意見書

情報公開市民センター理事・全国市民オンブズマン連絡会議事務局長
弁護士 新海聡

第1 防衛・外交情報該当性に絞りをもうけることを求める
1,  2005年に愛知県で予定されている国際博覧会を中止した場合に日本国政府が負担するべき賠償額のわかる資料の公開請求をしたところ、外務省と経済産業省が、法5条3号に規定される外交文書にあたるとして、公にされている一部の文書を除いて、不開示処分をした。
 これに対して、名古屋地裁の第一審判決は、不開示情報とされた情報中に既に愛知県が公表している情報とほぼ同じ情報があることを理由として、不開示処分の一部の取り消しをした。
 この判決の認定が明らかにするように、外務省や経済産業省は、法5条3号に該当しない情報までも同号に該当する、として不開示決定をしてきているのである。
2,  そもそも、当該文書が法5条3号に該当する文書なのか、他の各号(1号本文後段,5号,6号)に該当するものであるかは、実施機関の判断の合理性の対する結論を大きく作用する。同条3号に該当する、ということになれば、他の各号による不開示処分とは異なり、現実に「おそれ」が発生することがなくても良い。これを開示することにより国の安全等を害するおそれがあると判断したことが不合理ではない程度の基礎事実を主張立証しさえすれば、不開示処分は維持されるのである。他の各号による不開示処分と比較して、明らかに行政機関の判断が維持される余地を拡げる。
 今回の例はたまたま原告が不開示文書中に既公表文書と類似する文書があることに気づいたために、不開示決定が取り消されたが、原告が既公表文書に気づかない場合には、そもまま法5条3号に該当するとして、不開示処分が維持されたおそれが大である。
 このような、いわば法5条3号の濫用が行われていることの原因は、対象文書を具体的に限定していないことにある。一方、諸外国では防衛外交情報について、該当する文書の範囲を「国家安全保障情報」(カナダ)としたり、「国家安全保障に関する情報及び保安業務を管掌する機関について、国家安全保障と関連する情報分析を目的に収集し又は作成された情報」(韓国)というように具体的、明白に限定し、不開示範囲の広がりを防止している。
3,  我が国でも、一応、各省庁の内規で3号該当性についての基準をもうけ、ホームページ上で「他国等との信頼関係が損なわれるおそれのある情報」と「他国等との交渉上不利益を被るおそれがある情報」について、文書を例示している。しかし、法5条3号の濫用を防止するためには、内規に止まらず、それぞれの情報への該当する例を列挙するか、または該当するための要件をより厳格に法文上定めるとともに、不開示処分が争われた場合には、当該文書がどの要件に該当するかについて、実施機関において主張、立証させることが必要である。
 かかる内容での法文の改正を求める。

第2 インカメラ審理の導入を求める
1,  上記訴訟の第一審で、愛知県公表文書との実質的同一性を理由として不開示処分が取り消された文書について、被告経済産業省は控訴審段階で、愛知県公表文書とは同一性がない旨の担当者の陳述書を提出している。
2,  愛知県公表文書と不開示文書とが同一であるかどうか、などという争点は、インカメラ審理をすれば一目瞭然である。しかし、現状においてかかる手段がないため、私たち一審原告はこれを立ち会い権を放棄する旨の上申をしたうえでの検証申し出を行った。しかし、仮に検証が採用されるとしても、検証では、文書の記載内容の調査を目的とした証拠調べではないため、検証での調査内容は形式的な内容に止まらざるを得ない。
3,  また、第1で述べた、法5条3号該当性について限定をもうけ、実施機関に該当性の主張立証をさせる場合にも、最終的に裁判所がインカメラ審理を行うことで、判断が的確になると思われる。
4, 以上の理由により、インカメラ審理の導入を求める。

第3 部分公開の例外規定(6条1項但書き)の廃止または整備
1,  情報公開法が施行された後、実施機関はしばしば、部分公開の例外を定めた6条1項但し書きを不当に拡大し、部分開示すらしない、という対応をしている例が多く発生している。
2,  引き金となったのは、大阪府条例の部分公開に関する、最高裁第三小法廷平成13年3月27日判決である。判決は「非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し、その一部を非公開とし、その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして、これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできない。」として、全面非公開処分を許容したのである。
3,  しかしながらこの、「非公開事由に該当する独立した一体的な情報」という概念は抽象的で、「独立した一体的な情報」の内容の捉え方によっては部分公開を一切否定する結果を生み出す。
 そして、情報公開法の運用に関しても、捜査報償費の不開示決定取消訴訟で実施機関側が「支出先、支出額、支出金額の情報が合わさって初めて独立した一体的な情報といえる」と主張して部分開示を拒否する例など、実施機関が「独立した一体的な情報」の意義を極めて広く解釈したうえ、法6条1項但書の「有意の情報」が記載されているかどうかの判断を「独立した一体的な情報」の一部か否か、という基準に置き換えることで「有意の情報」をことさらに限定し、情報を全面的に不開示することを正当化する結果を生じさせている。
4,  しかしながら、「有意の情報」の意義についてわざわざ「独立した一体的な情報」の一部かどうか、といった概念操作を用いることは立法時に予想されなかった事態である。立法時に予想されなかった不当な運用によって、法6条1項の部分開示の義務までも没却する結果を生み出していることになる。
 したがって、かかる誤った運用が行われ、実質的に部分開示の義務が没却されるおそれが高い以上、法6条1項但し書きを削除するか、あるいは同但し書きの「有意の情報が記録されていないと認められるとき」という文言について、不開示情報を除いた残りの部分だけでは開示しても何らの意味がない場合であることが明白に理解できるよう、文言の修正をすることが必要と考える。

以上