平成13年(行ウ)第150号行政文書不開示処分取消請求事件
原 告 非特定営利法人情報公開市民センター
被 告 外務大臣 川 口 順 子
 
原告準備書面(5)
 
   平成15年3月25日
    
東京地方裁判所民事第2部A2係  御中 
    
    原告訴訟代理人弁護士
 
       
   
 隆 
      
   
       
   
  
       
   
  
       
   
  
       
   
 
       
   
 



目   次

第1 裁判所の再三、再四の釈明指示にも応えない被告

第2 「不開示事由」の具体的な主張をしない被告

第3 仮想事例に基づく主張への反論

第4 目的に外れた報償費まで法5条を隠れ蓑にする被告の主張
   ―「原告準備書面(4)に対する反論」に対する余の反論




第1 裁判所の再三、再四の釈明指示にも応えない被告
本件は、裁判所が被告に対し、繰り返し「情報の特定」や「不開示事由」の主張について釈明を求めてきたが、被告は一向に裁判所の求めに応じず、徒に時間を費やすだけであった。被告の何ら明らかにしないという姿勢だけが変化せず、提訴以来2年近い歳月が過ぎようとしている。あらためてこの経過を振り返っておく。
 
1 冒頭から、「具体的な主張は行なわない」と釈明
(1)平成13年9月21日、第二回口頭弁論期日において、被告の同日付け準備 書面(1)が陳述された。同準備書面は、53頁にも及ぶものではあったが、本件文書に記載されている情報の外形的な事実すらも明らかにせず、主張の主旨は「被告は、……これが公にされることにより、情報収集その他の外交工作が阻害され、適切な外交事務を遂行することができないので、法5条3号に該当すると判断した」(45頁。法5号6号についても同様)と述べているにすぎないものであった。
(2)そこで、同書面を受けて、裁判所は被告に対し、@5条6号(事務事業情報) について、同号のイからホのうち、いずれに該当するとの主張か、A5条3号(防衛情報、外交情報)について、これ以上の具体的な主張は行わない趣旨かと2点について釈明を求めた。
これに対し、被告は、@について、イからホのいずれでもなく、6号本文の「その他」に該当する、Aについて、これ以上の具体的な主張は行わないと釈明した。
 
2 裁判長は、再度、主張責任を尽くすよう被告に指示
(1)平成14年2月1日、第4回口頭弁論期日において、裁判所は、両当事者の 主張を踏まえ、主張立証責任の考え方、審理方式について、双方の主張が対立していることを確認のうえ、情報公開条例に関する裁判では、被告が非開示文書の項目、性格等を説明し、当該文書に、外務大臣による裁量権行使の前提となる情報が記載されていること等の主張立証が必要であると説示し、被告に対し、不開示理由の具体的な主張を指示した。
(2)平成14年4月24日、第5回口頭弁論期日において、被告は、同日付け準 備書面(4)を陳述した。同書面は、裁判所が第4回口頭弁論期日において、被告に不開示情報の該当性の判断に必要な限度での情報の特定を求めたことに対する回答であった。しかし、同準備書面には、「第3 本件各行政文書の内容等」という項目は存在したが、そこでは、原告の請求対象文書が全部で1069件であるとし、「本件各行政文書については、……外務省大臣官房における文書及び在外公館における文書のいずれもが報償費の具体的な使用案件ごとに作成された文書であり、かつ、当該報償費の使用の意思決定を行うために作成されたものであって、当該報償費を支払う役務提供者等の氏名、支払金額、報償費に係る事務の目的、内容、支出年度、科目、単価、積算の基礎等が記載され、報償費の具体的使途、使用目的、報償費に係る事務の内容等を明らかにする文書となっている」(14〜15頁)とするだけにとどまるものであった。またしても、「文書の体裁」ないし「雛形」を説明したに過ぎないものであった。要するに、裁判所の求釈明には応じない準備書面であったのである。
 
3 裁判長は、被告に三度目の求釈明を行なった
(1)そして、平成14年6月5日、第6回口頭弁論期日において、裁判所は、被 告による前回行った「情報の特定」では、裁判所が開示不開示の判断を行うことはできないとして、被告に対し、@文書の標目、作成者、記載されている外形的事実を特定すること、A特定ができないのであれば、その理由を個々に具体的に説明をすることを指示した。
(2)この求釈明に対する回答が被告の「第5準備書面」であった。平成14年10月2日に陳述となった同準備書面(5)が、それまでのものと異なるところは、原告請求の対象文書とされる1069件の文書について、各文書ごとに、記載事項の項目を付加したことだけが目新しかった。別表25頁を使って、1069件の文書の記載項目だけを付け加えてきたのである。まったく、報償費支出の外形的事実の主張とは云えないものであった。
(3)このような状況であったところから、原告が、被告の主張は裁判所から求められた外形的事実等の特定に対する回答となっていない旨指摘したところ、裁判所は、これまで被告に対しできる限りの特定を求めた結果としての回答の書面が上記書面(5)であり、それ以上は情報の内容、不開示理由の有無等中身の議論に関わってくる可能性があるとして、とりあえず、原告に上記書面に対する意見、反論を行うようにと指示した。
(4)そのうえで、原告の求めに応じて、裁判所は、被告に対し、@報償費の使途 の分類は、A(情報収集等)、B(外交交渉等)、C(国際会議への出席等)の3種類でよいか、A被告の主張によれば、報償費は、「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の状況と任務に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」であり、外務省では「情報収集及び諸外国との外交交渉ないし外交関係を有利に展開するため使用する経費」に当てているとなっているが、外務省の場合、報償費としての使用は、上記情報収集等に限定されているという理解でよいか、上記使途に限定している根拠として、何らかの規範があるのか、あるいは運用によるのか、広義では報償費として「機動的に使用される経費」について、外務省では「報償費」以外の別途の費目で支出していることはあるのか、B「情報収集等」とある「等」は何を意味するのか、情報収集以外のものも含むのか、と以上3点の釈明を求めた。
(5)これに対し、被告は、@について裁判所の分類のとおりでよい、Aについて、 第1点目は、裁判所の理解のとおりであり、第2点目については、規範はなく、運用によるものであり、第3点目については、別途の費目で支出していることもある、Bについては、情報収集及びこれに関連するものに限定されるとそれぞれ回答した。そのうえで、裁判所は、外務省での報償費の運用については、早急に書面で提出するよう指示した。
 
4 裁判長は、四度目に、仮想の事実での説明を求めた
(1)平成14年11月25日、口頭弁論期日において、被告が、「これ以上情報の 特定に関し具体化はできない。」と主張した。
(2)これに対して、原告が、被告の特定では全く不十分で、より具体化した説明 が必要であると主張したところ、裁判所は、被告の外形的事実の特定が、抽象的か具体的かで双方の主張が噛み合っていないが、裁判所としては、「被告準備書面(5)による公開した場合の支障等のおそれの主張について具体的に理解できない状態である。そこで、被告の主張は、本件情報公開請求の対象情報から、いくつかのプロセスを経て、プロセスの組合せで、最終的に支障が生じるとなっているので、そのプロセスを、本件情報請求の対象である情報自体ではなく、仮定的に、例示として、いくつかのパターンを取り上げて、公開した場合に生じる支障を具体的に説明してほしい、これが、今まで被告が主張してきたこれ以上特定できない根拠の説明ということになるかもしれない。例えば印影の公開による支障等の主張であれば、裁判所も直接支障の有無を判断できるが、本件における被告の不開示理由の主張では、直接判断できる内容となっていない。」と述べた。
(3)この裁判長の指揮に対して原告は、「裁判長の努力は多とするが、仮想の事実 を例示して説明させても意味が無い」旨を指摘した上、(@)本件不開示決定について、少なくとも被告は、自ら作成した審査基準へのあてはめを明らかにすべきである、(A)本件不開示処分は、一つの処分ではなく、五つの処分である。ところが、被告は五つの処分をまとめて不開示理由や外形的事実の特定等を主張しているので、少なくとも五つの処分ごとに外形的事実の特定と不開示理由の説明をすべきであると指摘したところ、裁判所は、原告の再指摘については視野に入れているが、まずは第一段階として被告から上記の支障等のおそれに関する説明の主張をしてもらい、そのうえで、原告の指摘について検討していきたいと指揮した。
 
5 被告は、結局、法5条3号、6号所定の情報の特定もしなかった
それを受けて、被告が提出したのが平成15年1月30日付け準備書面(6)であった。この準備書面の無意味さとばかばかしさは後述する。
 
以上のように、これまでの本件審理の経過を振り返ってみても、被告は、裁判所が求めてきた「不開示情報の該当性の判断に必要な限度での情報の特定」すら明らかにしようとしてこなかったのである。そして、被告が、本件行政文書の不開示事由についての具体的な主張もしなかったことは、次の「第2」で詳述するが、被告が不開示とした情報の特定すら行わず、不開示処分の理由についても法に則った具体的な主張を行っていないことは、裁判所からの再三の求釈明があったことからも明らかである。いずれにせよ、被告は、被告が不開示と判断したという以外に実質的な何らの主張立証もしていないのであるから、被告の本件不開示処分は取り消されるべきものであることは明らかである。
 
第2 「不開示事由」の具体的な主張をしない被告
情報公開請求に対する被告の違法・不当な対応については、これまで繰り返し指摘したところであるが、原告は、情報公開法及び行政手続法に基づき、あらためて本件訴訟における問題点を指摘し、法5条3号、6号所定の不開示事由該当性について、結局、被告が何らの主張責任も果たさなかった事実を指摘することとする。
 
1 請求対象文書の隠蔽
まず、原告が被告に開示を求めた文書は、@外務省大臣官房、A在米日本大使館、B在仏日本大使館、C在中国日本大使館、D在フィリピン日本大使館において、平成12年2月及び3月に支出された、「交際費、報償費ならびに諸謝金に関する支出証拠、計算証明に関する計算書等一切の文書」である(以下、報償費についてのみ述べることにする)。この請求内容からも明らかなとおり、原告は、上記費目の支出手続に関し、支出の意思決定から支出手続の終了までの一連の手続において、被告が保有する全ての行政文書の開示を求めているのである。
言うまでもなく、行政文書とは、「行政機関の職員が職務上作成した文書」だけでなく、「職務上取得した文書」も当然に含まれている(情報公開法2条2項)から、被告が作成した文書のほか、被告が取得した文書も請求の対象として対応すべきである。
被告準備書面(4)や乙5号証の1によれば、支出の意思決定から支出手続の終了までに「職務上作成した文書」または「職務上取得した文書」には、少なくとも次のものが存在することになる(乙5の1  「2  取扱の要領」部分参照)。
@ 支出負担行為に先立つ決裁書または在外公館からの公(電)信
A 同決裁書に添付される見積書、契約書案、申請書等の関係書類
B 支出負担行為決議書
C 同決議書に添付された関係書類
D 支出負担行為依頼書
E 支出決定決議書に添付された請求書その他関係書類
F  領収書
ところが、被告は、原告が開示を求めた文書を、大臣官房及び在外公館とも「支出行為に先立つ決裁書」に一方的に限定し、不当にも「決裁書」以外の文書は原告の開示請求の対象外であると決めつけ(準備書面(4)の13頁及び14頁)、決裁書以外の関係書類や添付書類をことさら除外した。レストランの領収書などは、後述の被告設定の仮想事例においてさえ不開示とすることができないために、被告は予め「領収書」等を対象文書から除外しようと企んでいたのである。明らかな隠蔽工作である。こうした被告の対応は、まずもって情報公開法の趣旨に反していることは明らかと言わねばならない。
 
2 行政処分に対する行政庁のあり方
被告は、本件不開示処分は、原告が請求した文書が法5条3号及び6号の不開示事由に該当するからであると主張する。そこで、まず行政処分に対する行政庁のあり方について概説する。
行政手続法5条は行政庁に対し、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めにしたがって判断するために必要とする基準(審査基準)を定めるよう規定している。また同法12条は、不利益処分をするかどうか、またはどのような不利益処分とするかについてその法令の定めにしたがって判断するために必要とされる基準(処分基準)を定めるよう規定している。これは、行政運営における公正の確保と、行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかになるようにし(透明性)、もって国民の権利利益の保護に資するためである(同法1条1項)。
次に、行政手続法は、拒否処分の際には当該処分の理由を示さなければならない(理由提示義務)と規定する。これは、行政運営の公正の確保と透明性を図り、国民の権利利益の保護に資するためには、拒否の理由を国民に知らせその不服申し立てに便宜を与えるためである。
したがって、行政庁は情報公開請求に対する処分を行うには、少なくとも上記審査基準や処分基準(以下、単に「基準」という。)に従って慎重に審査し、処分を行なわなければならないのである。
 
3 本件文書は法5条3号文書に該当しない
(1)被告は、本件情報が法5条3号に該当すると主張して本件不開示処分をした ので、以下、法5条3号の要件に関する「基準」の記載内容を点検し、被告の同基準不遵守の事実を指摘する。法5条3号に関する「基準」は以下の通りである。
@ 「『国の安全』とは、国家の構成要素である国土、国民及び統治体制が害 されることなく平和で平穏な状態に保たれていること、すなわち、国としての基本的な秩序が平穏に維持されている状態をいうとする。具体的には、直接侵略及び間接侵略に対し、独立と平和が守られていること、国民の生命が国外からの脅威等から保護されていること、国の存立基盤としての基本的な政治方式及び経済・社会秩序の安定が保たれていることなどが考えられる。『国の安全が害されるおそれ』とは、これらの国の重大な利益に対する侵害のおそれ(当該重大な利益を維持するための手段が有効に機能しなくなるおそれがあると考える場合を含む。)をいう。」(「基準」の「第三号の中の個々の概念の意義」参照。)
「『おそれ』の有無についての判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。」(「基準」第5条の「共通に用いられる概念の意義」参照。)
A 「『他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ』のある場合とは、『他国若しくは国際機関』(我が国が承認していない地域、政府機関の他これに準ずるもの(各国の中央銀行等)、外国の地方政府又は国際会議その他国際協調の枠組みに係る組織(アジア太平洋経済協力、国際刑事警察機構等)の事務局等を含む。以下『他国等』という。)との間で、相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に支障を及ぼすようなおそれをいう。例えば、公にすることにより、他国等との取決め又は国際慣行に反することとなる、他国等の意思に一方的に反することとなる、他国等に不当に不利益を与えることとなるなど、我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある情報が該当すると考えられる。」(「基準」の「第三号の中の個々の概念の意義」参照。)
「『おそれ』の有無についての判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。」(「基準」第5条の「共通に用いられる概念の意義」参照。)
B 「『他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ』があるものとは、他国等との現在進行中の又は将来予想される交渉において、我が国が望むような交渉成果を得られなくなる、我が国の交渉上の地位が低下するなどのおそれをいう。例えば、交渉(過去のものを含む。)に関する情報であって、公にすることにより、現在進行中の又は将来予想される交渉に関して我が国が執ろうとしている立場が明らかにされ、又は具体的に推測されることになり、交渉上の不利益を被るおそれがある情報が該当すると考えられる。」(「基準」の「第三号の中の個々の概念の意義」参照。)
「『おそれ』の有無についての判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。」(「基準」第5条の「共通に用いられる概念の意義」参照。)
(2)以上の「基準」に従うならば、被告は、原告が公開を求めた対象文書の一件ごとに、上記「基準」の要件をあてはめて判断し、その対象文書一件ごとにその結果を明示することが求められ、本件訴訟においては、その経過を主張することが必要となる。
ところが、被告は、外務省の報償費の使用目的に係る事務は、@情報収集等の事務、A外交交渉等の事務、B国際会議への参加等の事務であるとするところ、本件各文書は、これらの支出目的に沿って支出された決裁文書であるから、すべて法5条3号(及び6号)に該当すると主張し(被告準備書面(1)41頁以下、準備書面(4)別表など)、自ら定めた基準さえ無視し、「基準」とは無関係な判断枠組みを持ち出して、法5条3号の要件に該当すると主張しているのである。
また、被告は、準備書面(4)の20頁以下で「審査基準との関係」と題して主張を述べているが、その内容は「基準」の中に記載された「不開示情報に該当する可能性の高い情報の例又は類型例」をならべただけである。この「類型例」も、「第三号に掲げる不開示情報に該当する可能性が高いことから開示/不開示の決定に当たっては慎重に審査する必要があると考えられる情報の類型」とされているだけであり、類型例に該当すれば直ちに不開示情報となるものでもないのであるが、被告の主張は、1069件の対象文書が、それぞれどの類型に該当するのかについてすら明らかにしない概括的、一般的な主張なのである。かくして、被告の不開示事由の主張は、自ら定めた「基準」さえ無視した独善的な判断と断ぜざるを得ないものである。
 
4 本件文書は6号文書にも該当しない
(1)被告は、本件不開示とした情報は、5条6号の、@「公にすることにより、国の機関又は地方公共団体が行う調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれのある情報」、A「公にすることにより、その他事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当するとも主張する(準備書面(4)21頁)。そこで、以下、法5条6号の該当個所に関する「基準」の記載内容を述べることにする。
@ 「『調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ』のある場合とは、国の機関又は地方公共団体が行う調査研究(ある事柄を調べ、真理を探究すること)に係る事務に関する情報であって、当該調査研究の成果を広く適正に国民に提供する目的を損ね、特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれ、当該調査研究に従事する職員の自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられるおそれがある場合をいう。例えば、知的所有権に関する情報、調査研究の途中段階の情報などで、一定の期日以前に公にすることにより特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれがある場合、試行錯誤の段階のものについて、公にすることにより、創意工夫や研究意欲等が不当に妨げられ、減退するなど、能率的な遂行を不当に阻害するおそれがある場合が該当する。」(「基準」の「第六号の中の個々の概念の意義」参照。)
「『おそれ』の有無についての判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。」(「基準」第5条の「共通に用いられる概念の意義」参照。)
A 「『当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ』のある場合とは、当該事務又は事業の本質的な性格、具体的には、当該事務又は事業の目的、その目的達成のための手法等に照らして、その適正な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがある場合をいう。なお、『おそれ』の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。」(「基準」の「第六号の中の個々の概念の意義」参照。)
(2)以上述べた「基準」によれば、「調査研究に係る事務」とは、ある事柄を調べ真理を探究することであり、例えば知的所有権に関する情報、調査研究の途中段階の情報とされれいる。また、「公正かつ能率的な遂行を不当に阻害する」とは、当該調査研究に従事する職員の自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられることであり、創意工夫や研究意欲等が不当に妨げられ、減退するなど、能率的な遂行を不当に阻害するとされている。こうした基準からすれば、原告が開示を求めている文書が、@に該当しないことは明白である。
また、Aの「その他当該事務又は事業の性質上」とは、条文の規定上、「次に掲げるおそれ(イないしホのことである)」の後に規定されていることからすれば、法5条6号のイないしホに準じるものが想定されていることは明らかである。
なお、「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について、「考え方」は次のように述べている。
「『適正な遂行に支障を及ぼすおそれ』は、行政機関に広範な裁量権限を与える趣旨ではない。本号が人の生命、身体等を保護するために開示することがより必要と認められる情報を明示的に除外していないのは、公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量した上での『適正』が要求されているからである。したがって、『支障』の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、『おそれ』の程度も単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性が当然に要求されることとなる。その具体的な基準については、すべての行政の事務・事業について、この法律であらかじめ定めることは困難である。しかしながら、行政手続法第5条の規定に基づき、各行政機関において審査基準が定められることとなり、その審査基準と開示請求の処理の具体的な運用は、不服審査会や裁判所の個別具体的な評価・判断に服することにより、それらが適正であることが保障されている。」(甲6号証3頁部分。)
こうした基準からすれば、原告の請求する文書が、Aに該当しないことも明白である。
結局、被告は、法5条6号についても、法5条3号の場合と同様、自ら定めた「基準」にしたがって審査が行われたとは到底いえない状態である。
 
5  被告は「不開示事由」について主張・立証を行っていない
(1)法5条3号について
@ 「基準」によれば、法5条3号の審査について、次のように規定されている。
「『公にすることにより、…おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報』とは、公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は国際交渉上不利益を被るおそれがある情報については、一般の行政運営に関する情報とは異なり、その性質上、開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと、我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。この種の情報については、司法審査の場においては、裁判所は、本号に規定する情報に該当するかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(『相当の理由』があるか)どうかを審理・判断することが適当と考えられることから、このような規定としたところである。本号の該当性の判断においては、行政機関の長は、『おそれ』を認定する前提となる事実を認定し、これを不開示情報の要件に当てはめ、これに該当すると認定(評価)することとなるが、このような認定を行うに当たっては、高度の政策的判断や将来予測としての専門的、技術的判断を伴う。裁判所では、行政機関の長から第一次的判断(認定)を尊重し、これが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断されることになる。」(「基準」の「第三号の中の個々の概念の意義」参照。)
「『おそれ』の有無についての判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。」(「基準」第5条の「共通に用いられる概念の意義」参照。)
A 以上からするならば、裁判所の審査権の前提として、被告は、原告の請求した個々の行政文書には概ねどのような内容が記載されているかを明らかにし、この文書が情報公開法のどの不開示事由にどのような理由から該当するのかについて、具体的な事実を主張・立証する必要があることになる。そして、このように解することが、行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保して恣意的な拒否処分を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に明らかにすることによって、行政運営の透明性の向上を図り(行政手続法1条)、併せてその不服申立に便宜を与えるとする行政手続法の趣旨に合致することは明らかである。
しかしながら、この間、原告が報償費に関して種々の疑念を主張立証しているにもかかわらず、被告は、平成14年10月2日付準備書面(5)に添付された別表で、「標目」として決裁書、「文書作成者」として外務省職員、「外形的事実等」として文書作成者名、決裁者名、起案・決済日、支払予定先・・・、「使用目的」として、情報収集等の事務(A)、外交交渉等の事務(B)、国際会議への参加等の事務(C)と主張したにすぎない。
被告が自ら設定した審査基準さえ遵守することなく、原告が請求した各行政文書への審査基準の当てはめさえできないということは、本件各報償費の支出が、本来的な報償費の使途とは異なった使われ方をしていること、その故に、請求対象文書に記載されている情報は、法5条3号、6号の要件を充たしたものではないことを自認したに等しいものということになる。
そして、結局のところ、被告は、行政機関の長の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(「相当の理由」があるか)どうかについて、まったく主張立証を尽くしていないことは明白である。
(2)法5条6号について
法5条6号の事由に該当するか否かは、原則どおり不開示処分を行った被告に主張立証責任があることは明らかである。しかし、すでに述べたように、被告は同号の要件に該当するか否かについて、まったく主張立証を尽くしていない。
(3)被告の対応は法8条の趣旨にも違反する
ところで、情報公開法は、存否応答拒否情報に該当しない限り、まず文書の存在を明らかにすること、すなわち文書の標目や件数を明らかにすることを当然の前提としている。
ところが、被告は、原告の情報公開請求に対し、当初、文書の標目や件数すら明らかにすることなく、包括的に法5条3号及び6号に該当するとして不開示とした。その後、訴訟になってようやく文書は全部で1069件あることは明らかにしたが、依然として文書の標目すら明かそうとしない。しかもご丁寧なことに、原告が求めた、@外務省大臣官房、A在米日本国大使館、B在仏日本国大使館、C在中国日本大使館、D在フィリピン日本国大使館の各報償費に関する文書をわざわざ全てごちゃ混ぜにした一覧表を提出し、各対象ごとに文書が何件あるかさえ明らかにすることを拒んでいる。
とくに、原告がもし本件で在米日本大使館の報償費に関する情報公開請求のみを行っていたならば、この訴訟の被告の対応を前提にしても、在米日本大使館の報償費に関する文書の件数だけは明らかになるはずである。五つの対象部署の情報を同時に公開したら、件数さえ明らかにされないとの対応は、どのように考えても筋が通らないのである。
被告の対応が、いかに情報公開法の趣旨に反しているかは、この一時をもってしても明らかである。したがって、裁判所は速やかに結審の上、直ちに、不開示処分を取り消すべきである。
 
第3 仮想事例に基づく主張への反論
1 被告の設定は希少の事例
(1)裁判所の求めに従って行ったものではあるが、被告は、報償費の使途につい て、外交交渉や情報収集のために報償費が使用されたとの設定の下に、仮想事例を3例挙げて本件文書不開示の「被告なりの正当性」の説明を行った。被告が挙げる仮想事例3例には、ウイーンを舞台にした国際スパイ映画もどきの情景設定も存在しているが、これらの事例は、今日の外務省の報償費の使途としてあり得るとしても希少な事例であろう。そして仮に被告の設定した事例を前提しても、報償費支出の「領収書」の公開までも不開示とする正当性は存在しない。あくまで仮想事例であるから、反論の効果にも限度があるであろうが、被告の主張の不当性の一端を指摘することとする。
(2)被告は、3つの仮想的な報償費の支出事例をるる説明した上で、「報償費は、 このような水面下における情報収集その他外交工作を十全に行うため、その時々の国際情勢に応じ、高度の政治的政策的判断に基づく外交上の方針・目的を果たすため、戦略的に遂行される活動に用いるための経費として重要な役割を果たしている。このことは、以上の3つの仮想的な事例から明らかである」としている(10頁)。
(3)笑止千万といわざるを得ない。外務省の全庁的な職員の相次ぐ不祥事と費目 の流用の事実の指摘を受けて、平成14年度の報償費予算は、絶対的な削減と費目の振り替えを含めて従前の予算額の4割減となったのである。もし、被告が主張するがごとくに報償費が使用されて来たとし、そうした報償費の予算がなければ情報収集や外交事務の遂行ができないというのであれば、4割削減された今日、外務省の情報収集と外交事務の遂行は片肺飛行だということになる。しかし、そのような話はどこからも聞こえてこない。おそらく、報償費などはどれほど削減されても、わが国の誇る外務省は、従前と変わらずに、ほどほどの情報収集と外交事務を消化してゆくに違いないのである。
さらに、個別の仮想事例についても、仮に被告が提示した事例をそのまま信用したとしても、一片の行政文書も開示できないとの正当性は存在しないのである。
 
2 仮想事例1について
(1)B国にある日本大使館のP書記官が、「冷ややかに対応する」こととされてい るA国の情報(特に、A国とB国との関係の情報)を収集するための対価をQ氏に支払う事例が設定されている。被告は、この情報収集のための支出に関しては、支出の事前の決裁から支払いまでのすべての行政文書を開示できないというのである。被告が主張する前提自体も関係文書の全面不開示という結論も是認できない。
すなわち、国際社会が「A国の表明を無視して『冷ややかに対応する』ことで足並みを一致してきた」場合に、「公式の立場とは異なる形で、水面下でA国とB国の関係等に係る情報収集を行う」ことは、公表することが前提となればこのような活動は行い得ない、と被告は言う(「第6準備書面」4頁)。しかし、このような前提はわが国の社会通念としても、外交慣行からしても是認できるものではない。国際的に「冷ややかに対応する」関係に置かれている国は地球上に存在するであろうが、同国と利害関係のある国(とりあえず日本)がその国(A国)の情報を収集すること自体が国際的に禁じられているとか、不都合であるとか、そうした情報を収集していること自体が知られた場合には日本国が国際的に非難を浴びるとかの関係はありえるはずがない。一国が利害関係国の情報を収集することは国民に対する義務であるし、その収集は国際慣行から見ても当然に是認されることである。とりわけ、A国の存在が「我が国の安全保障や経済に与える影響が大きいという」(3頁)関係にあるならば、A国の情報収集活動に誰の目をはばかる必要があるというのか。
(2)この第一事例に限られたことではないのであるが、被告の設定事例の前提判 断はあまりに視野狭窄、独善的で是認しがたい上に、本件情報公開請求事件との関係で考えれば、なお一層不当である。被告の設定で、仮にQ氏に情報入手の対価を支払ったのであれば、その領収書の公開は妨げがないはずである。もし、Q氏の安全や情報収集の継続を図るという観点から、同氏が特定される情報の公開まではできないというのであれば、その氏名のみ不開示とすることもできるはずである(法6条2項)。一般に、その領収書には、P書記官との会話内容や提供された情報の内容などは記載されていないはずであるし、これが公表されてもわが国の利害を損なうことはないはずである。そして、仮に、この領収書の存在から、わが国がA国とB国との関係の情報収集活動を行っていることが推認されることになっても、それがわが国の利益を損なうとの判断には到底至るものではない。
(3)なお、被告が「事例1について不開示事由があると判断する理由」(同15頁 以下)の項において、A国とB国との関係の情報をB国のQ氏から入手したことが公になると、「A国に対する大量破壊兵器開発断念の外交的な働きかけが不調に陥る」(16頁)などとしているが、その因果関係の憶測は、「風が吹けば桶屋が儲かる」ほどの連関も認められない。また、「国際舞台の表層だけにとらわれず、あらゆる事態を想定した上での外交活動を行うために必要な情報収集等を行う」(16頁)ことが外務省の使命であれば、世界中の国の外交機関も同様な任務を抱えて活動しているはずである。各国がそうした任務を帯びて情報収集を行っているとすれば、仮に、わが国がB国でそうした情報の収集をしていることが明らかになったとしても、それが国際的な非難を惹起することもありえない。被告の論理は、飛躍と言うよりも妄想と云うべきものであって、反論にも値しないものである。被告の云うところによれば、外務官僚だけが物事を承知していれば良いということに尽きるのであろう。現代にそうした外交が存在しえるのか、外務省は、本件訴訟とは別に、まずその基本から反省をなすべきである。
 
3 仮想事例2について
(1)アメリカの政府要人や国会議員が来日して、野党議員や労働組合幹部と面談 することは珍しいことではない。外交は政府関係機関の要人や与党関係者だけによって担われる事柄ではないのである。反対に、わが国に立ち返ってみても、わが国の外交関係者が、外国で時の政府に批判的な立場にある人物と面談することも、必ずしも秘密裏に行わなければならないものではないはずである。被告は、何でも秘密裏に事を運ぶことが外交の真髄と考えているかのようであるが、そうした考えそのものが時代錯誤といわねばならない。
(2)そして、本件情報公開請求に関して言えば、この事例でも、わが国のS外務 委員長がD国滞在中にR氏と会合したレストランの会食費等の領収書を開示することは、その後の外交交渉に何らの支障も生じないはずである。その領収書には会合への参加者や会合の内容が記載されているわけではなく、せいぜい提供された飲食等のサービスの内容と金額が記載されているにすぎないものであるからである。
(3)「事例2について不開示事由があると判断する理由」(19頁)における被告 の主張についても、前同様のことが言える。被告の主張する外交方針は時代錯誤であり、また論理に著しい飛躍があるのである。
今日、互いに開かれた民主制を採用している国家間の外交関係であれば、外交ルートは政府と与党間だけでないのが通常である。もしそうしたルートしか存在しないのなら、その二国間の絆は脆弱だと言わねばならず、むしろ、改善を急がねばならない。時によって、ある会談を秘匿する必要もあることは認められるとしても、在外公館が支払った飲食代金の領収書までを秘匿する正当性は存在しない。被告の言い分からすると、領収書等の存在から諜報機関が動き出して会談の存在や会談内容までをかぎ出すと言うのであろうが、それほどの重大な会談であれば、情報公開を待たずにとっくに調査が進んでいるはずである。
 
4 仮想事例3について
(1)国際貿易ルールや輸入関税問題で諸国間の利害が対立することは、よく知ら れていることであり、それをめぐって様々なかけひき交渉が行われることも周知の事実である。そうした利害関係国の関係者が会合したり、中間の国に対して多数派工作が繰り広げられることもしごく当然のことであって、そうした努力をしないことは、通常ありえないことである。問題(秘匿されるべき事柄)は、そうした会議・会合で何が決まったのか、取引されたのかである。被告が設定する事例で、わが国と利害が対立するある国の当局者が、わが国担当者が「B国、C国、D国、E国、F国の在京大使との間で会合を設ける」こと、そのため「当該会合を……レストランで開くこととした」(同8頁)ことは、およそ想定できる事態である。このような事実そのものを外交秘密にしなければならないと考える被告の判断は正常ではない。
(2)そして、本件情報公開請求に関して言えば、当該会合の場所となったレスト ランの領収書を開示しても、何らその後の外交事務に支障が生ずるはずがない。前にも述べたが、その領収書には会合への参加者や会合の内容が記載されているわけではなく、せいぜい提供された飲食等のサービスの内容と金額が記載されているにすぎないものであるからである。
 
5 説明の出来ない事例は回避
仮に、仮想事例を設定した報償費の説明であっても、現実に即して報償費の説明を行う真摯な姿勢が被告にあるのであれば、もっと分かりやすい事例がいくらでも存在しているのである。例えば、在外公館等で国会議員の接待を行った場合の使用事例、あるいは会計検査院が指摘した大使・公使のレセプション費用の支出事例、大使・公使の赴任の際の手土産となる日本画の購入場面、外交関係者に提供される高級ワイン等の購入場面を想定した情景説明も可能であったはずである。むしろ、こうした報償費の使用の方が被告らの設定事例よりもはるかに通常なのであるから、そうした報償費の一般的な使用事例の説明をすべきであったのである。仮想事例でのスパイ映画もどきの設例でながながと情報の不開示の説明をするのと同様に、開催は公表されているはずの大使・公使主催のレセプション費用を秘匿すべき事情や、買い置いてある手土産用の日本画の購入手続や接待用の買いだめワインの説明をするべきであったのである。しかし、これまでの被告らの対応からすれば、もとよりこのような真摯な対応は期待できるはずもない。
以上のように、被告の仮想事例に基づく本件不開示の「被告なりの正当性」の主張は、報償費支出の希少事例を外務省の代表事例であるかのごとくにしてこれを行ったものである。そして、そうした事例においてさえ、報償費支出に関する関係文書のすべてを全面不開示とする理由にはなり得ないことが明白となったのである。ましてや、報償費の多くの事例は、これを開示しても国の安全や情報収集・外交事務の遂行に支障などが生ずるはずもないものである。ともかく、被告の仮想事実に基づく法5条3号、6号に関する不開示事由の説明は、同各号所定の要件を充たすものとはなっていないことは明白である。
 
第4 目的に外れた報償費まで法5条を隠れ蓑にする被告の主張
    ―「原告準備書面(4)に対する反論」に対するその余の反論
 
1 歴然とした目的外使用に筋違いの反論
(1)被告は、原告が準備書面(4)において報償費の目的外使用を指摘した点に ついて、「報償費の意義及び情報公開法を正解しないものであって、失当である」(被告「第6準備書面」32頁)と主張するが、かかる主張こそ、訴訟手続の常識に反する強引かつ欺瞞的な主張であり、被告主張のもっとも不合理な点を殊更に糊塗しようとするものである。     
(2)被告は、「(会計検査院の検査を含む、国の適正経理の確保を目的とする)制 度的仕組みは、それ自体で完結して予算執行の適正を図ることのできる自足的なものとして構成されており、実際にもそのように機能しているのであって、情報公開制度と相連関して機能するものではない。したがって、上記仕組みの下での検査において指摘を受けることと、情報公開制度とは全く別次元のものであり、前者の事実から後者の問題につき何らかの結論を導き得ないことはいうまでもない。」(同35頁)と主張する。
しかし、会計検査院の検査と情報公開制度が別次元の制度であることと、会計検査院の検査結果が不開示事由の存否の判断に影響を与えるかどうかとは、それこそ全く別次元の問題である。情報公開制度における不開示事由の存否についての判断資料には何ら制限はないのであって、たとえ別次元の制度によって明らかとなった事実でも、これを判断資料とするに何ら支障はない。
(3)原告は、本件文書についての不開示情報該当性を否定する一つの(ただし、きわめて決定的な)資料として、会計検査院の検査の結果明らかとなった事実を指摘しているにすぎないのであって、それ以上に、会計検査院の検査と情報公開制度が制度的ないし機能的に結びついているというような主張は何ら行っていない。
(4)結局、被告の上記反論は、報償費の目的外使用という事実(法5条3号の情 報とは無関係となる)を否定しきれない被告が、会計検査院による「検査において指摘を受けることと、情報公開制度とは全く別次元のものであり」などと筋違いの反論をしているだけのものである。当然のことながら、被告は、目的外使用の場合にも、なお法5条3号等の要件を充たす情報が記載されているとの主張はなし得ないのである。
 
2 被告は会計検査院の指摘した報償費支出を説明すべきである
(1)平成12年度会計検査院の報告「報償費の執行について」(甲11)において 会計検査院は、「12年度に報償費で支出されたものの中には、定型化、定例化するなどしてきており、当面の任務と状況に応じ機動的に使用するとの報償費の趣旨からすると、報償費ではなく庁費等の他の費目で支出するよう改善する必要がある経費(国内又は海外で開催される大規模レセプション経費6131万余円、酒類購入経費1536万余円、本邦関係者が外国訪問した際の車借り上げ等の事務経費1083万余円、在外公館長赴任の際の贈呈品購入経費4729万余円、文化啓発用の日本画等購入経費7238万余円)が含まれていた。」と指摘している。
(2)また、平成14年度予算において、外務省の報償費の予算額は前年比約40 パーセント削減されているが、外務大臣は、2001年8月20日の記者会見において、削減される約40パーセントのうち約25パーセントは、公表しても支障がない(1)在外公館でのレセプション代、(2)接遇用のワインなどの購入費、(3)会議費の一部などを一般予算に移すものである旨説明している(甲13、14)。
(3)以上の事実、特に、上記のような報償費の使用が「定型化、定例化」してい るとされていること、及び平成12年度の報告で指摘されたレセプション代や酒類購入経費が平成14年度予算で削減対象となっている(つまり、平成13年度もこれらは報償費から支出されていた)ことからすれば、平成11年度においても同様の使用がなされていたことは疑いがなく、本件文書にかかる報償費としての支出の中にも、会計検査院報告の指摘にかかる国内又は海外で開催される「大規模レセプション経費」、「酒類購入経費」、「本邦関係者が外国訪問した際の車借り上げ等の事務経費」、「在外公館長赴任の際の贈呈品購入経費」、及び「文化啓発用の日本画等購入経費」が含まれていたことは明らかである。
(4)被告は、これらの支出が報償費の定義、目的に沿って使用された旨主張するのみで、これらの支出に関する「支出証拠、計算証明に関する計算書等支出がわかる書類」が情報公開法5条3号にいう「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」のある情報に該当することについてはほとんど具体的な主張はなく、立証に至ってはさらにない。
(5)かろうじて、酒類購入経費及び車借り上げ経費については「現政権の反対勢力R氏との会合を準備する際に、今後の外交工作等のため同人との緊密な関係を築くという意図・目的のもとに同人に対して贈呈する品として酒類を購入したり、同人との会合のため必要な移動に用いる車両を借り上げるために、その使用料を支出することは、報償費の使途としては許されるし、あり得ることである」と主張されているが、「定型化、定例化」しているとの会計検査院の指摘や、「接遇用のワイン」との外務大臣の記者会見における説明からすれば、単なる儀礼として贈呈される酒類の購入費用や一般的な移動のための車借り上げ経費が大半を占めるものと推測されるし、また仮に被告主張のようなケースで支出された場合であっても、本件文書に酒類の贈呈先や車借り上げの具体的目的まで記載されていなければ、これを公にしても特段の支障はないはずである。さらに上記以外の「大規模レセプション経費」、「在外公館長赴任の際の贈呈品購入経費」、及び「文化啓発用の日本画等購入経費」などは、これを公にしても「国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」など存在しないことは明らかである。
(6)そもそも、本件処分を行った被告外務大臣自身が、報償費として使用されていたもののうち「公表しても支障がない」経費を一般予算に移した旨説明しているのであり(甲14)、上記のような支出が情報公開法5条3号に該当しないことは被告自身が認めるところなのである。
(7)以上からすれば、本件各文書の中には、情報公開法の定める不開示事由に該当しないものが含まれることが明らかなのである。それ故、これらを全部不開示とした本件処分は一見して明らかに不合理であり、その違法性は明白である。
よって、本件処分は速やかに取り消されるべきである。
 
以上