平成16年5月26日

意見書

特定非営利活動法人 情報公開市民センター
事務局長 黒田達郎

1、ヴォーン・インデックスの導入
 外務省報償費訴訟に関連してヴォーン・インデックスを導入すべきとの意見を陳述する。このインデックスは、インカメラ審理が採用されているアメリカで大量の文書があってインカメラ審理を行なうことが困難な場合に、これを補うものとしてアメリカン大学のロバート・G・ヴォーン教授が編み出したものではあるが、仮にインカメラ審理がない場合でも十分に有効でありうる。もちろん、インカメラ審理が導入されていない場合に、最終的にその信憑性を確認する手段がないという意味では100%の効力はないが、少なくとも今の外務省報償費訴訟の進行を見る限りそれなりの意味を持つ。
 外務省に開示請求したのは「報償費に関する支出証拠、計算証明に関する計算書等支出がわかる書類」である。外務省は該当文書が1069文書あるとしたが、当初、一切を不開示にし「報償費」の一般的な定義を述べて、公開すれば「国の安全、他国との信頼関係を損なう」「おそれがあると」「認めることにつき相当の理由があると」外務大臣が判断したことで足りると抽象論に終始しようとしていた。裁判所の指示で外務省が「外形的事実等について可能な限度において特定した」として提出したのは、単に「文書作成者名」「決裁者名」「決済日」「支払予定先」「支払予定額」「目的」「内容」「支払手続日」といった13項目の表記を1069行に亘って羅列した一覧表であった。
 裁判は文書の公開・不公開を争うものであるから、すべての内容を提示しては訴訟の意味をなさない。しかし、どのような種類の内容が記載されているかを表示内容に具体性を持たせずに「国の安全」を害さず「他国との信頼関係を損な」わない程度に抽象的に表示することは難しいことではない。不開示部分を開示拒否理由によって項目別に分類整理したものを提示しなければ裁判所が拒否理由の正当性を検討することはまったく不可能になってしまう。
 インデックス作成は、当初、行政側に煩わしく時間の掛かる作業を強いるものではあるが、時間の経過と共に行政文書の記載方法もパターン化し、インデックスの作成にそれ程時間が掛からなくなると予想される。現にアメリカでは、今、インカメラ審理が減少して多くがインデックスの作成止まりになっていると言われる。
 そもそも憲法の「裁判の公開」原則を「情報の公開の可否を争う訴訟」に適用してインカメラ審理を不可とすること自体が不可解であるが、仮に一歩譲ってインカメラを導入しないとしても、行政側にヴォーン・インデックスの作成を当然のこととして義務付けなければ情報公開法は極めて不完全といわざるを得ない。裁判所がインデックスの作成を行政側に指示が出来るような法的な制度を作って欲しい。

2、公益目的には開示請求手数料・コピー代を減免。
 NPO法人情報公開市民センターの活動の実態から、公益のための活動には開示請求手数料を免除しコピー代も紙やインクの実費程度に減額して欲しいとの意見を陳述する。
 センターの年間経費は約240万円で、事務所は霞が関に近いことを必須条件にするため四ツ谷に坪9千円で借りており、家賃が年間経費の約半分110万円である。無給のボランティア10名余りが交代で毎日平均1.5人が事務所に詰めていると通勤費だけで年間で55万円。通信費・ホームページ維持費・光熱費などを勘案すると情報公開手数料・コピー代は年間15万円弱しか捻出できない。
 では経費節減のため何をしているか。まず、ボランティアの通勤費も一部の者は個人の寄付金としてもう一度センターに還元している。開示請求手数料やコピー代もセンターの活動に関わる資料であってもかなりの部分を個人が負担している。特に負担が大きいのが1枚20円のコピー代で、これは出来るだけ閲覧とするしかない。
 今、15中央省庁と約60社の特殊法人等に、内部監査体制について一斉に情報公開請求を掛けている。センターでは情報公開法の施行から3年間、中央省庁の情報公開度ランキングを発表して来たが、今年は独立行政法人等情報公開法の施行から1年半を経過したことから対象を特殊法人等にも拡大した。内部監査の重要性を認識して貰い、実名でランキングを発表することで内容の充実を競い合って欲しいという目的である。
 その後、総務省行政管理局が1年前に同じ趣旨で調査をやっていることが判り、この1年間で特殊法人等がどのような対応をしたかも併せて調べようと、総務省に調査資料を公開請求した。 しかし、開示された文書は約2600枚でコピー代が55千円も掛かる。閲覧だと1枚1円、2600円で済むから、やむを得ず、総務省に出かけて1週間ほど情報公開室に詰めて資料分析の作業をする予定である。これは人件費がタダだからはじめて出来る対応策である。
 今、日本では、まだ公益の活動に個人や企業が寄付をするという文化が根付いていないことは良くご存じと思う。NPO法人の数は1万6千あるが、寄附金の税制優遇を受けられる認定NPOは4月27日現在でまだ23社に過ぎない。基金や財団などの寄附金も文化財保護や環境問題などは比較的に出やすいが、民主化などの社会活動を対象にするところはほんの僅かしかなく、ここには申請が殺到している。
 アメリカでは情報公開関連の手数料に関して、公益団体、大学などの研究活動や報道機関に対しては一般企業の営業活動とは区別した優遇措置を取っている。ぜひ、同様な環境造りを進めて欲しい。

以上