道関係土木工事の入札について談合)
01.03.08 大阪高裁 横河電機ほか4社に対して、4571万円を奈良県に支払うよう命じた奈良地裁99.10.20判決を支持
(奈良県の発注した浄水場計装設備工事の入札について談合)
01.02.28 名古屋地裁 (和解)
尾北建設業協会加盟の建設会社14社が愛知県に対し6000万円を支払うことを約束
(県および名古屋市発注の土木工事の入札をめぐる談合)
01.03.29 津地裁 東芝、富士電機、下水道事業団らに対し、三重県に5443万円、四日市市に1685万円を支払うよう命令
(同県、市が事業団に委託した下水処理場電気設備工事の入札について談合)
01.07.05 津地裁 大手機械メーカー クボタに対し、四日市市に1307万円を支払うよう命令
(同市が水道用鋳鉄管購入のために行なう入札について談合)
01.09.07 名古屋地裁 三菱電機と下水道事業団に対し、5692万円を名古屋市に支払うよう命令
(同市が事業団に委託した下水処理場電気設備工事の入札について談合)
01.09.19 松江地裁 東芝、富士電機、下水道事業団に対し、2964万円を鳥取県に支払うよう命令
(同県が事業団に委託した下水処理場電気設備工事の入札について談合)
01.10.12 広島高裁
松江支部
一審鳥取地裁判決(00.3.28)を支持(ただし損害認定は減額)して、東芝と下水道事業団に対し、830万円を鳥取県に支払うよう命令


2.暴力への屈服

96.04.11 大津地裁 (和解)
草津市が暴力団幹部に私有地を安売りし、かつ「残土処理費」の名目で700万円余を支払ったことに対し、裁判外で土地の原状回復をした上、裁判上の和解として解決金400万円の支払をさせた。
97.04.25 京都地裁 暴力団幹部に対し6883万円を京都市に返還するよう命令
(99. 9.17 上告棄却で確定)
(京都市住宅局の幹部が住宅用地買収をする際に、暴力団に脅され、架空の補償事由を作文して1億5000万円を支出。なお訴訟中一部弁済。)


第4 人権侵害とたたかう住民訴訟

97.04.02 最高裁 靖国神社への玉串料を公金から支出したのは憲法の政教分離原則に違反すると判断し、愛媛県知事に17万円の返還を命じた松山地裁の89.3.17一審判決が確定
98.07.17 高知地裁 高知県十和村長に600万円の返還を命令
(村内の2つの神社の修復費として同額の補助金を支出)
98.12.15 大阪高裁 滋賀県と近江八幡市が献穀祭に計560万円を補助したのは違憲と判断
(ただし知事・市長の過失を否定し賠償は認めず)
01.04.28 松山地裁 愛媛県新宮村長に1545万円の返還を命令
(村内の観光施設内に観音像を設置)