平成13年(行ウ)第150号 行政文書不開示処分取消請求事件
原告 特定非営利活動法人情報公開市民センタ−
被告 外務大臣
準 備 書 面(5)
平成14年10月2日
東京地方裁判所民事第2部御中
被告指定代理人
野 下 智 之
箕 浦 裕 幸
吉 田 尚 弘
蔵 重 有 紀
高 林 正 浩
伊 原 純 一
小 池 稔
有 吉 孝 史
鈴木亮太郎
関 口 誠 二
まえがき
第1 本件各行政文書の標目、文書作成者名、記載されている外形的
事実等の特定
第2 本件各行政文書の記載事項の性格
第3 結語
別表(1ペ−ジから25ぺ−ジのうち1ぺ−ジを掲載)
被告は、本準備書面において、本件各行政文書に記録されている情報が情報公開法5条3号、6号に該当することについての理解に資するため、準備書面(4)をふえんして「文書の標目、作成者、文書に記載されている情報の外形的事実等」を可能な限度において明らかにするとともに、明らかにすることのできる限度及び明らかにした事項の意味について説明することとし、もって本件各行政文書に記録されている情報が情報公開法5条3号及び6号に該当することを改めて論証する。
なお、略語については改めて定義するものを除き従前の例による。
第1 本件各行政文書の標目、文書作成者名、記載されている外形的
事実等の特定
1 はじめに
各行政文書の記載内容は不開示情報の一部であって、不開示情報については開示が禁止されているから、不開示情報が記録されていると判断して本件各不開示決定を行った被告として、その内容をそのまま明らかにすることはできない。その上で、被告は、本件各行政文書の標目、作成者、外形的事実等について、本件各不開示決定によって保護しようとした情報収集その他外交工作等の利益に支障を来さない範囲で、可能な限り特定を行った。その結果は、別表のとおりである。以下、その際の特定の仕方について述べることとする。
2 本件各行政文書の標目の特定(別表の「標目」欄について)
本件各行政文書は、報償費の使用一件ごとにまとめられて1通の行政文書をなしており、本件各行政文書の標目は、準備書面(4)において明らかにしているとおり、外務本省、在外公舘ともにいずれも「決裁書」である(外務本省について準備書面(4)第2.3(9ページないし13ページ)、在外公舘について準備書面(4)第2. 4(13ページないし14ページ))。
なお、個々の文書において標目を示す記載は、当該案件名、任用部署名、使用方法等に関連するため、これを具体的に明らかにすると、個々の報償費の使用状況が判明することとなり、本件各不開示決定がその理由としたところの、情報収集その他外交工作が阻害されるおそれ、適正な外交事務の遂行に支障が生じるおそれを生むこととなる。 したがって、これ以上に標目として具体的に
いかなる文字、符号が記載されているかを明らかにすることはできない。
3 本件各行政文書の作成者の特定(別表の「文書作成者」欄について)
本件各行政文書は、外務本省、在外公館ともに、報償費の使用を実施する部署に所属する外務省の担当職員により作成されている。
この作成者名を特定して明らかにすれば、報償費を使用して行う情報収集や外交工作活動に係る、事務の遂行者名、その事務の担当部署を明らかにすることとなり、その結果、それぞれの事務の担当者ないし担当部署(在外公館を含む。)ごとにおけるこれらの事務の件数が知られることとなる。そうすれば、その多寡、推移を分析することが可能となり、我が国が行っている情報収集活動、外交工作活動に関する方針、意図、動向、その前提とする外交方針等が察知されることとなる等の理由により、情報収集その他外交工作が阻害されるおそれ、外交事務の適正な遂行に支障を及ぽすおそれがある。そして、このようなおそれがあることが、所属部署に限って特定した場合であっても同様であることは、被告の準備書面(4)でも述べたとおりである。したがって、「外務省職員」という以上に作成者を具体的に特定して明らかにすることはできない。
4 本件各行政文書に記載されている外形的事実等の特定
(別表の「外形的事実等」欄)
(1) 本件各行政文書に記載されている「外形的事実等」は、当該行政文書に関連する事務の流れに沿って記載されていったものであり、これらの「外形的事実等」の意義や性格を正しく理解するためには、このような流れの中での行政文書の位置づけ、行政文書の作成、保管の目的、趣旨を踏まえる必要がある。したがって、外務本省や在外公館における報償費の使用に係る意思決定の具体的な手続については既に準備審面(4)(9ページないし14ページ)で述べたところであるが、これを要約して再度述べれば、次のとおりである。
ア 外務本省においては、事務遂行のために予算を執行するに当たっては、あらかじめ事前の決裁をして、そのような事務遂行に関する意思決定を行った上で、これを行うこととされ、書式については、「特別なものを除き支出負担行為のため決裁書は別添書式によること」とされている。報償費は「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により、機動的に使用する経費」であるため、予算科目の定義からその支出が定まるようなものではなく、各事案ごとにその目的や内容を詳細に説明して決裁を得る必要が多い。このため、「決裁書」は、定められた書式によらないことが多いが、その場合でも、「決裁書には、債主名、契約金額、支出負担行為の目的、内容、支出年度、予算科目、単価、積算の基礎その他所定の事項を記載すること」との定めに従って、作成されている(準備書面(4)11ページ)。また、「決裁書」による決裁を受けて、当該担当局部課室が、当該事務を遂行し、支払の必要が現実化し、その交付を行おうとする時点で、当該事務の担当局部課室において、会計課長に対して、「決裁書」の内容に支出を依頼する旨を付記したり、支出を依頼する旨の紙面を付加したりしたものを、請求書等関連書類類がある場合にはこれを付して、提出することとなっており、その際、付加された紙面に、件名、科目、金額、支払先支払方法、支出事項等が摘記され、また、報償費の支払後には、役務提供者から可能な限り領収書を徴収することとなっている(準備書面(4)12ページないし13ページ)。
イ 在外公館に送金された報償費の使用に当たっては、事案ごとに取扱責任者たる在外公館長の決裁を経ることとなっており、その際の書式については定められていないが、外務本省における「決裁書」に関する定めに準じ、予算一般について、支払先、支払金額、目的 内容、支出年度、科目、単価、積算の基礎等が記載されることとなっており、報償費についていえば、おおむね、報償費の使用目的、報償費を使用する内容、役務提供者等の氏名、支出科白、金額などを記載することとなる(準備書面(4)13ページ)。また、「決裁書」に従って事務を遂行し、支払の必要性が現実化した際には、取扱着任者から役務提供者等に報償費の支払を行い、可能な限り領収書を徴収することとなっており、更に、「決裁書」による決裁に基づいて報債費の支払が実際に行われたことを簡潔に示すため、当該領収書を、報償費の使用日、報償費の使用目的、取扱者、報償費の使用内容等を記載した書面に貼付することとなっている(準備書面(4)14ページ)。
(2) 本件各行政文書も、上記(1)のような意思決定手続に従って作成されるものであり、その際、それぞれの各文書に所要の事項が具体的に記載されており、その内容は、単に外形的事実にとどまらないものを含んでいることは、既に累次の準備書面において述べているとおりである (準備書面(1)44ページないし48ページ及び準備書面(4)17ページ)から、これを個々具体的に明らかにすることは、情報収集活動その他の外交工作活動を阻害するおそれがあり、適正な外交事務の遂行に支障が生じるおそれがあるから、そのような本件各不開示決定において保護される利益を損なわない範囲で、「外形的事実等」を可能な限り客観的かつ具体的に特定し、別表の「外形的事実等」欄に記載した。
(3) 「外形的事実等」の記載方法についての考え方について述べれば、次のとおりである。
ア
本件各行政文書の文書作成者に係る記載の特定
本件各行政文書の起案者など、文書を作成した担当者の具件的な氏名に係る記載がある場合には、別表「外形的事実等」の欄に「文書作成者名」と記載して特定を行った。「文書作成者名」との記載を超えて、更に具体的に特定を行うことはできない理由については前記第1の3に述べたとおりである。
イ 本件各行政文書の決裁者名に係る記載の特定
本件各行政文書に、その最終的な決裁権を有する者やこれに至るまでの
間に決裁する者の氏名が記載されている場合には、「決裁者名」と記載して特定を行った。もっとも、本件各行政文書の最終的、中間的決裁者の氏名を、明らかにすれば、情報収集や諸外国との外交工作活動のために報償費を使用するための意思決定プロセスに関与する関係者の具体的氏名を明らかとすることになる。そうすると、事務の担当部署(在外公舘を含む。)別の情報収集等の活動の件数を知り、その多寡、推移、頻度を分析することが可能となる。このようにして、他国等が、我が国が行う情報収集活動、外交工作活動等に関する方針、意図、動向、その前提となる外交方針等を察知すること等が可能となる。これらの理由によって、当該部署・公館と外国若しくは国際機関との信頼関係を損なうおそれ、情報収集その他外交工作が阻害されるおそれ、交渉上の不利益を被るるおそれがあり、また、外交儀礼上の問題が生じるおそれもあり、外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。したがって、「決裁者名」という以上に具体的な特定を行うことはできない。
ウ 起案・決裁日に係る記載の特定
本件各行政文書に起案日及び決裁日の記載がある場合には、別表の外形的事実等の欄に「起案・決裁日」と記載して特定を行った。
起案・決裁日を具体的に明らかにすれば、情報収集活動その他外交工作活動を行うための意思決定の時期が個々に明らかとなる。その結果、意思決定プロセスの一端をうかがうことができることとなるし、また、当該時期における国際情勢を踏まえた分析を加えることなどにより、いかなる外交事実に関して情報収集活動その他外交工作活動等が行われたかを推知し、分析することが可能となり、その結果、我が国の情報収集活動その他外交工作活動の方針、意図、動向等、その前提となる外交方針等が察知される結果となる。そうなれば、外国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ、情報収集その他外交工作活動が阻害されるおそれ、外交儀礼上の問題が生じるおそれ、交渉上の不利益を受けるおそれがあり、また、外交事務の適正な挙行に支障を及ぽすおそれがある。したがって、「起案・決裁日」という以上に具体的な特定をすることはできない。
エ 報償費の支払予定先に係る記載の特定
本件各行政文書に、報償費を使用しようとするに当たって予定している支払先の氏名等に係る記載がある場合には、別表の外形的事実等の欄に「支払予定先」と記載して特定を行った。「支払予定先」とほ、報償費の支払を予定している相手方たる役務提供者等であり、氏名のほか、その住所、口座番号等も記載されることがある。報償費の支払予定先を明らかにすれば、我が国が行う情報収集活動その他外交工作活動において協力を受ける者、それらの活動の対象となる者等の役務提供者等の相手方そのもの及びその者にかかわる事項を明らかにすることになるほか、これらの活動の有無、その舞台、方法等をも明らかにすることとなる。その結果、相手方がその活動の前提とし、我が国との間で培われた秘底保持に対する信頼が損なわることとなり、じ後の協力等が得られなくなるほか、その者に対し危害等が加えられるおそれもあり、また、当該相手方の職業、社会的地位、専門分野等の個人的属性、活動の方法、舞台等を分析することが可能となって、我が国が行っている情報収集活動や外交工作活動に関する方針、意図、内容等が察知される結果となり、情報収集活動その他外交工作活動が阻害され、交渉上不利益を被るおそれがあるほか、外国又は国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあり、外交事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。したがって、「支払予定先」との記載を超えて、具体的な特定をすることはできない。
オ 報償費の使用予定額についての記載の特定
本件各行政文書に、報償費の使用予定額の記載がある場合には、別表の外形的事実等の欄に「支払予定額」と記載して特定を行った。
報償費の予定支払額を、更に具体的に特定して明らかにすれば、報償費を使用する案件ごとの支出予定金額及びその通常単位を明らかにすることとなる。個別の支出予定金額が明らかになれば、その額の多寡 推移等を通じて、報償費を使用して行う情報収集その他外交工作活動の事務について、その大まかな方法、意図、方針等を推知することが可能となるほか、支出予定金額を他の事例と比較することが可能となり、役務提供者等の相手方との信頼関係を損なうおそれが生じることとなる。また、通貨単位が明らかになれば、報償費を使用して行う情報収集その他外交工作活動の事務の対象とする外国 国際機関、あるいはこれらの事務が行われる地を知り、分析することが可能となる。その結果、我が国と諸外国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ、交渉上不利益を被るおそれ、我が国の情報収集や外交工作活動が阻害されるおそれ、適正な外交事務の遂行に支障が生じるおそれがある。したがって、使用予定額について、それ以上に具体的な特定を行うことはできない。
カ 償費の使用の目的・内容の記載についての特定
本件各行政文書に、報償費を使用して行う事務の目的や内容が記載されている場合には、別表の「外形的事実等」欄に「目的・内容」と記載して特定を行った。報償費は外務省においては情報収集及び外交交渉又は外交関係を有利に展開するために用いられる経費であるから、報償費の使用の「目的」とはこのような報償費の目的に沿った報償費の使用の目的、事務の必要性に関する記載であり、上記各行政文書にはこれが具体的に記述されている。また、「内容」とは、報償費を使って行う「情報収集の事務」などの具体的な内容、方法、態様に関する記載であり(準備書面(4)11ページ)、当該内容の適正さを示す積算等の根拠や事情(役務提供者等との交渉、従来の成果等を含む。)、事務を行う職員等の理由、日時、場所をも含むものである。なお、この目的と内容とは、その性格上裁然と区別して記述されるものではなく、渾然一件となっていることを踏まえ、別表においてもこれらを区別せず「目的・内容」に係る記載があるか否かとして摘示した。また、この「目的・内容」に関しては、これらの記載を踏まえて、準備書面(4)においてその主たる目的・内容に沿って3種(A:情報収集等の事務、B:外交交渉等の事務、C:国際会議への参加等の事務)に分類し、表にまとめたところであり、本準備書面添付の別表においても参考のためこれを付記することとした。
そして、報償費は「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」であり、固定性がないことを本質とするから、目的・内容」に係る記載も、当然ながら個別姓の強いものである。そして、「目的・内容」を個別具体的に明らかにすることは、報償費を使用して行う情報収集活動その他外交工作活動そのものを直ちに明らかにするこ
とになるから、その場合、情報収集活動その他外交工作活動が阻害されるおそれがあり、他国又は国際機関との信頼関係を損なうおそれ、交渉上の不利益を被るおそれがあり、適正な外交事務の遂行に支障が生じるおそれがある。したがって、「目的・内容」という以上に特定を行うことはできない。
キ 予算科目についての記載の特定
本件各行政文書に、予算科目の記載がある場合には、「予算科目」と記載して特定を行った。本件各行政文書は、報償費の支出を対象とするものであるから、科目とは、具体的には「報償費」、「政府開発援助報償費」、又は、その双方が記載されているものであり、そのほか予算科目の年度が記載されることがある。
ク 支払手続日についての記載の特定
本件各行政文書に、報償費の支払の手続きを執った日が記載されている場合には、別表の「外形的事実等」の欄に「支払手続日」と記載して特定を行った。上記ウと同様の趣旨により「支払手続日」という以上に特定することはできない。
ケ 取扱者名の記載についての特定
本件各行政文書に、報償費の支払手続における取扱者名に係る記載がされている場合には、「取扱者名」と別表に記載して特定を行った。かかる報償費の支払手続における取扱者は、報償費を使用する事務を行う担当者、又はその担当部署職員である。したがって、上記アと同様の趣旨により「取扱者名」という以上に具体的な担当者等の個人の氏名を明らかにすることはできない。
コ 支払先の記載についての特定
本件各行政文書に、報償費の実際の支払先名が記載されている場合には、別表に「支払先」と記載して特定を行った。したがって、上記エと同様の趣旨により、「支払先」という以上に具体的な特定をすることはできない。
サ 支払額の記載についての特定
本件各行政文書に、報償費の支払の必要が現実化した時点における実際
の支払金額が紀載されている場合には、別表に「支払額」と記載して特定を行った。報償費の支払額を、上記以上に具体的に特定して明らかにすることができないのは、上記オと同様の趣旨による。
シ 支払方法
本件各行政文書に、報償費の実際の支払方法が記載されている場合には、別表に「支払方法」と記載して特定を行った。
(4) なお、別表において、文書作成者、決裁者、起案・決裁日、支払予定額、支払予定先が記載されていないものは、現在被告が保有している当該行政文書において、これらの事項が記載されている部分が存在しないことを意味する。
第2 本件各行政文書の記載事項の性格
以上から明らかなとおり、本件各行政文書には、文書作成者、文書の決裁者、文書の起案・決裁日、報償費の支払予定先や支払先、報償費の使用する目的事務の内容、報償費の支払予定額や支払額、報償費の支払方法等が具件的に記載されている。これを公にすると、報償費を使用して行う情報収集活動その他外交工作活動を察知されることになり、これらの活動に対する折害、役務提供者等との信頼関係の破壊等を来すものであって、これらの活動が阻害されるおそれがあり、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ、又は他国著しくは国際機関との交歩上不利益を被るおそれがあると認めるにつき相当な理由があ(法5条3号)り、被告の判断に裁量の逸脱、濫用がないことは明らかであり、また、外交に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある(法5条6号)ことも明らかというべきである。
第3 結語
以上の説明からも、原告の主張は理由がないことが一層明らかとなったものである。よって、本件各請求は棄却されるべきものである。