第ニ 現行制度の問題点
T、文書管理規定の問題点
1、「秘密文書」は一般公務員には無縁の機密文書。
 現在の文書管理規定では行政文書の分類は「一般文書」と「秘密文書」の2分類である。(秘密文書を文書管理規定から分離している省もあるが実質的には同じ。)
 秘密文書は概ね「極秘」と「秘」の2種類であるが、これらは情報公開法5条3号(国の安全等に関する情報)4号(公共の安全等に関する情報)に該当し、しかもその内の極めて機密性の高い情報などに限定されている。
 みだりに秘密文書の指定をしないように抑制的に使用されていて、ある省の40歳前後の担当官は「今まで秘密文書を作成したことは一度しかありません」と述べている。一般公務員にはまず縁のない行政文書で、ほとんど総ての文書が一般文書として同じ基準が適用されているといってよい。
 「行政文書開示請求書」は情報公開法第5条1号の個人識別情報が掲載されてはいるが、一般文書に分類されるため特別の注意を持って管理することは要請されていない。
2、「取扱注意」のゴム印
 しかし、現実には全ての一般文書に同じ程度の注意が払われているわけではない。「秘密文書」は別として、情報公開法から見ても第5条の各号に規定され、個人のプライバシーや企業利益の保護などの観点から不開示や一部開示とすることが必要である行政文書も現に多数存在し、公務員には十分な注意を払って取扱うことが期待されている。
 そこで何が起こっているか。一部の省庁では公務員は各自が重要書類と判断する文書に「取扱注意」のゴム印を押したり、用紙自体に「取扱注意」を印刷したりして注意喚起している。
 ある省で書類に「取扱注意」と印刷されていたので「具体的に何をどう注意するのですか」と尋ねると「文書管理規定に定められていないので、各自が独自に判断して運用している」という回答であった。
3、施錠できない棚に保管
 業務終了時に請求書原本を施錠できない棚に保管している省庁が過半数であるが、文書管理規定で保管管理については「管理が適切に行い得る専用の場所において適切に保存するものとする」など抽象的にしか決められていないので、各々が「適切」と判断していれば規定上の問題はないことになる。
U、コンピュータ資料に対する公務員の認識
 コンピュータ資料のリーク問題についての国家公務員の認識は極めて甘いということを今回の調査で実感した。
 防衛庁では海幕、陸幕、空幕、内局ともに庁内LANで請求者リストが載っていたが、ある省では「あれは特別な役所で一般の省庁も同様に見られては困る」といっていた。多くの省庁での発言は「いずれペーパーレスの事務処理態勢になるのだから、いちいちコンピュータへの入力を心配しても始まらない。機械面でガードを掛ければよい」というのであった。今般の住基ネット問題でも見え隠れする中央省庁の公務員の一般的な認識である。
 コンピュータ情報は、たとえパス・ワードなどのガードをかけても情報が漏洩しやすいことは、有能なハッカーたちが口をそろえて言うことである。万全なガードはありえない。公務員は、知識としては分かっているのだが、単なる知識に留まり実感としての危険性の認識は皆無ではなかろうか。
 情報管理についての中央省庁間の認識にさしたる差異を見出せない。とりわけコンピュータ資料への情報入力についての危機意識の欠如は目にあまるものがある。
 「コンピュータに載せる必要のない不開示情報は載せない」という国民の目から見れば当たり前の理屈が、中央省庁では「効率化の要請」を理由に無視されて真摯に検討されている気配はない。