◎2001年度包括外部監査の「通信簿」
◎総括表
◎個別評価表(略)
平成11年度(1999年度)より全国の47都道府県、12政令市、25中核市の地方公共団体(以下、「自治体」という)において外部監査制度による包括外部監査と監査報告書の提示がスタートした。全国市民オンブズマン連絡会議は、これらが全国の自治体の行財政の刷新と改善にどれだけ役立つのかに注目し、全国各地のオンブズマン団体の協力を得てその評価を行った。外部監査が市民のための自治体の「お目付け役」としてよく機能するかどうかは、監査人の姿勢・努力と監査委員や議会を含む行政の対応による。しかし、それを担保するのはこれら全てを監視する市民自身の力である。そこで、11年度の包括外部監査報告書について“通信簿”を公表した。この「包括外部監査の『通信簿』(1999年度)」と題したA4版145頁の通称「イエローブック」は、マスコミにも注目された。全国紙だけでなく、一部の地方紙では社説で取り上げる等の大きな反響があった。そして、行政関係者や監査人はもとより専門家に広く読まれた。監査人からも反響があった。このように、「通信簿」は、外部監査の存在と意義を広く市民に注目させ、その社会的期待を高めたのである。
11年度は、全国47都道府県、12政令市の合計59自治体について個別評価した。25の中核市も調査・検討したが、個別評価まではしていない。平成12年度(2000年度)は、中核市に旭川市、松山市が加わり、さらに5つの条例市区(東京都豊島区、同文京区、同八王子市、三重県四日市市、岡山県倉敷市)も含め、全て評価対象とした。その結果、47都道府県、12政令市、27中核市、5条例市区の合計91自治体の全監査報告書について、個別評価を行い、総合評価した。これが昨年度のA4版214頁にも及ぶイエローブックであり、内容的にもより充実したと自負している。監査人や補助者等監査当事者や全国の自治体関係者からの注文も多く、増刷するまでになった。
本書は平成13年度(2001年度)包括外部監査の通信簿である。今年も監査実施自治体が増え、12年度の91自治体に、新たに横須賀市(中核市)、東京都港区、同荒川区、神奈川県相模原市(以上、条例市区)の4自治体が加わり、評価対象は合計95自治体合計187テーマに及ぶ。
さらに、本年度は外部監査に対する自治体側の対応をより詳しく点検することにした。これは、外部監査制度は監査報告書の提出でその役割を終えるのではなく、対象部局、首長、監査委員、議会がこの監査報告書の指摘にもとづいてどのような措置を講じ、また「意見」に至るまで対応し活用したか、そして、それを将来の自治体改革にどのように活かしていくかにこそ意義があるからである。その調査・検討はさらに一層多大な作業を要するものであった。私達は全国の措置結果を入手し比較したが、今回は特に「病院」関連についてのものに注目し点検した。
なお、本書では、特にことわらない限り、「外部監査」とは「包括外部監査」のことを、「監査人」とは「包括外部監査人」のことを指すものとする。
@ 監査委員監査
監査委員監査は、自治体に身分を属する監査委員と、監査委員を補助して監査作業を行う監査事務局等の自治体職員によって行われる。監査委員には議員や自治体OB、地元有識者(弁護士、会社経営者、公認会計士、税理士)などが就任している。しかしながら、監査委員監査が行政を是正する能力を発揮せず、ときには、監査委員・監査事務局が不当な慣行に流されていることで市民の批判の対象となることもあった。
全国の市民オンブズマンをはじめ、市民には監査請求を通して自治体のOBや議員による監査が独立性を失い、不正・不当な行政に追従するという苦い体験が集積されていた。監査委員の構成に加え、監査事務局も行政の一般部局であり、人的な体制の問題もあった。もちろん、有識者(弁護士、公認会計士、税理士、会社経営者)などから選任された監査委員の中には良識派もいて、独自性を発揮して行政の是正役を果たした例もある。しかし、時の首長と与党議員により選ばれる監査委員に失望した市民が多かったのである。このため私達は、これら現行監査制度運用、監査委員の人選等について抜本的な改革を求めてきた。
A 外部監査制度
外部監査は、住民・市民の立場に立って、外部の政治的、精神的に独立した外部監査人が自治体の監査を行おうというものである。
平成6年の全国知事会、全国都道府県議員会、全国市長会、全国市議会議長会、全国町村長会、全国町村議会議長会の地方6団体の地方分権推進の意見書の中に、外部監査の導入が提言されていた。そして、地方自治体の「官官接待」「カラ出張」「裏金」などの社会問題が浮上し、透明かつ公正な行政と自浄能力を高めることが必要となり、急遽、推進・実現された。
平成9年2月の地方制度調査会の答申、同年3月の地方自治法改正法案による制度導入の国会提出、同年6月の公布というスピードは、市民オンブズマン活動と世論、マスコミの行財政運営と監査体制への批判に対する「危機感」と地方分権推進に伴う監査機能の強化という「体制側」の要求が合致したといえる。
外部監査制度導入の意義は従来の監査委員による「内部監査」の不十分さを正面から認めたところにある。すなわち、監査委員監査制度は、数次の「改正」にもかかわらず、幾多の問題を残している。監査委員監査は、組織の内部に精通した者が行うことで不正や誤りを早期に発見するという建前も聞かれるが、最大の問題は、既成行政組織に取り込まれ、独立性を失っていくことであろう。日本は「外から言われなければ直らない」というように、外部からのチェックがないと厳正さが確保されにくい。そこに、平成9年に成立し、平成11年度から実施することになった外部監査制度の意義がある。同じ監査人と連続3年(3回)を超えて契約できないよう定められているのもその「独立性」の確保が目的である。
現行法の包括外部監査とは、自治体が地方自治法(以下、「法」という)2条14項と15項(下記)の趣旨を達成するため、包括外部監査人の監査を受けるとともに監査の結果に関する報告の提出を受けることを内容とするものである(法252条の27第2項)。平成9年6月24日に改正法が公布され、政令により平成10年10月1日に施行された。包括外部監査のあるべき姿としては、立法上多くの問題があるが、この点は今後の課題の項で触れることにして、下記2条項によれば、おのずから地方公共団体の事務の@真実性、A適法性、B有効性、C効率性、D経済性が問われることになる。
地方自治法2条14項: |
地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるととも、に最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。 |
15項: |
地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに、他の地方公共団体に協力を求めてその規模の適正化を図らなければならない。 |
「包括外部監査の通信簿」は、まず「包括外部監査報告書」について調査検討したものである。
外部監査は合規性監査のみと考える意見もあるが、地方自治法の目的に添い、全法令的見地からの適法性の監査と、英国で採用されるVFM監査(Value For Money)、あるいは米国の3E−有効性(Effectiveness)・効率性(Efficiency)・経済性(Economy)−監査を含むものとして位置づけられるべきである。もとより、会計の真実性や正確性は、財政事務の適法性の前提である。監査対象となる事件の選定は監査人が主体的に選定し、監査契約は一年度ごとに行われる。
これに対し、個別外部監査と呼ばれるものがある。これは、首長・議会・住民からの個別請求に基づくものである(法252条の39〜43)。
自治体の長は、包括外部監査契約にあたっては監査委員の意思を聴くとともに、議会の議決を経なければならない(法252条の36第1項)。そして、個別外部監査のように議会からの要求に基づく監査はないが、監査人は、契約期間年度の3月31日までに監査結果報告書を議会、長及び監査委員並びに関係行政委員会委員に提出しなければならない(法252条の37第5項、252条の38第4・6項)。
ところで、外部監査の対象には議会の事務が含まれるが、議会は監査人の行った監査に関し、説明を求め、意見を述べることができる(法252条の34)。これは、議会が外部監査を牽制する趣旨とも言われる。しかし、総務省自治行政局行政課が公表している平成11年度と12年度の「外部監査制度に関する調査の結果について(以下、「総務省調査」という)」では、実際には11年度に大阪府と岡山市が説明を求められただけで、12年度は91自治体中皆無であった。また、議会を監査対象としたのは、この3年間で11年度の鳥取県(議員海外視察の出張経費処理)、12年度の鹿児島県(議会費の予算執行)の2例のみである。議会が監査対象の「聖域」であってはならないが、もし、議会の牽制のために監査対象外となっているのなら、ゆゆしきことである。
議会は外部監査の結果を条例制定や予算・決算の審議に活かしたり、制度の趣旨を活かしたりするために意見を述べるべきである。もちろん、監査人の不十分な調査や報告に対して「注文」があってもよいし、監査報告書に対し十分な理解も求めたい。監査報告書に対し、何の説明も求めるところがないし意見もないという無関心さこそ重大な問題である。
第3 昨年度(2000年度)「通信簿」に対する意見について
初年度(11年度)のイエローブックについては、監査報告書が「採点」されたことについての意外性もあって、多方面から大きな反響があった。その中の主要な意見・批判に対する私達の見解は昨年のイエローブックの中に記載したとおりである。
これに対し、昨年度(12年度)の場合は直接的な反響は目立ったものはなかったものの、初年度から継続の公認会計士協会に続き、日弁連からも意見交換を求められる等、監査当事者の関心はさらに高まっていることが感じられた。
中でも公認会計士協会の専門委員は、会員向けの研修会の中で「オンブズマンも含め住民の(公認会計士に対する)期待は大きいものがある。そこには期待ギャップも存在するが(公認会計士は)期待ギャップを埋める努力をしなければならない」という発言を行っている。また、これも研修会の中で「オンブズマンから『入札手続が規定通りに行われたとしてもその裏で談合が行われているとしたら本当に適法と言っていいのか』という指摘があったが、形式的適法性では十分ではない。厳しく考える必要がある」という発言もあった。
私達の主張に対し、公認会計士協会も一定の理解を示したものと考えられる。もちろん公認会計士協会と私達の立場が一致するものではないことは当然のことではあるが、建設的な意見交換は今後も継続していきたい。公認会計士協会や弁護士会だけでなく、同じ監査人団体である税理士会、さらには監査人経験者、自治体監査委員、行政当局とも意見交換をしたいと考えている。
自治体の反応についても直接的なものはなかったが、私達の調査に協力的な自治体は増えている。また、ホームページから監査報告書そのものをダウンロードできる自治体や、請求すれば無料でコピーを送付してもらえる自治体も増えている。積極的に公開していこうという姿勢は良い。しかし、外部監査そのものの結果を正面から受け止めているかどうかは、また別の問題である。これについては後述する。
また、ごく一部ではあるが、「意見書」については法律で公表することになっていないので出せないという自治体や、情報公開の手続をとってもらいたいという自治体もあった。最終的には全て入手できたが、一般市民が容易に入手できないというのは問題である。公報掲載は当然として、監査報告書を別刷りして配布するなど情報公開請求の手続と費用をかけなくてよいようにすべきである。
第4 外部監査の契約内容(監査人・執務日数・報酬等)と監査対象事項
@ 監査人の資格をみると、11年度は公認会計士が43都道府県、11政令市・21中核市・1条例市(四日市市)の合計76人、弁護士は4府県(山梨県・大阪府・島根県・徳島県)と3中核市(堺市・岡山市・福山市)の合計7人であった。税理士は1政令市(京都市)・1条例市(八王子市)の合計2人、行政実務精通者は1中核市(秋田市=会計検査院OB)の1人であった。
12年度は、公認会計士が41都道府県・11政令市・24中核市・5条例市区の合計81人、弁護士は5府県(山梨県・大阪府・島根県・徳島県・沖縄県)と2中核市(堺市・福山市)の合計7人、税理士は1県(広島県)と1政令市(京都市)の合計2名、行政実務精通者は1中核市(秋田市=会計検査院OB)の1人であった。また、43都道府県、11政令市、24中核市で前年度と同一の監査人と契約しており、監査人が交代したのは4県(宮城県・群馬県・広島県・沖縄県)、1政令市(札幌市)、1中核市(岡山市)、1条例市(八王子市)の合計7人である。
A 今回(13年度)は95自治体のうち、公認会計士・弁護士・税理士の資格を併有する者が1名(山梨県)、公認会計士が83名、弁護士は5府県(大阪府・鳥取県・島根県・広島県・徳島県)と3中核市(堺市・岡山市・福山市)の合計8名、税理士は1政令市(京都市)・1中核市(宮崎市)の2名、行政実務精通者が1中核市(秋田市=会計検査院OB)の1名であった。この3年間の状況は、<別表1>のとおりであるが、公認会計士の数が他を圧倒している。
B また、監査人補助者は、総務省調査によると、11年度が全86自治体559名中、弁護士23名、公認会計士429名、税理士17名、行政実務精通者6名、その他84名(会計士補、監査法人職員、大学教授・助教授、コンサルタント等)、12年度が全91自治体580名中、弁護士29名、公認会計士439名、税理士22名、行政実務精通者9名、その他81名(会計士補、監査法人職員、大学教授・助教授、コンサルタント等)である。13年度の集計は未了だが、これまでの実態では公認会計士(しかも監査法人所属の)の監査人の下で会計士補や監査法人職員が補助者となって行ったものが圧倒的である。特定の監査法人に属する公認会計士やそのスタッフが全外部監査の割合を広く独占することには、後記のとおり問題があろう。
C 私達としては、監査人の職業(資格)的分布よりも内容の充実に関心があり、資格自体の是非を論ずるものではない。しかし、過去2年間指摘したように、外部監査には適法性監査と経済性・効率性監査の双方が不可欠である以上、対象テーマに応じ職域を越えた協力関係が必要である。13年度は、職域を越えた監査スタッフがよい結果をあげている例(長野県)もあった。この点、公認会計士が監査人の場合が多いので、弁護士や税理士、大学(助)教授その他の専門家の協力が必要でなかったのか、あるいはそれで十分だったのかを、監査結果の充実度と照合する必要がある。
なお、12・13年度の堺市は、弁護士の監査人の下で補助者8名全員が弁護士という例外的構成であった。これは、委託契約等を対象テーマとしたこととも関係しているようだが、少なくとも内部的に会計的能力を持った者がいなければ、十分な監査はできなかったと思われる。
私達としては、監査人や補助者の関係が、職域確保の対象としてではなく、市民のために有資格専門家がその専門的・独立的能力を活かし合い、相互に批判し、能力を高め合うほどの補助協力関係であるべきと考える。
総務省調査によると、12年度の監査人の執務日数は、都道府県で4日(山梨県)〜125日(愛知県)、平均53.5日、政令市で6.5日(名古屋市)〜71日(千葉市)、平均33.6日、中核市では21日(豊田市)〜146日(岐阜市)、平均42.6日、条例市区は16.5日(東京都文京区)〜24日(岡山県倉敷市)、平均20日という。この時間計算方式は必ずしも同一といえないかも知れず、またこれに監査人補助者の執務日数を加える必要もあり、さらに、監査人の「能率」「能力差」もあるから、もちろん執務日数だけで是非・良否を論ずることはできない。
私達が12年度で「A」評価とした自治体のうち、宮城県は監査人31日、補助者1人あたり20日×7人=140日(監査人と補助者をあわせた総のべ日数171日)、長崎県は監査人57日、補助者18.4日×7人=128.8日(総日数185.8日)、沖縄県は監査人65日、補助者58日×4=232日(総日数297日)、福山市は監査人58日、補助者29.7日×3人=89.1日(総日数147.1日)、八王子市が監査人21.5日、補助者20.1日×7人=140.7日(総日数162.2日)である。これに対し、「E」評価とした自治体では、福井県が監査人87日、補助者47.2日×3人=141.6日(総日数228.6日)、秋田市は監査人35日、補助者12.5日×2人=25日(総日数60日)、いわき市は監査人28日、補助者23.3日×2人=46.6日(総日数74.6日)、新潟市は監査人22.5日、補助者37.4日×4人=149.6日(総日数172.1日)、豊田市は監査人21日,補助者23.8日×4人=95.2日(総日数116.2日)である。
これによれば、少なくとも執務日数は外部監査の良否や質を保証するものではないようである。
11年度の監査人の報酬は、633万円(姫路市)〜3000万円(東京都)であった。前記総務省調査では、全都道府県から中核市までを含む平均報酬額は、1784万1458円であった。
12年度は、718万3050円(姫路市)〜3000万円(東京都)、全都道府県から中核市までの平均報酬額は1792万7195円、条例市区までを含めた全自治体の平均報酬額は1747万4807円であった。このうち、「A」群の宮城県が1575万円、長崎県1689万7360円、沖縄県1562万1375円、福山市1958万400円、八王子市836万3250円に対し、「E」群の福井県は1750万円、秋田市956万5586円、いわき市1146万5528円、新潟市1949万円、豊田市1155万円である。これらの対比をみると内容の良いものが高い報酬を得ているのでなく、監査報告書の良否と報酬額は一致せず、むしろ逆の結果さえみられることを痛感させられる。実施する監査人にすれば報酬額が主観的に「安かろう」とも、市民の眼からみれば外部監査の結果が報酬に見合うようなものでなければ、納得し得ないものであることを認識すべきである。
13年度は、498万8550円(荒川区)〜3150万円(東京都)である。各自治体の報酬額は総括表に記載した。13年度の監査報告書の評価と報酬額を考えると、良い監査に高い(相応の)報酬が支払われることはあっても、高い報酬の監査が良いとは全くいえないことが、より明確に指摘できよう。すなわち、「A」評価の宮城県・長野県・島根県・長崎県・鹿児島市・八王子市は、832万7500円(八王子市)〜2000万円(宮城県)であり、本年度「E」評価の宮崎県・いわき市・金沢市・姫路市・倉敷市は、1063万6788円(いわき市)〜2002万5075円(倉敷市)である。
13年度の監査対象事項は、<別表2−1>「監査対象事項分類表」として種類別に分類した。なお、12年度(<別表2−2>)と11年度(<別表2−3>)の分も参考に一覧表を供しておく。
監査対象選択の傾向としては、病院を対象としたものは大きく減り、出資団体、財政援助団体、公社が多い。3年目で定番的テーマが順次取り上げられているようである。また、競輪・競馬等が増えている。これらは一般的傾向として財政上の負担が多くなっているからであろう。
ユニークな対象・視点のものには敬意を表したい。監査結果としては視点・方法がうまく当たらないと成功しないが、フロンティア精神は買いたい。定番テーマをゾロゾロと後追いし、しかも先例よりも劣るものと比べれば、はるかに立派である。
13年度の評価も昨年度までと同様、市民に公表・提供された「監査結果報告書(意見書を含む。以下、両者をあわせて「監査報告書」という)」をもとに評価した。
したがって、監査人の主観的な努力や監査対象機関の協力度などの差異はあっても、それが監査報告書から窺える場合でのみ判断するものである。仮に、監査人の意思とは別の理由から監査に支障があっても、私達はその内容は知り得ないので、公表されている範囲で判断した。
もちろん、監査結果の中に意見を多く書き込んだタイプのもの、監査結果は簡単で意見分析を含め記載されているタイプなど様々で、一体として公表されている限りは私達の評価は形式的な書式の如何を問うものではない。しかし、必要事項を網羅充実して記載しているか、市民に向けてわかりやすいかどうかの点で評価している。
評価にあたっては、評価班で統一的な評価基準を定め、当該自治体の地元オンブズマンの評価も参考にして担当班員が第一次的に評価した。担当班員は、まず監査報告書を精読し、評価表にまとめて評価班に報告をし、評価班はそれを基にしつつ、他の監査報告書との相対比較、対象の難易度を含め、批判的に評価し、かつ各監査報告書を複数人が読み、評価の客観化に努めた。そして、共通の対象ごとに相対比較も行った。
一つの自治体の複数の個別テーマの監査結果については、個別報告ごとにA〜Eの5段階評価をして、最終的にはその中で優れたものを尊重しつつ総合して評価した。
関係自治体の地元オンブズマンからも評価の意見をもらったが、今回も、これらの評価を参考としながらも、最終的には評価班の基準と判断で行った。したがって、地元の評価とは必ずしも一致しない。ただ、地元オンブズマンは地元で問題となっている事情や背景に明るく、監査結果の企図するところなども知って評価することができるという利点があるので、今後はより活かしたいと考える。
評価の視点ないし基準は、次のとおりである。
@ 対象の選定は適切で監査結果は活用度があるか
@ 具体的な目的根拠があって対象が選定されているか。
A 監査テーマと結果が首長(自治体)が採用する有効性を持っているか。
B 行政の改善の方向が具体化されているか。
A 監査が充実し、評価が適切であるか
@ 新しい問題意識・発見があるか。
A 適法性の監査について充実・適切か。
B 3E監査について具体的な対象への適用とチェックがあるか。
C テーマの数だけでなく質の高さがあるか。
D 行政結果の追認に終わっていないか。
B 報告書・意見書は判りやすいか
@ 市民が読んで判る記述になっているか。
A 問題点や意見要点が明確に指摘されているか。
B 専門用語などは解説・注があるか。
C 表やデータが判りやすいものか。
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11年度は、次の4段階評価であった。
A:良い監査として評価に値する。
B:改善を希望し、今後に期待する。
C:不十分な点が多く、監査方法や内容を改める必要がある。
D:不可。自治体・市民にとって有益なものと評価できない。
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このうち、BとCについては、見方によっては微妙なものもあり、Aに近いBとDに近いC、そしてBとCの中間的なものがあり、BとCの峻別よりもAとDの明確化について注目した。なお、Aは、初年度の外部監査ということもあり、問題はあっても敢えてAとしたものもあるので、Aと評価したものでも問題点がないという意味ではない。
11年度は、ほとんどの自治体や監査人が初めて経験する外部監査であったので、監査内容や結果そのものに「試行性」があり、監査報告書が専門的で理解できないこと等からくる「非難」もあった。また、私達市民の眼も不慣れで、多大な期待からする「失望」もあった。そして、行政当局など監査を受ける側の「協力度」と監査人の「努力度」の関係があるとも考えられたが、結局無視することにした。
12年度は、@外部監査人も監査を受ける行政当局も、先例あるいは他の自治体の例に学ぶことができること(私達としては良き監査先例・監査報告書に学び、それらの成果を取り入れたものであることを期待している)、A外部監査人が経験を積み、私達の“通信簿”を含む社会的評価も参考とできることでその機能、能力成果のアップがあってしかるべきであることに注目した。よって、評価については、監査人や行政当局の「学習努力の効果度」評価もあってしかるべきと考慮した。したがって、監査報告書の同じテーマで内容が昨年の水準にとどまっている限りは、評価も相対的に低くした。かくして、12年度の評価区分は、11年度のA〜D評価より少し厳しく「相対評価」するため、Eランクをつくり、次の5段階とした。
A:良い監査として評価に値する
B:努力と成果は認めるが、なお改善を希望し、今後に期待する
C:不十分な点があり、監査対象の選び方や、方法内容を改善する必要がある
D:外部監査として欠陥があり、自治体・市民にとって、投じた費用に対するだけの有益なものと評価できない
E:不可。外部監査として意義を認めがたい
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11年度Bの上位水準に相当するものはBに、11年度Bの下位水準相当分とCの上位水準相当分はCに、11年度Cの下位水準の一部をDに、11年度のD水準はEとした。全体としては、Cが平均的で最大多数になるよう相対評価した。あえて100点満点でいえば、Aは90点以上、Bは70点以上、Cは50点以上、Dは30点以上、Eは30点未満、という区別になる。
13年度は12年度と同様の評価とした。連続3年目の監査人もおり、より厳しくすべきとの意見もあるが、従前の評価が「辛口」であることは内外から言われており、従前水準を考慮した。ただ、11・12年度の監査事例が既に蓄積されており、それら「先例」に学ぶことによる監査の質の向上は当然期待できるので、12年度までに既出のテーマを取り上げていながらその水準よりも質が落ちているものに対しては厳しい評価をした。
以下、本年度外部監査について、全体の総評を示す。
13年度の監査対象(テーマ)は、「監査対象事項分類表」(<別表2−1>)のとおり類型化できる。従前の例に安易に乗じているものもあり、テーマの中には選定の重要性を感じられないものもある。
また、既に行政側が見直しを決めているもの、具体的には制度の廃止や利用料の値上げ等にお墨付きを与えるだけの、行政の意向を反映したテーマを選定する傾向も散見される。テーマを選定した理由にも説得力が要求される。
@ 「税の賦課・徴収」は、一般に新味のないものが多い。もし取り上げるとすれば、地方分権の時代にふさわしいものにするなど、今後このテーマは新しい視点がないと単に先例をなぞるものとなろう。今回の監査報告書には高水準(A評価)のものは見られなかった。
最低限クリアすべき要件としては、事務処理の適法性は当然として、その上に、
@ 個人情報保護の観点を含むシステム監査の視点
A 課税の公平の見地に立った課税漏れ防止手続の検証及び課税標準算定・賦課金額決定の手続の検証
の2点がある。この2点について水準以上の監査を行っていた場合はB評価とした(今回は福岡市のみ)。12年度は京都市と大阪市がB評価であった。
なお、徴収の効率化、滞納対策についてはどの監査人も必ず触れているが、その対策としてOBを含む嘱託の活用や納税組合の活用を推奨しているものは、個人情報保護の観点からは疑問である。
A 「公有財産・物品管理」も新しい切り口を開くのは難しい。
「土地」を取り上げる場合であれば、単に遊休化していることの指摘や見通しの甘さを指摘するのみでは不十分で、そこに至る政策立案の過程や責任の所在を分析する必要がある。また、現場(土地であれば現地)を実際に確かめているかも重要な要素である。今回B評価となった静岡市や相模原市は、写真や図面をふんだんに盛り込んで臨場感あふれるものとなっている。もちろん現地を見たからそれだけでいいというわけではない。両自治体の場合は現在の状況を訴えるだけでなく、そこに至る経緯まで分析しているので総合してB評価となった。
「物品管理」に関しては、分割発注による随意契約の問題や期末における大量発注の問題が既に明らかにされている。これらについて検証を行っていない(問題がないという意見の場合はそう判断した根拠を明確に示していない)ものは欠陥である。
このテーマも3年間を通じてA評価はない。今回は石川県、静岡市及び相模原市がB評価だった。過去の事例としては12年度の山梨県、豊橋市、和歌山市(B評価)、11年度の長崎県(B評価)がある。11年度は、神奈川県及び岡山県もB評価であったが、今の採点基準からはC評価である。なお、「契約・委託関係」についてはCを参照。
B 「施設管理・運営」もAと同じく赤字の事実を指摘するだけでは不十分である。企画段階に遡って収支見通しに問題はなかったか、その決定に関する責任の所在はどこにあるのかを検証しなければならない。
また、行政コスト計算を行う場合には、現在の運営コストを計算するだけでは十分ではない。建設コストまで含めたところでの妥当性を3Eの視点に立って分析する必要がある。仮に、相応の財政負担を行っても必要な施設との判断がされていたのであれば、政策目的に対する有効性が厳しく問われなければならない。単に自治体にとって重要な施策であるとか、必要な施設であるというだけの理由で不問に付すというのでは監査の意味がない。
美術館、博物館等は、運営を自治体が出資する財団法人、株式会社等の第三セクターに委託していることが多い。この場合はFで述べる視点が重要である。まれに、施設の管理・運営を第三セクターに委託しているにもかかわらず、その第三セクター自体の経営管理の内容には触れていない監査報告書があるが、問題外である。
このテーマもこれまでA評価はない。今回のB評価は秋田県、山梨県及び横須賀市。12年度のB評価は愛知県、京都府、京都市、北九州市。11年度のB評価は和歌山県である。契約・委託関係についてはCを参照。
C 「契約・委託・土木建築」は監査報告書の優劣がはっきりと現れるテーマである。
端的に言って、過去の事跡について特に入札関係について問題がなかったかを十分に検討しているか、及び監査意見でどこまで踏み込んだ提案をしているかが問われる。
いまだに、表面的に手続が規程どおりに行われているから問題はないとしているものもある。「問題なし」と言い切るためには、入札に参加した業者数、不当な参入制限がないこと、落札率等について説得力のあるデータを示す必要がある。談合について直接的証拠の収集は困難でも、過去に遡って検証すれば、落札率、1位不動の状況、予定価格内1社、落札の循環性などから談合の存在は容易に推定することができる。監査はその分析まで行い、談合の疑いと改善を明確に指摘するべきである。
随意契約がなされているケースは、天下りや既成利権がかかわっている場合が非常に多い。監査対象中に随意契約の部分が含まれるときには、その理由と実態にわたって検証がなされなければならない。単に随意契約の基準内であるからよしとするのでは不十分である。
改善提案についても微温的なものが多い。少なくとも過去の優れた監査報告書や日弁連の提言等に目を通した形跡のないものは失格であるし、談合排除のための具体的行動指針が監査意見に示されなければならない。
また、委託先が第三セクターや官製の任意団体の場合には、実際にその委託先が業務を行う実態があるのかという視点も欠かせない。再委託(丸投げ)や、もっとひどい場合は委託に出したはずの仕事を自治体の職員が行っているケース(長崎県の監査人が命名した「自己に対する委託」)も多い。いずれも適法性の面で大きな問題があるはずである。
今回はA評価のものはなかった(今回C評価の鹿児島県は2年前であれば間違いなくA評価)が、12年度は長崎県と福山市がA評価であった。B評価としては今年の横浜市、昨年の三重県及び堺市がある。なお、契約関係は他のあらゆるテーマに共通する問題である。それぞれのテーマにおいても、上記の視点が甘いものは評価も当然低くなる。
D 「貸付金・債権管理・債務保証」については、単に滞納が多いことを指摘してその改善を求めるだけでは、監査として不十分である。
担当者が専門知識を持たず頻繁に人事異動があるという点は必ず指摘されていることであるが、批判するだけでなく、回収促進のための方策を、組織・体制の点に踏み込んで具体的に提案しなければ意義ある監査とはならない。また、貸付に関しては審査に問題があることもしばしば指摘されている。だとすれば、審査が甘くなる具体的原因を検証するのでなければ、今後の再発防止には役に立たないであろう。
そもそも自治体が行う貸付はそれなりの政策目的があって実施されるものである。債権保全に全く問題がないのであれば民間金融機関に任せればよい(もし低金利だけが必要な施策なのであれば利子補給の方が優れている)のであるから、一定の滞納や貸し倒れは最初から想定されているはずである。だとすればどこまでが許容範囲として想定されていたのかというのも重要な視点であるし、審査を厳しくしさえすればいいというものでもない。
「貸付金」の性格によっては、例えば、福祉政策との代替や中小企業が対象であれば他の振興策との代替が可能かという点も検討するべきである。少なくとも債務免除に伴う不公平はない。国の助成があるからという理由だけで漫然と続けているものもあるはずである。
政策目的に照らしての有効性も検証する必要がある。低利用率の場合は、宣伝広報の不足を言う前に、制度自体が役割を終えたのではないかという疑問を持たなければならない。制度維持にかかる人件費等もその政策のコストである。
以上のような視点まで踏まえたものという意味では、このテーマで優れた監査報告書は非常に少ない。制度の解説に始まって現状分析までで終わっているものが多い。少なくとも監査人の意見を明確に述べているものでなければC(平均的レベル)とは言えないし、政策目的の有効性という意識を持って現場(貸付対象)まで検証していなければB以上の評価はできない。
今回の監査報告書の中では三重県だけがかろうじてB評価だった。12年度は島根県が唯一のB評価であった。これまでのA評価としては11年度の宮城県だけである。
E 「補助金・負担金」も、監査報告書の優劣がはっきりするテーマである。
前項の「貸付金」よりもさらに明確に個別の政策目的がなければ意味のない分野だけに、有効性の検証が最大のポイントとなる。次いで公平性や透明性の検証が重要な要素である。また、自治体の予算の大きな部分を占める割には小口の多種多様な案件も多く、全体像の把握の程度や、実地調査の対象の選定基準も評価の要素となる。
有効性の観点で言えば、過去の優れた監査報告書で既に明らかにされているように、自治体の補助金にはその政策目的が不明瞭なものや既にその役割を終えたものが非常に多い。この点の検証を怠っているものはそれだけで欠陥である。当然のことではあるが、この場合には漫然と補助を継続している体質の根本にまで踏み込んだ分析や、改善の提案が必要とされる。
また、監査対象とした個別の補助金について、公益性、効率性が現存するかどうかを検証しなければ十分ではない。行政内部での検討の結論に追従するに至っては論外である。補助金はただでさえ多方面からの不純な圧力にさらされがちなのであるから、透明性(公開性)を欠く場合にはそれだけで不適正とするべきである。
今回は、宮城県がA評価だった。島根県、徳島県及び浜松市がB評価である。12年度は八王子市がA評価、埼玉県、鹿児島県、福山市及び長崎市がB評価。11年度は栃木県及び広島市がB評価であった。先行する優れた監査報告書が多いだけに、この分野で見劣りのするものは相対的に評価が一段と低くなる。
なお、他のテーマを取り上げた場合においても、補助金・負担金のからむことが多い。その場合は当然ここで述べた視点もポイントとなる。
F 「出資団体・財政援助団体」(財団法人・社団法人・社会福祉法人・株式会社等。以下、「外郭団体」という)は、今年のテーマとしては圧倒的に数が多かった。外郭団体に対する市民の疑問を反映したものとして、それなりに評価できる。
この「外郭団体」には大きく分けると2つの類型がある。行政事務の代行や施設管理運営を主たる目的とするものと、もっと大規模な事業経営を行うものである。中間的なものとして再開発事業を第三セクターが行うもの等もある。
外郭団体の存在理由も政策目的との整合性が最大のポイントである。外郭団体を多用する自治体のその根拠は機動性、効率性(独立採算制)であるが、それも政策目的との整合性があった上でのことである。
もうひとつの問題点は、本当に効率性を実現できているのかという点である。出向者の人件費を出向元(自治体)が負担したり、敷地や施設を無償または低額で貸与していることを無視して採算ベースについて問題なしとしているようなケースもある。
外郭団体の経営責任がいずれにあるのかという視点も重要である。形式的に別法人であっても、役員を現職の自治体の幹部が占めていたり有力なOBの天下り先となっているケースが非常に多い。
総じて言えるのは、外郭団体が議会や市民の目を覆うための隠れ蓑になってはいないかということである。その外郭団体が赤字を抱えている場合には将来的に自治体の財政負担となる蓋然性は高い。そこまで踏まえた上での有効性・効率性の検証が必要である。
逆のこともある。外郭団体が不当に高額な委託費等を受け内部留保を行っているケースや、高額な役員報酬や退職金を支給しているケースである。また、本来は許されないような再委託や、競争入札を回避するために外郭団体が利用されていることもある。
大規模な事業展開を行う外郭団体の場合は、長期的な採算性が重要な視点であるし、採算が取れていない場合(このような場合が非常に多い)は、需要予測を含めどのような根拠で政策決定がなされたがポイントとなる。政策決定過程やその根拠の信頼性まで検証する監査でなければ意味がない。
今回の監査報告書の中では、長野県のものが大変ユニークである(A評価)。長野県のほかには島根県がA評価。それ以外では三重県、兵庫県及び堺市がB評価である。昨年度は沖縄県がA評価、京都府、広島県、高知県及び長崎市がB評価だった。
G 「土地開発公社及び道路公社」(地方3公社のうち、住宅供給公社は次項の「住宅事業」で触れる)
政策目的に照らした上での3E監査がポイントである。塩漬け土地や累積赤字を抱えた有料道路についてその実態を解明するだけでは不十分なのは言うまでもない。その政策に関する意思形成過程の解明と責任の所在の分析が重要である。さらには、「土地開発公社」の場合は、その設置に関する根拠法たる公有地の拡大の推進に関する法律(公拡法)が既にその役割を終えているという認識も必要であろう。
公社自体の経営についてはFの「外郭団体」の場合と全く同様である。事業型の監査テーマ全てに共通して言えることであるが、現在の運営コストに問題がある場合には、その原因を検証した上で、実現可能な具体的改善意見を提示することが必要である。
今回は相模原市がB評価、他は全てC以下である。12年度は宮城県がA評価、八王子市がB評価、そのほか、山梨県及び高知県の場合は他の対象と複合したテーマではあるがB評価であった。
H 「住宅事業」(公営住宅、住宅供給公社を含む)
これについても、政策目的との整合性が重要であるが、住宅事業固有の問題として、政策目的そのものが時代とともに変わってきているという認識があるかどうかが問われるべきである。戦後しばらくは量の確保が最優先であった。その後一時的には質的な面でリードするという意義もあった。現在では、質・量ともに民間に劣っており自治体が住宅事業を行わなければならないという必然性は全くない。唯一存在意義があるとすれば、社会的弱者に対し低廉で優良な住宅を提供するという政策目標以外にはありえない。このような問題意識の感じられない監査報告書はそれだけで失格である。
なお、契約関係についてはC、家賃の債権管理という側面についてはD、住宅供給公社に関しては地方3公社の一つという意味ではGで指摘した事項も評価の要素である。
今回も含めこれまでにA評価の事例はない。今回は鳥取県及び八王子市がB評価であった。大分市は上記の問題意識としては非常に優れたものを示していたが、契約関係についての評価の甘さが減点となってC評価となった。12年度は北海道、埼玉県、大阪府及び鹿児島県がB評価だった。
I 「病院事業」は11年度、12年度ともに最も多いテーマであったが、今回テーマに取り上げられたのは6自治体にとどまり、ブームが去った感がある。
公立病院は例外なく多額の累積赤字を抱えている上、他の公営事業と違い民間との比較が容易なこともあって、どの監査人も経営分析には力が入っている。診療科別の損益分析は必須であり、監査人自ら試算せずに必要性を指摘するにとどまるものは低い評価となる。
経営分析の視点としては、そのほかに一般会計からの繰入金の分析、診療報酬の請求に関する分析、設備投資の生産性分析、医師・看護師の労働生産性分析等があるが、それらを総合してひとつの頂点に達したと言えるのが、今回の大分県(B評価)のものである。しかし、自治体の外部監査としては、「経営コンサルティング」に終わってしまっているものは高い評価をすることはできない。経営的に十分に成り立つものであれば、民間に任せておけばよいのであって、敢えて公立病院を維持する必要はないという逆説が成り立つからである。
特殊医療、高度医療、救急医療、へき地医療等、民間に委ねることの難しい分野に公立病院の存在意義があることは言うまでもない。だとすれば、本来公立病院は長期的な地域医療、もっと広く言えば地域福祉に関するグランドデザインがあって初めてその位置づけが可能になるのであり、その視点を欠いた監査報告書は評価が低い。この点では、今回は福岡県の監査報告書がもっとも優れていた(B評価)。
これは病院事業に限ったことではないが、福祉政策、文化政策等一定の専門知識を必要とする分野を監査対象とする場合は、専門家それも広い視野に立った客観的な評価のできるだけの見識のある専門家を補助者に起用する必要があると思われる。
適法性監査、経営分析、地域医療政策的観点の3つの要素全てにおいて高い評価のできる監査報告書でなければAランクとは言えないであろう。3点を踏まえた上で1つでも光るものがあればB評価、どれも平均的な水準であればC評価、どれか1つでも問題意識の足りないものあるいは分析の足りないものはD以下となる。
過去3年間で唯一のA評価は11年度の横浜市であるが、これは初年度のパイオニアとしての評価であって、現在の水準からすれば平均的レベル(C評価相当)である。今回のB評価は福岡県と大分県、12年度のB評価は長野県、静岡県、福岡市、長野市、静岡市、浜松市である。過去の蓄積がある分レベルは高くなっている。
J 「特別会計・公営事業」は、毎年コンスタントに選択されるテーマである。中でも多いのは、「上下水道」「農業・工業用水」「電気・ガス事業」に関するものであり、今回は19件、昨年度は14件あった。なお、今回の特徴としては「競輪・競馬事業」が2番目に多く5件もあった。
公営事業もご多分に漏れず赤字のケースが多いが、それだけに3Eの視点が欠かせない。基本的には政策目的との整合性であり、仮に赤字であっても必要な事業というのであれば費用対効果が厳密に分析されなければならない。この場合、代替可能な施策がないかも当然検討するべきである。一例を挙げれば下水道政策に対する合併浄化槽の検討である。
「上水道」の場合は、水源開発の問題は避けて通れない。しかし、既に決定済みの計画に対して監査人の姿勢が及び腰であるのはいただけない。長野市のように「ダム問題については判断を差し控える」とか、大分県のように「関係機関と検討されたい」というのであれば、何のための外部監査かということになろう。上下水道等を取り上げた監査報告書で優れたものとしては、今回は宮城県、京都市及び熊本市(いずれもB評価)、昨年度の神奈川県及び仙台市(いずれもB評価)、11年度の福岡市(A評価。但し現在の基準ではB評価)がある。
「公営ギャンブル(競輪・競馬等)」については政策目的としては財政的理由しかない、すなわち公共の福祉という観点からは百害あって一利なしと言っても過言ではないにもかかわらず、その百害の部分もコストであるという見識のある監査報告書は皆無である。かつては自治体の財政の大きな柱であった時代もあったが、今では財政的貢献もほとんどなく赤字転落が危ぶまれている(もしくは既に赤字となっている)。それにもかかわらず「女性や若年層に魅力ある企画を立てて増収を図る」等と提案する監査人の感覚は市民からはかけ離れていると言わざるを得ない。今回は辛うじて、事業としての継続性に疑問があるとして競輪場跡地を住宅開発した場合のシミュレーションを行っている京都府だけがC評価となったが、あとは欠陥である。
「交通事業」も数は少ないが関心の高いテーマである。交通事業の場合は取り上げるべき問題点も多岐にわたるが、網羅的に検討しているという点では集大成とも言えるのが今回の鹿児島市(A評価)である。交通事業の場合も自治体の交通政策の全体を踏まえる必要がある。そういう意味では現在計画中もしくは建設中の事業の評価の場合にこそ外部監査はその真価を問われる。今回の鹿児島市の場合は既存の交通事業のみを対象としているので、この点は評価に含まれていないが、交通政策全体を検討するという視点はあるのでA評価となった。現在進行中の事業の特に意思形成過程に着目した監査報告書では、テーマの分類では「出資団体・財政援助団体」となっているが、建設中のモノレールを取り上げた12年度の沖縄県の監査報告書が秀逸であった(A評価)。交通事業に関して水準以上のものとしては、今回は鹿児島市の他に福岡市のもの(B評価)がある。12年度はA評価はなかったが、横浜市がB評価だった。
「特別会計・公営事業」を取り上げたものとしては、以上の他に「産業・企業」「港湾、農林」等の分野があるが、今回は特に目に付くもの(B以上)はなかった。過去には昨年の福岡県(企業局全般、B評価)、福岡市(港湾、B評価)がある。
K 以上の類型以外にも、実に様々な、非常にユニークなテーマが並んでいる(「その他」として分類している)。一般的ではない問題を取り上げただけあって、監査人の問題意識の鮮明な優れた監査報告書も多い。その中でも特筆すべきは長崎県である。
12年度は「契約・委託関係」でA評価としたが、今回は(監査人はあまりにも問題が多いので今回も継続すると宣言しているが)その着眼点の鋭さに敬意を表して敢えて「その他」に分類した(今回もA評価である)。なぜかと言えば、外郭団体の中でも特に自治体との関係が密接な団体に対する委託契約は「自己に対する委託」であり、ほとんど脱法行為に近いという点を綿密な実証を踏まえて徹底的に批判しているからである。
他には、「ごみ問題」を追及した監査報告書に見るべきものがある。11年度の岡山市は残念ながら中核市を評価の対象にしなかったために参考としたが実質的にはB評価であるし、今回は八王子市がA評価である。長崎市はB評価であるが、12年度の「衛生公社」のレポートも優れたものだった(B評価)。
「その他」のテーマの場合には監査人の個性がはっきりと出るという意味で典型的なのが高松市である。11年度の「情報システム」でも高い評価をしたが、今回の「借金の次世代負担許容額について」及び「硬直化した人件費について」という2つのテーマは、ともに私達評価班を大いに楽しませてくれた(いずれもB評価である)。一方、同じ監査人が平凡なテーマを取り上げた12年度の場合は低い評価だったことは、いかに監査人の問題意識が重要であるかを逆に証明したものとも言える。
L 最後に、全てのテーマに共通して言えることを、もう一度まとめておきたい。
Cの「委託契約」、Eの「補助金・負担金」、また今回は分類から外したが「公金支出・需用費」はどんなテーマを扱っていても必ず関連してくる問題である。Fの「出資団体・財政援助団体」もしばしば絡んでくる。
問題の関連性、継続性を意識している点では、非常に優れたものとして一連の長崎県及び八王子市の監査報告書がある。
意思形成過程及びその責任の所在の検証も欠かせない手続である。現状の問題点を指摘している監査報告書でも、そうなった原因、責任の所在まで追及しているものは意外と少ない。また、問題点を指摘するときには監査人の対案も同時に示すべきである。そういう意味で、説得力のあるシミュレーションを試みている監査報告書は、高い評価となる傾向がある。
改善のために付する意見は、具体的、実効的で、実行可能性のあるものでなければならない。抽象的に検討を求めるだけの監査意見には価値はない。監査人自身が実効性の検討まで行って予想される効果を提示する必要がある。
何度も指摘しているが、適法性についての検証は全般的に甘い。相変わらず形式的に手続を踏んであればよしとする傾向がある。規程、要綱は見ても根拠法まで遡って検討していない。例えば自治体が外郭団体に職員を派遣している場合に、その根拠について適法性の監査が行われていないか、行われていても適法性に関する意見が述べられていない。派遣先に対し、
@ 地方公務員法などの観点から、公務員を派遣することが許される団体か。
A 許されるとしても、職務専念義務の免除、給与条例に基づき勤務しないことの承認が適法になされているか(最高裁平成10年4月24日判決、茅ヶ崎商工会議所事件)。
B 派遣された職員の給与が自治体から支払われていないか。
等について、監査は不可欠のはずである。
有効性の視点は、政策の可否判断が重要な要素であるだけに監査人としては意見を表明しづらいのもわからないことはないが、行政側の建前としての「公益性」に無批判に追従する(容認する)のでは、やはり外部監査としての価値を認めることはできない。
外部監査には、定型の様式というものが定められていない。これまでバリエーションに富んだ監査報告書が各地で公表された。そのこと自体は悪いことではない。定型的な様式が固まってしまうと、形式さえ整えればよいという悪弊が生じることが容易に想像される。制度施行3年目となり、全体的に見てまとまった形式を整えるようになった。しかし、昨年度も指摘したが、最低限押さえなければならない要点というものがあるはずである。@監査人の氏名と資格、A補助者の氏名と資格、B監査テーマとそれを選定した理由、C監査の視点、D監査範囲、E監査手続、F監査期間と監査日数、G監査結果、問題点と改善を求める事項、H監査人の意見、I利害関係等は、少なくとも監査報告書自体に書くべきである。このAの点は、昨年の指摘もあってか、記載された監査報告書が増えたが、なお改善されていないものが多い。また鹿児島県は、3年間の外部監査従事者を表にし、監査テーマを選定方針とともにまとめている。Fの点で監査日数を明らかにしたものは本年度の兵庫県のものが唯一であり、1つのモデルとなろう。
監査報告書に監査人の名前が記載されていなくても別途調査すればわかるとはいえ、基本的な説明責任が監査報告書で尽くされていないことになる。その監査報告書に監査人が「私は地方自治法252条の29の規定により記載すべき利害関係はない」と記載しても、監査人氏名の記載がないのでは、当該自治体と誰との間の利害関係がないのかわからない。
なお、12年度は秋田県・群馬県・東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・山梨県・京都府・島根県・札幌市・千葉市・いわき市・岡山市・熊本市・文京区は利害関係の有無についての記載がなかったが、本年度も、群馬県・千葉県・東京都・神奈川県・山梨県・静岡県・兵庫県・千葉市・いわき市・堺市・姫路市・岡山市・宮崎市・港区・文京区については利害関係についての記載がない。利害関係があれば当該監査が行えないのだから、監査している以上利害関係はないという前提かもしれない。しかし、監査人(父母・祖父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹)の一身上に関する事件または自己もしくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については監査することができない旨を定めた法の趣旨を尊重して、監査報告書にその有無を明記すべきであろう。また、監査人補助者についても、同様に利害関係の有無は考慮されるべきであろう。
11年度は、テーマ選定の理由が述べられていない監査報告書もあったが、昨年度・本年度とそのような監査報告書はほとんど見られない。しかし、説明が形式的でおざなりなものはある。監査の視点や監査手続もほぼ書かれるようになった。監査の対象と視点の目的意識が明確でないと、ただ結論として「問題なし」「指摘事項なし」「適法」「合規」とあっても疑問が残る。監査の手法と手続、そしてデータ(出典を含む)とその根拠、個別的検討がわからないのでは、読者としては判断に迷う。
また、上記の項目を全て書いてあっても、具体的な検討結果が明確に書かれていなければその監査報告書は説得力に欠ける。これまで市民オンブズマンが告発したカラ出張やカラ飲食、さらに不必要な公費支出、不当な随意契約や談合による契約でも、形式的には合規性を備えた書類は作成されていたのである。形式ではなく、実質的に必要・適正かが問題である。また、今回の監査報告書でも、既にマスコミ報道等で不正があることが明らかなのに、全くあるいは十分に検討をしていないものがあった。
少なくとも、重要な監査結果、監査意見については、判断の根拠となった具体的事実や監査手続を記述すべきである。今回の評価で一見同じような監査結果や意見を付していても、B・C・Dと評価が分かれた(A及びEは逆に特徴がある)。その手続や記述が、どれだけ調査の作業の裏づけや信頼性があり、具体的事実に基づいているかによる。評価班では、監査報告書のボリュームを評価の直接の要素にはしなかったが、あまりにも少ない紙数では以上の点を満足するのは不可能である。昨年、全文でA4版10〜20頁程度の監査報告書は低い評価となった。今回はいわき市を除き全体的に増頁している。
もちろん、監査報告書の価値は、監査の活用度や有効性にあり、字数・紙幅で決まるものではない。しかし、1000万円以上もの報酬を得た監査報告書としては、形式的に必要な資料データや説明事項を除いて、10〜20頁以上の指摘事項、改善意見が必要ではあろう。監査報告書にはそれ自体に「説明力」が要求される。それは、監査人の「説明責任」である。
また、法252条の38第6項の「監査の結果として参考として措置を講じたとき」の監査結果には意見書を含めるべきと考えるが、意見書はあくまで意見と解する行政側のルーズな対応を許さないため、純粋な意見以外は「監査の結果」に含める形式が相当である。監査結果を少なくし、意見書が多くなっているものは見直すよう求めたい。
今回も監査人によって、取り上げたテーマの数にはバラツキがあった。過去3年間を通じて言えることは、数が多いことが決して監査の質にはつながらないということである。むしろ、ひとつひとつのテーマについては浅いものになる傾向がある。
監査報酬からしても、きちんとした仕事をしようと思えば1年で多くのテーマをこなすことが現実的ではないことは、私達にも容易に想像がつく。むしろテーマは1つか2つに絞ってその分、充実した監査が行われることを望みたい。
同じようなことは、ひとつのテーマの中でも言える。すなわち、財政援助団体や貸付金、補助金等のテーマの場合は、一般的に対象となる件数が非常に多い。これを網羅的に監査しようとすれば、個別の問題点について見方が甘くなる傾向は避けられない。
ただし、この場合は全体像の把握も重要な視点であるので、要領よく全体像を示した上で、いかに問題の多いケースやその奥底にある病巣を抽出するかが、監査人の腕の見せ所である。そういう意味でバランスのとれた監査報告書は、数多くはない。
強いて言えば、補助金をテーマにしたものに優れたものが多い。たとえば昨年の八王子市(A評価)や福山市(B評価)である。今回は、浜松市が補助金をその性格等によって分類し、そのグループごとに分析を加えるというわかりやすい非常にユニークなものだった(B評価)。
逆に、財政援助団体等がテーマの場合は、個別にとりあげる団体の選定基準が明瞭でないものが多い。中には、問題の多い団体を意識的に避けているのではないかと思われるようなものもある。
また、実行委員会等の任意団体について触れているものも非常に少ない。私達が経験的に知っているところでは、行政の「別働隊」としての任意団体には特に問題が隠されている。これを正面からとりあげたものとしては、唯一今回の長崎県の監査報告書(A評価)があるだけである。
行政当局の協力度は、私達にはほとんど窺い知れない部分であるが、まれに11年度の鳥取県のようなケースが表面化することがある。今回は三重県の例がそれに当たる。三重県の場合は、監査人の言を信じるとすればかなり悪質である。具体的には、資料を「廃棄した」と言って提供しない、日によって言うことが変わる等々、一時は監査打ち切りを宣言せざるを得ない状況だったという。三重県はこれに対しては責任ある回答をしなければならない。
一方、あまりにも緊張感に欠ける場合も問題である。行政からの要望に基づいてテーマを選定したという話も、実際に耳にすることである。中には「答案」まで準備してあるケースもあるらしい(私達のところに内部告発があったが、現在のところ立証が困難なので公表はしない)。
これは、行政側の要望なのかどうか不明であるが、すっきりしないのが福岡県のケースである。今回は県立5病院をテーマとして取り上げ(テーマは1つだけである)、廃止を含めて検討するよう求めているが、福岡県では行政改革審議会が同じ問題について昨年の11月の段階で同じような中間答申を行っている(最終答申は今年8月9日、県直営をやめ4院は民間移譲、1院は公設民営へ)。もちろん、似たような結論だから直ちに不当だということにはならないが、県当局の意向をも汲んだ連携プレーではなかったのかという疑惑は残る。監査人も行革審の会長も公認会計士である。少なくとも監査の実施中に行革審の中間答申が公表されたのであるから、監査人は監査報告書の中できちんとこれに関する見解を表明するべきであった。
前にも述べたように、私達は公表された監査報告書だけを採点しているのであって、当局の対応や監査人の主観的な意図は評価対象外である。福岡県の場合も、他の病院をテーマとした監査報告書と客観的に比較検討した結果B評価としたが、評価班の中には異論もあった。
今回の外部監査でも、95自治体中83自治体で公認会計士が監査人に選任されている。これは、監査の専門家としての公認会計士に期待が寄せられた結果である。しかし、公認会計士協会をはじめ、行政への採用の働きかけの結果でもある。かくして選ばれた公認会計士は、よくその期待に応えたといえるであろうか。
この点、まず課題となるのは最も重要な適法性の監査についてである。多くの公認会計士は、補助者のスタッフを得て、狭い意味での合規性に関しては、経験を活かして手堅く監査を実施したと見られる。しかし、形式的な合規性を満たしていればよしとする傾向もあり、真の意味での適法性にまで踏み込んでいないケースがある。
また、弁護士が監査人に選任された場合は、ほとんどの場合補助者に公認会計士を起用するが(総務省調査によると12年度は7自治体の弁護士監査人のうち6自治体で公認会計士を補助者として採用している)、その逆のケースでは、弁護士を補助者に起用してこの点を十分に検討させた例は少ない(総務省調査では、12年度で公認会計士が監査人の全81自治体のうち8県、1政令市、1中核市の計10自治体にすぎない)。また、総務省調査では、12年度の包括外部監査に従事した補助者の総数は580人で、弁護士29人、公認会計士439人、税理士22人、行政実務精通者9人、会計士補38人、監査法人職員27人、情報技術者3人、大学(助)教授5人、コンサルタント8人で、公認会計士、会計士補、監査法人職員を合計すると504人となり、補助者全体の約87%を占めている。
適法性監査が外部監査として必要不可欠であるにもかかわらず、この2年間での公認会計士の監査人による外部監査では実質的な適法性監査が不十分であったことを考えるならば、適法性監査の側面における能力のある弁護士など法律専門家の補助者との積極的な連携を検討する必要がある。
3E監査に関しては、一部には無視されたものもあったものの、当然のことではあるが効率性・経済性についてほとんど言及されている。年々この点を意識したものが増えている。その内容は、なお一般論に終始しているものが多かったが、自治体が活用し得る見識と具体的意見を備えた監査報告書が増加した。しかし、有効性について見るべきものはまだ少ない。行政の本質や公共性・公益性の評価に係わり困難な面があることも事実であるが、是非挑戦して欲しい。
過去、監査法人所属の公認会計士が監査人に選任された場合の監査法人のかかわり方の問題を指摘した。特に、大都市圏で大手監査法人所属の公認会計士を選任するケース(政令市では12市中11市)が目立ち、大手監査法人は本部に外部監査チームを設け、監査法人のスタッフが組織的に対応していることである。
大手監査法人が組織的に対応した場合は、監査実務の一定の水準確保、他の自治体との比較の容易性、特定分野の専門家の補助者起用、経験の集積等のメリットはある。しかし、逆に、大手監査法人ゆえの監査結果や意見で、改善点をはっきり指摘しない、曖昧さ・弱さを残すといった傾向はデメリットである。大手監査法人の公認会計士が監査人に就任した場合、コンサルティング的、経営助言的な側面からの監査に重点をおくことで、適法性監査の側面からの批判的視点が不十分になっている点も問題である。監査の対象となる自治体と監査人との間には強い緊張関係が要求される。助言的視点だけでなく、住民の視点に立った批判的視点とのバランスの取れた監査を行うことが必要である。この点で、現行法上、独立性の見地から監査人が監査法人でなく個人であることを要求していることを忘れてはならない。
5.監査人が弁護士・税理士・会計検査院OBの場合の課題
今回は、弁護士が監査人となっているのは9自治体(うち1名は公認会計士の資格を併せ持つ)に過ぎず、全体的傾向を言うには昨年同様数が少ない。昨年、監査人の独自性が、監査対象、監査結果、意見に比較的強く出ていると指摘したが、堺市を除き、補助者として公認会計士のスタッフを抱えるなどしており、監査人が公認会計士の場合と変わりがなくなっている。そして、専門の適法性監査とともに、有効性・効率性・経済性に踏み込んだ評価が期待されたが、その点は今回も監査人が公認会計士の場合と同様である。
税理士は2名、行政実務精通者は1名(会計検査院OB)であり、昨年同様、相対比較は難しい。
公認会計士協会や弁護士会、税理士会では外部監査についての研修も行われ、監査人に選任された者の間での研究交流の機会もあるようである。その効果も監査報告書に反映されている。私達としてはこれらの研修・研究がより開かれた場としてなされるよう期待する。
公認会計士、弁護士、税理士、行政実務精通者を問わず、外部監査についてのノウハウが蓄積され、各会の研修会や研究会も、市民、学者、行政担当者にも開かれ、実践経験や意見が交換できる開かれた機会を求めたい。
今回の評価も、報酬額を直接評価基準にはしていない。報酬額は、監査内容と監査報告書の充実度により、安いとも言え高いとも言える。今回総合A・Bとされたものでは報酬に見合う仕事はしていると考える。監査を行うことにより監査報酬額の5〜10倍の行政経済効果が期待されて当然、という考え方がある。これは、行政当局に監査報告を活かす意思がないと経済効果は実現しないが、経済的な目に見える監査効果の目安として参考になる。
なお、私達の個別評価は報酬額によって評価を変えるようなことはしていない。しかし、D・E評価については、そのランク付けからして報酬額と監査結果のバランスが反映されている。これらは、実報酬に対して監査報告書内容が市民に説明できている成果物とはいえないと考える。市民の声を代弁すれば、専門家として尊敬され選ばれた者が十分な調査検討をする関係でいえば、プロフェッショナルとしてのボランティア精神を求めたい。この点、800万円代でも2年連続A評価となった八王子市のものは、率直に高く評価したい。
A〜Eのランク付けにあたっては、個別テーマごとにA〜Eの評価をし、その上で、例えば3テーマの監査報告がある自治体で、各テーマの評価がそれぞれA・B・Cである場合、その中で最も良いAを採用した。このやり方は、B・C・D・Eについてもほぼ同様である。
ただし、例えば2テーマの監査報告がある場合に、それぞれの評価がBとEの場合とCとCの場合ではどちらの監査報告が役立つのか、あるいは不公平な評価になるのではないか、という批判も生じよう。しかし、評価班では、複数テーマがある場合は監査人は最も良い評価となったテーマを中心に監査を行ったものとして、以上のようなランク付け方法を採用したものである。
今回の総合A評価は、都道府県では宮城県・長野県・島根県・長崎県、中核市の鹿児島市、それに条例市の八王子市の監査報告書の合計6つである(以下、自治体名で評価を付すが、それは当該自治体の監査報告書のことである)。長野県・長崎県・鹿児島市は1テーマでA評価、宮城県・島根県・八王子市は2テーマのうちの1つでA評価を獲得し総合評価でAとした。
このうち、宮城県と八王子市の監査人は2年目、他は3年目である。なお、宮城県・長崎県・八王子市は昨年に続いての連続A評価である。同一監査人の3年連続A評価はない(宮城県は自治体としては3年連続であるが、11年度の監査人は別人である)。11年度は宮城県のほか横浜市と福岡市がA評価だったが、同じ監査人が昨年も今年もコンスタントにB評価を獲得している。
今年のA評価は力作・大作が揃っている。まず宮城県は、補助金のテーマ(総頁数A4用紙100頁)でA評価である。有効性・必要性に視点を据え、指摘事項も明快かつ具体的で、12年度の八王子市の監査報告書に勝るとも劣らない優れたものである。
長野県は、農業農村整備事業という異色のテーマでA評価を獲得した。農業水利改良、土地改良、農道、中山間整備、農地防災、農業集落排水事業など実に47の個別事業について詳細な分析を行い、具体的な改善策を提言している(総頁数175頁)。学者との共同作業という点でも異色である。
島根県のものは、県の概要から説き起こす格調の高い2テーマで県報112頁(A4用紙141頁相当)に及ぶ大作である。特に個別Aの出資団体に関する分析は詳細を極め、評価も適切である。細部を論じても常に全体の中での位置付けを怠っていないので見晴らしが良い。読者は迷路に迷い込むことなく全体像と個別の問題点を同時に把握することができる。
長崎県は、公報31頁と紙数こそ他のA評価の監査報告書より少ないが、その切り口は昨年よりもさらに鋭さを増している。県と特殊関係者との取引だけに的を絞り、「自己に対する委託」という命名は問題の本質を一言で言い切っており絶妙である。監査人の指摘に対する当局の反論を紹介し、それに対してさらに批判を加える手法は昨年と同様である。
鹿児島市のもの(A4用紙183頁)は、多少甘いA評価である。評価班の中でも最後まで異論があった。しかし、交通事業を取り上げた監査報告書の中では一つの到達点を示す象徴的な意味合いを持っており、A評価とすることにした。
八王子市は、昨年に引き続き外部監査の新たな可能性を示すユニークな監査報告書である。報酬額が都道府県のレベルと比べると格段に低い(832万7550円)のも昨年と同様である。今年A評価を獲得したテーマは清掃事業(A4用紙102頁)であるが、ごみの分類別の処理コスト計算や環境会計の視点の導入などに監査人の意欲がうかがえる。なお、環境会計にふれた監査報告書としては、ほかに京都市(B評価)のものがあった。
総合B評価は、秋田県・石川県・山梨県・三重県・兵庫県・鳥取県・徳島県・福岡県・大分県・横浜市・京都市・福岡市・横須賀市・静岡市・浜松市・堺市・岡山市・高松市・長崎市・熊本市・相模原市の計21自治体である。なお、総合A評価の6自治体のうち単一テーマを除く3自治体はいずれももう1つのテーマも個別評価Bである。
年々テーマを1つに絞るケースが増え、それらが比較的高い評価を得ている傾向がある。A評価では昨年は5自治体中1自治体、今年は6自治体中3自治体、B評価では、昨年は29自治体中9自治体、今年も21自治体中9自治体が単一テーマだった。
一方、3テーマ以上選定したケースは高い評価を得ることは少なく、A評価では11年度まで含めると3年間を通じて皆無、B評価では12年度が29自治体中7自治体、今年は21自治体中2自治体(三重県・高松市)のみであった。これらの数字を見ると、力が分散しては良い結果は出ないということが言えそうである。
B評価全般について言えることは、ほとんどが多角的に丁寧な仕事をしており、適法性監査と3E監査のバランスもとれているということである。一方、数は少ないが、独自の切り口で生彩を放っている高松市や浜松市のような例もある。
また、監査報告書の構成や、写真や図表の使い方等、表現に工夫の見られるものが多いことも特徴である。具体例をあげると、監査報告書の構成については兵庫県・堺市など、写真の使い方としては静岡市・相模原市など、他の監査人も大いに参考にして欲しい。
なお、静岡市と相模原市については、監査人が同じ監査法人所属の公認会計士であり、テーマの選定や視点、表現の手法等が酷似している点を問題視する意見もあったが、仮に連携があったとしても、それが良い結果につながっているのであれば不問にしようという意見の方が多数であった。一般論として監査法人が関わった場合の弊害については昨年の通信簿で述べた。
そのほか、システム監査や環境監査など、従来の会計や経営分析の枠にとらわれない視点を取り入れた監査報告書も徐々に増えてきており、これらは良い傾向と言える。テーマ自体の斬新さでは、土地改良事業を取り上げた岡山市と、警察に踏み込んだ鳥取県が光っている。
C評価は47自治体である。自治体数では全体の約半数を占め、平均的なレベルとも言える。ただ、全体的にレベルが上がっているため、昨年までであればB評価となってもおかしくないような監査報告書でもC評価にとどまった場合もある。病院、補助金、委託費、財政援助団体等の先行する優れた監査報告書の多い分野では、相対的に点は辛くなる。
例をあげるとすれば、公共工事の入札・契約制度をテーマとした鹿児島県の監査報告書がある。談合対策等、具体的な提言は非常にまっとうな内容であるが、特に目新しい指摘ではないし過去の入札の検証が甘いという意見の方がまさった結果、C評価となった。11年度であればA評価だったであろう。
そのほかに特筆するとすれば、千葉県の「裏保証」文書の指摘がある。どこの自治体でもこれに近い噂は絶えないが、その存在を明るみに出した功績は大きい。残念ながら、レポート全体としては、「裏保証」を行わなければならないような事業そのものに問題があるという展開にはなっていないためにC評価となった。
総合D評価は、青森県・茨城県・栃木県・埼玉県・東京都・富山県・高知県・佐賀県・熊本県・郡山市・新潟市・富山市・岐阜市・文京区・豊島区・荒川区の16自治体である。
D評価は、昨年ならCのものも今回は一部Dになった。C以上のものと比較すると何らかの欠陥があると考えてもらいたい。はっきり言えば、監査人の姿勢の問題である。いやしくも専門家である以上、市民の負託に応えようという気持ちさえあれば、少なくとも2つのうち1つはC以上の監査報告書は書けるはずである。それができないのは、視線が市民に向いておらず、行政当局の方を向いているからだと言わざるを得ない。
16自治体のうち、荒川区が単一テーマでD評価、埼玉県・高知県・熊本県・文京区が2テーマ選定で共にD評価、東京都・富山市が3テーマ選定で全てD評価、茨城県が4テーマ選定で全てD評価である。このほか、青森県・佐賀県・郡山市・新潟市・岐阜市・豊島区が2テーマ選定でDとE、富山県が3テーマでDDE、栃木県が4テーマでDDDEである。
総合E評価は、宮崎県・いわき市・金沢市・姫路市・倉敷市の5自治体である。いわき市は単一テーマ、宮崎県・倉敷市は2テーマで共にE、金沢市・姫路市は3テーマで全てEである。
この中で昨年に続き連続Eは、いわき市のみである。参考のために12年度E評価のものについて今年の結果を追うと、福井県・秋田市はC評価、新潟市はD評価、豊田市は監査人の交代があってC評価である。いわき市と新潟市以外は明らかに反省の色が見える。
ちなみに今年のE評価の前歴を見ると、12年度は宮崎県がDとEで総合D、いわき市は単一テーマでE、金沢市は3テーマでDEEの総合D、姫路市は単一テーマでD、倉敷市は2テーマで共にD、11年度は中核市と条例市を評価対象にしなかったので参考になるのは宮崎県だけであるが、2テーマ共に4段階評価のD(現在の評価で言えばE)だった。いずれも「懲りない面々」との声があった。ただし、倉敷市以外は今年が3年目で交代が決まっており、後任者の奮起が望まれる。
また、昨年に比べると多少ましになる傾向は見られ、中にはDとすべきとの意見が出たものもあった。例外がいわき市である。評価班のメンバーからは、いわき市は別格でありFランクを新設すべきという声が出た。
以上のとおり、各自治体の監査報告書を評価したが、全体として何点か指摘しておきたい。
@ 全国的に見ると、3年目となり自己及び他の監査経験を生かされたものも増え、また私達市民オンブズマンの指摘も反映し、一般的には監査報告書の内容は向上している。実施3年を経て、外部監査制度はより定着しつつあり、中核市・条例制定自治体も増えている。
A 外部監査実施3年間で、より広範な対象テーマが取り上げられた。そのテーマは一応分類したが、重複する分野も多い。自治体が抱える問題領域は広く今後の新課題は尽きない。既に取り上げられたテーマについては新視点を加え、先例の監査の成果に上乗せして取り組まれることが期待される。監査結果の良否は、テーマの選定と監査の視点により半ば決まってしまう印象を受ける。監査人の問題意識が重要である。
B 3年間継続した監査人の監査報告書で、3年間のまとめや意見を述べられている鹿児島県の例もある。監査人の3年の経験の率直な意見をまとめ、詳しく公表されると、後任の監査人だけでなく制度の発展にも役立つ。
C 最後に、3年間の「通信簿」を通して、監査人の「能力」の差なのか「努力」の差なのかは別として、自治体により大きな較差がある。
監査人が熱心に取り組んでも、結果として私達が拍手をおくるようなものにならないことはある。「ツボにはまる」という言葉もあるように、狙いが成功する場合とそうでない場合もある。この点、先例のない外部監査において、2年以上連続してA・B水準を維持された監査人には改めて敬意を表したい。しかし、総合D・E評価の連続というのは、率直に言って反省して欲しい。そして、自治体としても監査人の人選をも見直すべきであろう。
外部監査は、監査報告書が提出され、公表されることによって終わるものではない。
いかに鋭い監査が行われ、いかに住民にとって有益で有効な意見が監査報告書に提示されても、監査を受けた自治体の首長、議会、あるいは指摘された関係団体やその責任者が、監査の結果を真摯に受け止め、指摘された点について原因を究明し、監査意見に示された是正、改善提言を実際の行政に活かさなければ、外部監査制度は全く役に立たない。
制度化して3年目の13年度の外部監査で、これまで自治体内部に潜んでいた問題、欠陥、損失、負債、リスクなどがディスクローズされたものも少なくない。外部監査により、一般的には情報公開されない部分がまとまって整理されて市民に公開されるなどして、役立つものが多い。したがって、A・B・C評価の監査報告書であれば、行政のみならず市民にとっても十分に参考になるものである。もちろん、D・Eのものは無視せよというものではない。逆に是非比較のために見て欲しい。
昨年の通信簿では、11年度の外部監査がどう活かされたかについて初めて調査した。
法252条の38第6項によれば、監査結果の報告の提出を受けた長、対象団体、各種委員会またはその委員は、監査結果を参考として措置を講じたときは、その旨を監査委員に通知し、監査委員はこの通知事項を公表しなければならない。したがって、その措置の有無や内容についても調査したが、その結果、措置を講じていない自治体があることに驚いた。このような自治体には監査報告書を参考にする気がないか、また参考にすらできないというのであろうかと問いかけたい。
法的には、監査報告書の指摘事項や意見に対しては逐一措置すべき義務はなく、行政・議会・関係団体の判断努力に委ねられている、という解釈であろうが、これでは「行政責任」は果たせない。もちろん、市民への「説明責任」も果たすことができない。
また、措置を講じても、比較的きめ細かい対応をした自治体と、おざなりで形式的な対応しかしなかった自治体との差があった。監査対象となった担当部局や団体が承服しがたい点があるならば、監査人からの指摘点に対しての「反論」「反応」があって然るべきである。
さらに、講じられた措置結果の公表物をみると、自治体によって公表された措置の量と質にも大きな違いがある。公報紙面での公表分量を比較しても、1〜2頁程度のものから20頁以上のものまで様々であったが、5〜7頁程度までのものが多い。もちろん、措置内容は、監査報告における是正措置等の指摘が十分かつ適切かにもより、なお自治体が実質的にとった対応や改善措置の内容が大切であるから、公表内容だけで是非をいうことはできない。しかし、この公表内容の丁寧さから自治体が監査報告に具体的に対応し尊重しようとする姿勢の差は見てとれる。
自治体が指摘された点や意見に丁寧に対応しないのでは、監査人の労に報いるものではない。また、市民に対しての行政の説明責任を欠くもので、非難に値する。私達は昨年の通信簿で、監査報告を受けた自治体は監査結果を真摯に受け止め、迅速かつ確実に改革を実行していくことを強く求めたが、今年についても同様の指摘ができる。
3.外部監査と行政当局の評価(受け止め方)−総務省調査から
@ 12年度監査結果について、11年度同様、総務省調査で監査結果に対する各自治体の意見・評価がまとめられている(<別表3>)。また、制度への意見ないし要望も示している。ここには、アンケート回答担当者の個性も影響しているかもしれないが、この調査に対して意見を述べない、あるいは回答自体をしない秋田県・山口県・京都市・広島市・秋田市・宇都宮市・新潟市・熊本市の姿勢は理解できない。
昨年の通信簿で私達が監査報告書を「A」とした宮城県は、11年度調査の回答とは異なり、「指摘事項及び意見は厳しいものもあったが大半は県政を進める上で貴重」とし、長崎県は「監査の結果に関する報告では様々な角度から指摘が行われており制度導入の趣旨が十分反映されている」と11年度同様の文言で回答した。また、沖縄県は、「外部の専門的知識を有する者としての視点から監査が行われた。必要な措置を講ずることとしたい。包括外部監査人の監査は職員の意識改革及び財政援助団体等のあり方についての検討に資するものと考えられる」と高い評価をしている。福山市は「専門的な知識に基づき適法性及び効率性等について監査の結果に関する報告が行われており、評価できる」と、11年度より一歩評価が具体化し、八王子市は「組織を超えて横断的に監査が行われた結果、監査委員の行う結果とは異なる視点から種々のことが指摘されている。事務及び事業の経済性及び効率性をさらに高めていく必要があることを改めて認識した」と、11年度の「これまでと異なる視点からの指摘が行われた」よりも評価が大きく高まっている。
一方、私達が「E」評価とした福井県・秋田市・いわき市・新潟市・豊田市についてみると、福井県は「おおむね妥当なものであったと考えている」と11年度同様で、県も監査人の監査報告書の「おおむね妥当」に満足しあっている観がある。また、秋田市は、12年度調査に対しても評価回答無しであり、市当局に外部監査制度自体に対する積極さがみられない。いわき市は、「公認会計士という専門的見地からの監査の結果に関する報告及び意見が提出されており、これらは今後病院の経営に役立つものと考えられる」と監査人を評価している。新潟市は、11年度は回答しているが、12年度については回答がない。豊田市は、私達の調査が及ばず「通信簿」をつけなかった11年度の監査報告書について「・・・概ね適正という評価を得られたため、事務及び事業を執行していく上で自信が得られた」と自画自賛の評価をしていたが、12年度は同じ監査人の監査報告書に対して「専門的な知識や経験等に基づく指摘が見受けられ、効果があったものと考えている」としている。
以上のように、総務省調査に対する極めて簡単な評価のコメントからも、外部監査に対する自治体の「受け止め方」について格差がみられる。これは、監査報告書自体の内容にもよるが、首長以下行政当局の制度を活かそうという姿勢の格差でもある。
A 制度自体について改革の要望・意見が47都道府県中4都県で出されている。東京都は「財務監査だけでなく行政監査も包括外部監査対象とすべきである。知事部局、監査事務局の役割が不明確で、今後は外部監査契約に基づく事務処理を付帯的に行う部局を一本化するよう助言すべきである」、兵庫県は「制度の運用状況の情勢交換の機会を設ける必要がある。監査事務局は包括外部監査人の補助を行うこととするよう法定すべき」という制度運用に関する意見がある。兵庫県の意見は、監査事務局にリードされた外部監査になる心配がある。むしろ、監査事務局自体の独立性確保の改革が先であろう。行政監査も対象であると正面から認めようとする東京都の意見は賛同できる。現状でも、意義・実効性ある外部監査のためには、財政監査から行政監査に踏み込むことも避けられないからである。
なお、福島県の「意見の公表の可否を法定・明記すべきである」という意見は、当然公表すればよく、法律に明記するまでもなく実行すべきである。また、熊本県の「包括外部監査人は行政知識不足で情報提供等準備に時間を費やしている」などの指摘は、自らの責務を忘れ、また監査人選任の責任を棚に上げたコメントのようである。
さらに、政令市の名古屋市・神戸市・広島市からも意見要望がある。「監査の範囲を限定すべきでない」という名古屋市に対し、神戸市は「監査対象事務範囲の法令明示」を望んでいる。もし、神戸市が限定方向で考えているとすれば問題である。広島市の「包括外部監査契約の議会議決を不要とする改正」は、実際にどのような難渋があったのか知りたいところである。
中核市も、岐阜市・静岡市・豊橋市の3市からの要望がある。岐阜市の「費用対効果から制度の必要性に疑問が残る」との意見は重要である。1700万円以上の監査費用を要した12年度監査報告書が「D」「E」評価では率直な意見かもしれない。しかし、その監査人を選んだのは岐阜市である。双方とも反省が必要であろう。静岡市の「手続が煩雑」というのは慣れの問題か運用の問題であろう。豊橋市の「監査法人との契約ができるようにすべきである」という点は、独立し責任ある自然人を監査人とした趣旨を変え、また監査法人の持つ問題点をそのまま抱え込むことになるので採用されるべきでない。
なお、条例市区の文京区の「行政サービスのコストや事務委託のあり方等を包括外部監査人が監査できるようにすべき」との意見は、当然に可能なものを制度化するようにといっている。文京区の12年度の外部監査は、まさに「行政サービスコストの検討」「業務委託等の検討」を選定しているので、この意見の意味は理解できない。区条例で自ら監査できる事項等について制限でもしているのであろうか。
第9 平成11・12年度の監査結果に対する行政の措置と対応
11年度、12年度の監査結果に対し、今回、全国の監査結果に対する法252条の38第6項により講じられた措置事項の公表分を全て入手し、当該自治体が監査結果を活かそうとしているかどうかの検討を行った。また、念のため、積極的に当該自治体からこの措置の公表分以外に対応があるかどうかも各地のオンブズマンに協力を依頼し調査した。
その結果、昨年の通信簿で指摘しているように、対応等に大きな格差があることがわかった。<別表4>措置日数一覧をみると、第1に監査結果に対する措置を講じた内容が公表されるまでの時間差が大きい。監査報告書に対する措置についてどれだけ熱心に措置を講じるかどうかによってその公表が時間的に「遅れる」ことはあり、内容によっては対応に時間を要するものもあり得るかもしれない。しかしながら、監査結果報告後1年も指摘事項を放置することは許されない。もし、監査結果の指摘事項や意見のうち、検討時間を要するものがあっても、一部は比較的短期間で措置が可能であれば、2回以上に分けて措置の公表をするのも一つの方法である。現に、徳島県や福山市、松山市などでは措置内容が分割して公表されている。一方、例えば奈良県のように何年も措置の公表がなければ、対応していることが県民に全くわからないことになり、何のための外部監査なのか自治体自身がその説明責任を問われよう。12年度について措置の公表がないのは、北海道・千葉県・奈良県・岡山県・山口県・佐賀県・札幌市・和歌山市・岡山市・高松市・高知市・宮崎市である(平成14年6月現在)。実名は差し控えるが、担当部局にどうして措置を講じないのかと問い合わせたところ、「監査報告書を採点されたのでお分かりと思いますがあの内容では・・・」と回答した自治体もあった。私達としては監査報告書提出後90日以内には第1回の措置通知をし、改善があったものは直ちに公表し、さらに検討を要するものも1年以内には措置通知(措置を講じることができない場合はその旨と理由)を公表すべきである。この点は立法化すべきであろう。
また、措置結果も公報に掲載したり文書化すればよいというものではなく、どう改善したかなど、マスコミを含め広報し、市民の情報アクセス(例えば、自治体のホームページに掲載する等)の向上に努めるべきである。なお、今回の調査により、措置結果の公表が行政当局からの措置通知後半年以上経過してから公報で公表された事例が散見された。これは監査委員の責任であり、改められるべきである。
第2に、監査結果に対しての措置自体に大きな差があることがわかった。
@ まず、措置を講じていても公表内容自体が粗略で、とても自治体が誠実に対応していると思えないものがかなり多かった。この点、監査報告書の内容が粗略であればやむを得ない点もあるが、監査報告書で十分に指摘されていればおのずから詳しく対応できるはずである。1テーマにA4用紙1〜2枚、公報にして1頁程度の措置公表では、監査人の指摘に実質的に応えているとはいえないであろう。逆に、良い例としては、鳥取県・高知県等が挙げられる。また、措置対応による経済効果(予算削減効果)についても明記している豊島区の例がある。
また、監査人の指摘の一部については応えても全体には応えていない自治体が非常に多い。意見については頭から無視しているものもあった。監査人によっては意見の中で重要な指摘を述べているものもあり、監査報告書の形式によって対応を無視するのは誤りである。鹿児島県の監査人は、前記のとおり13年度の監査報告書で3年間の監査をまとめているが、県に対し「意見」についても真摯に受け止めるべきとして対応への期待を表明している。もし、監査人が意見については全く措置・対応を期待していないものとして書いているのであれば一層問題である。その一方で、鳥取県や長崎県は監査人の意見に詳しく応えている。
措置の公表が簡単・粗略である自治体の例としては、青森県・秋田県・岩手県・山形県・茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・神奈川県・新潟県・石川県・長野県・静岡県・愛知県・岐阜県・大阪府・兵庫県・滋賀県・広島県・香川県・福岡県・佐賀県・大分県・熊本県・宮崎県・鹿児島県・札幌市・仙台市・川崎市・横浜市・名古屋市・広島市・旭川市・秋田市・いわき市・新潟市・金沢市・長野市・浜松市・岡山市・福山市・姫路市・高松市が挙げられる。
A さらに、公表のスタイル(型)が市民にとって全体にわかりにくくなっており、工夫を求めたいものが多かった。一般論としては、表形式にして、指摘事項(意見)とそれに対応する措置内容を監査報告書の頁数も明記して対照して記載しているものなどがわかりやすい。例えば、宮城県・千葉県・大分県などがわかりやすい例である。また、豊島区の措置状況一覧は、明確かつユニークである。これに対し、公表スタイルの改善を求めたい自治体の例は、東京都・京都府・高松市などである。
13年度(2001年度)の通信簿の制作にあたり、私達は従前の病院関係をテーマとした監査報告に対し自治体がどのように対応したかについて措置結果の公表分と調査票に基づく聴き取り調査を行った。
@ 11年度の病院関係の監査報告は、次の25自治体のものである。
北海道・山形県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・新潟県・石川県・愛知県・京都府・奈良県・鳥取県・香川県・佐賀県・千葉市・川崎市・横浜市・名古屋市・京都市・神戸市・新潟市・富山市・金沢市・豊橋市・宮崎市
12年度は、次の25自治体のものである。
茨城県・栃木県・群馬県・山梨県・長野県・岐阜県・静岡県・滋賀県・奈良県・和歌山県・鳥取県・広島県・熊本県・鹿児島県・札幌市・広島市・北九州市・福岡市・いわき市・長野市・静岡市・浜松市・和歌山市・高松市・高知市
また、今回の調査の対象ではないが、13年度は、参考までに次の6自治体のものである。
富山県・高知県・福岡県・大分県、仙台市、大阪市
以上、重複もあるため、のべ54自治体(56監査報告書)である。
A このうち、11年度・12年度の監査結果に対する措置について検討すると、ほとんどの措置の結果に対しては、次のような点が指摘できる。
まず、監査報告書に対する「結果」「指摘事項」については、広狭・論点数等は別として、是正すべき点の明白なものや容易なものは、「改善した」「行った」「行うこととする」「実施した」「処理した」等として「処理」されている。
しかし、困難な点や「意見」に対しては、「努める」「図っていく」「協議する」「検討する」等、抽象的対応となっている。
したがって、特に現行制度上で具体的に是正できる点は、人事上の問題、継続的契約の続いているものなどを除き、一応改善されているようである。しかしながら、個々の対応をみると、同じ病院であっても次のようなパターンがある。
@ 監査結果がAで、具体的かつ広い指摘に対し、逐一対応している措置 | ・・・・・a型 |
A 監査結果がB・Cで、広い指摘に対し、形式的には一応対応している措置 | ・・・・・b型 |
B 監査結果がB・Cで、広い指摘があっても、対応は簡単である措置 | ・・・・・c型 |
C 監査結果が不十分であって(B・C)、その為もあり対応も粗略である措置 | ・・・・・d型 |
D 監査結果はあるが、措置公表のないもの | ・・・・・e型 |
現実には、「b型」「c型」が多かった。もっとも、今回調査した措置の中には「a型」はみられない。例えば11年度監査報告書を「A」評価をした横浜市の例でいえば、措置の公表でみる限り、対応は粗略で外部監査を活かしているとも思えない。
● 「b型」の例
北海道・茨城県・千葉県・東京都・山梨県・京都府・和歌山県・徳島県・福岡市
● 「c型」の例
山形県・埼玉県・神奈川県・新潟県・石川県・長野県・静岡県・愛知県・岐阜県・滋賀県・香川県・佐賀県・鹿児島県・川崎市・横浜市・名古屋市・旭川市・長野市・0浜松市
● 「d型」の例
栃木県・群馬県・広島県・熊本県・千葉市・広島市・秋田市・いわき市・新潟市・金沢市・高松市
なお、鳥取県は、11年度・12年度とも監査結果は「D」としたが、県の措置としては「b型」の対応をしている。
● 「e型」の例
奈良県(11・12年度)・京都市(11年度)・富山市(11年度)・豊橋市(11年度)・和歌山市(12年度)・高知市(12年度)
「e型」の自治体は、本調査時点(平成14年6〜7月)で措置の公表がされていなかったものである。複数テーマについての監査結果があり、その一部について措置を講じて公表している自治体もあるが、今回の病院監査の措置がなければ「e型」である。私達の調査に対して「措置中」と回答した自治体もあるが、その公表はあまりにも遅い。
なお、京都市(11年度)の場合は、「11年度監査結果では、病院については、改善を求める事項がなかったので、市では措置をとっておらず、措置結果の公表もしていない」との回答があった。
B 今回の調査票にもとづく調査で特徴的だったのは、監査結果への対応をとっている場合でも、その効果を数量的(金額的)に示せる自治体はほとんどないということである。適法性監査は「経済性」と同じではないから、適法性の確保に役立つのならば経済性は無視できるという考え方もあるかもしれないが、外部監査費用(監査人報酬等)の5〜10倍の経費節減(経済効果)という期待目標からは程遠い実態である。
以上の調査でわかることは、外部監査を活かしていない自治体当局の問題である。この点、議会と議員に注文したい。それとも市民が具体的により監視と是正を求めるしかないのであろうか。
外部監査の結果がマスコミに報道され、特にその中で具体的な是正措置が社会問題化した場合は、報道と世論による改善効果も大きい。監査人は、マスコミ関係者にもわかりやすく自ら説明できるよう配慮が期待される。行政当局に公表の取扱を任せているところが多いが、直接インタビューに応じなくとも、概要書などの文書で要点を明確に指摘してほしい。マスコミが監査結果の重要点や急所を報道すれば、行政としても改善をせざるを得ないであろう。
私達市民は、これらの外部監査によって、行財政の諸問題を学ぶとともに、自治体がより一層正常化するよう見守っていかなければならない。本通信簿の制作を通じての作業を含め、私達市民オンブズマンは市民自身も外部監査を活用することが必要であると痛感する。
今回A評価となった監査報告書はもちろん、それ以下のランクのものでも自治体での緊要な課題を取扱っており、大いに参考にできる。また、監査人が具体的に改善を指摘し、違法・不当としている点を行政側が速やかに改善しない場合、市民自身がこれを検討し、さらに情報公開請求をしたり、住民監査請求という法的な手段をとることもできるし、市民団体の要求対象とすることが有効である。私達が、税が行政の目的に有効・公正・効率的に使われるよう監視するために外部監査を活用しなければならない。
@ 和歌山市の外部監査結果にもとづく住民監査請求
和歌山市のオンブズマンは、12年度外部監査の指摘事項を契機に住民監査請求し、これを内部監査ではなく個別外部監査人によって審査することを求め、この請求は受理されている。実態調査をもとに監査報告書にその内容が詳しく指摘されていれば、このような取り組みも可能である。
ところが、残念ながらこの住民監査請求では、当の包括外部監査人自身が個別外部監査人となったが、一転して措置を命じなかった。監査請求者は一貫しないとして失望しており、違法・不当性を指摘する点で甘さがあったことを認めた格好となった。
A 川崎市とかわさき市民オンブズマンの対応
川崎市は、11年度の監査報告書に対し平成13年3月26日付公報で「措置内容」を公表した。これに対し市民オンブズマンは、4月7日に措置内容が具体的にわかる文書の公開請求をし、監査人の「意見」について「措置内容」等がないことも含め、4月12日に市長と監査委員に「公開質問状」を送り回答を求め、「措置」について検討することにした。
市は、4月25日に公文書を開示し、4月27日に各事業部より説明を受け文書により措置の確認を行い、また「意見」についても、同日に市の総務部行政システム推進課(外部監査担当部局)から意見についての検討と措置の回答があった(以上は地元でマスコミ報道された)。
川崎市は、12年度の外部監査に対しては「意見」についても「対応状況」を公表するようになっている。
B 外部監査の報酬支払いをめぐる住民監査請求・住民訴訟
12年度の通信簿で「E」評価となったいわき市の監査人への支払金1146万5528円をめぐって、平成13年9月11日住民監査請求が、同年12月5日住民訴訟が提起され、現在係争中である。これは、私達が全国の外部監査の中で最低クラスと評価したものを地元住民が知って検討し、この外部監査は内容もない上、監査報告書も全文6034文字(1字あたり1900円)という極めて粗雑なものであり、かかる公金支出は不法に高いと問題にしたものである。地元住民はいわき市の同じ監査人の今年度の監査報告書もさらに簡単で内容がなく、1063万3875円(全文3567文字、1字あたり2981円)もの費用は違法として、平成14年6月19日に監査請求している。この件も住民訴訟に持ち込まれることは必至である。
また、12年度の豊田市の監査報告書について、私達は「全国の中で最悪」と評価した。これについて、地元の住民はいわき市と同様に1155万円(全文3706文字、1字あたり3116円)の報酬について、平成14年3月15日住民監査請求をし、これが棄却された後の同年6月7日住民訴訟を提起している。
豊田市は通信簿や市民の反応のためか、13年度から監査人を変更し、従前とは大きく変わった監査報告書が提出されている。
C 地元オンブズマンと監査人との対話
数は少ないが、地元オンブズマンと監査人との対話も始まっている。以下で述べる福井県の例を別にすれば特記すべき事例はまだないが、それぞれの地元での意見交換は有意義である。今後、推進していきたい。
福井県においては、12年度の通信簿評価が「E」であったことを受けて地元の「市民オンブズマン福井」が監査人へ意見交換会を申し入れたところ、監査人も快くこれを受け、オンブズマンメンバー6名と監査人、監査人補助者2名計3名の監査チームとの意見交換が実現した。
市民オンブズマン福井が指摘したのは、
@ 結論として「おおむね適正」というのは行政にお墨付きを与えたものではないか
A 監査人の意見を述べてあってもその根拠となるデータ及びその影響や結論に至った過程を監査報告書に記載していないのでは説得力がない
B 同様に問題の重大さないし緊急度の判断ができない
C 問題があるとしながらその原因、背景に触れていないのでは本質的な解決につながらない
D 総合して県民に対する説明責任を果たしていない
等々である。
これに対し監査人側は、
@ 「おおむね適正」というのは適正でない部分があるという意味でシビアな表現である。しかし問題点を覆い隠すという印象を与えるのであれば今後検討したい
A 監査の過程で職員とはかなりやりとりしており意図は職員には十分伝わっていると思う
B 監査報告は福井県に提出するもので、知事、議員、職員が理解できれば足りると考えており、県民に報告するというスタンスではなかった
等と述べた。また、「全体的に“わかりやすさ”という点では不十分だったかもしれない。今後の監査では配慮したい」とも言っている。
市民オンブズマン福井では、この意見交換会のまとめとして、
「意見交換会を行ったことで、書面で意見書を交換するよりも明確に、相互の認識の相違点を確認することができた。また、監査報告書のみからは読みとることが困難であったが、外部監査人らが誠実に外部監査を行おうとする姿勢はあったものの、県民に向けて監査結果の情報を発信する意識を欠いていたが故に、一般県民の目から見て不十分な記述になっていたということも理解できた。
市民オンブズマン福井としては、意見交換会において、監査報告は、職員だけでなく一般県民に向けて報告するものであることを重ねて説明し、より県民にわかりやすい監査報告書の記述を求めた。この点に関して外部監査人にも理解を示していただくことができ、今回の意見交換会は有意義なものであったと考える。」
としている。
なお、この意見交換会の結果、福井県の平成13年度の同じ監査人による監査報告書から「おおむね適正」という表現が消えた。
以上は、いずれも私達のイエローブックが波紋を広げている一例であるが、不十分な外部監査がなくなるとともに、今後はむしろ、より監査事例が活かされるよう求めたい。
監査人の選任は外部監査の役割を左右する重要なことである。このことは、これまでの通信簿を通して指摘してきた。市民から見て的確な監査が期待できる人選のため、首長は自治体のために真に有能な監査人を自己のライバルあるいは「必要な敵役」として選んで欲しい。また、そのためには、補助者を学者・有識者はもとより広く市民の中にも求めるべきであり、スタッフの専門的能力もますます必要となる。弁護士会、公認会計士協会、税理士会が自信を持って有能な監査人を推薦できることも必要であろう。
現行法上、監査結果にもとづく措置は義務付けられておらず、措置が講じられないときは監査委員への通知も監査委員による措置結果の公表もなされないことになる。
現在のところ、措置公表のない自治体は限られているが、既に述べたようにわざわざ多大な費用をかけて行った監査の結果について、行政当局が何もしないというのでは制度の無視に等しい。先にも述べたが、90日以内に第1次改善措置通知、1年以内に全項目対応通知を義務付けるべきである。対象部局がどうしても措置を講じられないというのであれば、その理由を付してできない旨を通知し、監査委員はこれも公表すべきである。1年という期間は短すぎることはない。
行政監査は外部監査の対象とはされていないが、行政の適正・効率性が財務の適正・効率性にかかわっていたり、行政監査と財務監査を峻別しきれない場合が多い。監査人が行政実務に明るくなる努力は必要であるが、行政監査を担当できることも制度的に考えるべきである。また、定期監査、例月出納検査は別としても、監査委員が随時監査を行うように決算監査も対象と考えられてよい。さらに、現在は条例により選択できる財政援助団体等の監査はその外部監査の必要性から考えて年々増えており、条例に定められなければできないという制約はなくすべきである。
監査委員監査制度には、人選・事務局など人的組織と独立性に課題がある。
議会選出監査委員は、歴史的には監査の外部独立性を企図していたが、今では首長の与党会派より選出されるポストとなり行政内部に取り込まれる傾向にあり、監査事務局も自治体職員の回り持ち、配転職となって、外部性・独立性がないと批判される。このため、監査委員監査の欠陥が指摘されている。
また、監査委員が必ずしも専門的能力や十分な独立的基盤がない「名誉職」化しているところでは、事務局主導の日常の定期的・形式的監査の処理で手一杯というところも多い。
私達は、監査委員がまず本来の「光」と「力」を取り戻すべきと考える。その上で、外部監査と相互にどう切磋琢磨する関係を打ち立てるかが課題である。外部監査が現行監査委員監査に取り込まれ「内部化」すればその意義を失う。むしろ、今必要なのは監査委員に本来求められている「外部化」であり、監査委員自身が「市民の眼」を持つこと、すなわち市民性なのである。
(参考文献)
◎ 総務省「外部監査制度に関する調査の結果について(概要)」
(平成14年3月27日付自治行政局行政課公表 → http://www.soumu.go.jp/s-news/)
◎ 日本公認会計士協会編「地方公共団体の外部監査」
(平成14年・ぎょうせい刊)
2001(平成13)年度包括外部監査の通信簿
2002年9月14日 発行
発行 全国市民オンブズマン連絡会議
代表幹事 大 川 隆 司
編集 包括外部監査評価班
代表者 井 上 善 雄
評価班事務局 大阪市北区西天満4-6-3 第五大阪弁護士ビル
大阪こうせつ法律事務所気付
TEL:06-6130-9360
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