情報公開市民センター
報償費不開示取消訴訟 東京高裁
証人尋問(07.8.2)の概要
1.齊木陳述書の提出と記述内容
 控訴人の外務省は、齊木尚子大臣官房会計課長の陳述書(07年6月29日付)を証拠説明書とともに提出した。陳述書には次のような事項が記述されている。
1)対象文書中の五類型に係る文書以外の1017件の文書には、「公にしないことを前提とする外交事務」情報が記録されており、不開示事由に該当する。
2)経緯を十分に踏まえ、訴訟理由書の考え方を十分に理解して、会合の経費に関する文書を「直接接触」と「間接接触」に分類する作業を指揮した。
3)自らが経験した「直接接触」と「間接接触」の事例各2件の内容を詳述し、それらの「公にしない外交活動」の特徴や本質は、対象文書に係る外交活動にもそのまま当てはまる。
2.齊木尚子氏のプロフィル
 齊木尚子氏は東京大学法学部卒、1982年外務省入省、条約局法規課、ジュネーブ代表部、国際平和協力室長(98年〜)、北米二課長(2000年〜)、条約局法規課長(02年〜)、慶應大学教授(官学交流出向、04年〜)、経済局政策課長(06年8月〜)を歴任。
 外務省初の女性次官候補と噂され、エリートポストの一つの会計課長職に06年9月から就いている。
3.証人尋問
 証人尋問が8月2日午後2時から825法廷で行われ、外務省側は齊木証人に対して陳述書を復唱させる形での主尋問を行った。センター側は、60分余りの持ち時間で反対尋問を行った。
4.齊木証言の重大な諸問題
 齊木証言は陳述書に記載した以上のことは証言しないことを基本とするものであった。しかし次のような、事実に反する偽証ともいえる証言がなされた。
@「過去も現在も、報償費による国会議員への便宜供与は行っておりません。」
・国会での外務大臣や官房長の答弁では、在外公館と国会議員との会食は便宜供与であるとされており、報償費による支出がなされていることは明言が避けられているが、それを否定した答弁ではない。
A「数年前は便宜供与の会食は、基本的には事務運営費で、庁費で支出をしていると思います。」
・センターが当時行った「大使館の飲食供応・便宜供与」支出文書の情報公開請求に対して、外務省が特定した文書の支出科目は、交際費、在外公館交流諸費、報償費の3種類であり、庁費の特定はなかった。交際費と交流諸費の開示文書には、国会議員との会食支出はなかった。
B「表現としては適切でないかもしれませんけれども、この国会議員の方を外交交渉の1つの道具として使わせていただこうということでございました。」 「外交の目的を達する一部として、たまさかそこに来られた国会議員を活用するのが間接接触でございます。」
・外務省が作成した準備書面添付文書の記録内容によると、58件の「間接接触」の内の17件の国会議員との会食はすべて、国会議員が訪問国の関係者と接触する準備、または接触を踏まえてのものであるとされている。関係者との接触の目的が外務省の外交活動に関わるものであるとの記述はない。
C「本件訴訟で問題となっていますのは報償費でございまして、……在外公館が国会議員がいらっしゃったときにサービスで便宜供与をするといったものは一切含まれておりません。」
・便宜供与に関する情報公開審査会の答申によって、本訴訟の対象支出が、外務省が便宜供与として行った会食であることが明らかになっている。
5.齊木証人の経験事例は異質・秘匿性が低いもの
 齊木証人が自らの経験として陳述・証言した4件の事例は、仔細に見るとすべて異質・特異なもの、あるいは秘匿性の低いものである。
「間接接触」事例1の特定品目自由化問題は、「国会議員を道具として使う」間接接触たる会食である。齊木証人は自らの経験事例と対象文書の特徴・本質は同じであるとする。しかし前述Bのコメントのように、17件の国会議員との「間接接触」の会食のうち、目的が外務省の外交活動に係るものは1件もない。すべて来訪国会議員の支援である。
 「間接接触」事例2の司法サービス開放問題は、他国機関との交渉の準備のための省庁間の打合せであるとしているが、自らと他省職員との  公費による官官接待であり、「間接接触」にも当たらない。
 「直接接触」事例1の二重国籍問題は、外交工作でも秘匿性の高い情報収集でもなく、在外公館交流諸費なみに開示できるものである。
 「直接接触」事例2のPKO派遣先争奪戦は、報償費による工作が効く事案でなく、また日頃からの人脈構築は、秘匿性がないものである。
6.次回期日
 次回期日は10月4日午後3時からとし、特段のことがなければ4月の進行協議の通り、これを最終弁論とする予定となった。双方が期日前に最終準備書面を提出することとされた。
(鈴木祥宣 記)