平成14年6月12日
情報公開審査会 殿
                              異議申立人 高 橋 利 明
〒160-0003 東京都新宿区本塩町9番地
光丘四谷ビル6階 四谷見付法律事務所
意 見 書

諮問番号 平成14年諮問第162号
事 件 名 国家公務員倫理法第6条に基づく贈与等報告書(閲覧対象以外のもの)の一部開示決定に関する件
上記の諮問事件について意見書を提出します。

1.原処分の特徴―実質の全面不開示

 原処分は、公務員の受けた報酬の額の部分を開示し、著作物の公刊等で公になっている部分すなわち公務員の所属・官職・氏名、起因事実、事業者の部分を不開示にした。これは実質的に全面不開示といってよい処分である。

2.「個人の活動」とは見えない

 諮問庁(国土交通大臣)は理由説明書5項の中で、贈与等報告書を提出した職員が行った原稿執筆・講演は、勤務時間外に行ったものであることを理由として、「個人の活動」であるとし、情報公開法(以下「法」という)5条1号の規定を適用して個人識別情報を不開示とした原処分は妥当であるとする。
 しかし、次の諸点から総合的に判断すれば、当該職員(以下「当該公務員」という)の原稿執筆・講演は個人の活動とは見えない。
1) テーマ
テーマは、ほとんどの場合、当該公務員の職務に関わる行政の解説であり、公務そのものである。
2) 依頼者
依頼者である事業者は国土交通省所管の許認可法人や同省所掌業務分野での出版等の事業を営む法人である。また依頼者は当該公務員に公の立場での執筆・講演を依頼したものである。
3) 当該公務員
当該公務員は、公の刊行物・講演会の場で、所属・官職・氏名を名乗って、公的立場で原稿を掲載し・講演を行ったのである。
4) 読者・講演会研修会参加者
読者・講演会研修会参加者は、当該公務員の個人の活動としてでなく、公的な立場の職員の言として読み、聞きする。
 これだけの客観的な事実が存在しているのであるから、原稿執筆・講演が勤務時間内であるか時間外であるかにかかわらず「公務性」を有することは明らかである。
 なお、異議申立人は、国家公務員が担当行政の解説等を行うために、原稿執筆・講演の引き受けをすることや、勤務時間外の役務に対して一定範囲の報酬を得ること自体には、何の異議を差し挟むものではない。こうした情報も開示せよ、と言っているのである。

3.禁反言の法理により、プライバシーの保護は後退する

 諮問庁は理由説明書6項(1)の中で、「法5条1号ハに規定する職務の遂行に係る情報とは公務員が行政機関の一員としてその担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味する」として、「当該職員の原稿執筆・講演に関する報告書は職務の遂行に係る情報にはあたらない」と主張する。
 しかし、執筆原稿の公表や講演活動は、まさに「公務員が行政機関の一員としてその担任する職務を遂行する場合」そのものと見え、かつ、その外観を有している。多くの執筆原稿等は当該公務員の担任する法案等やその審議過程あるいは制度についての行政庁としての解説であり、個人的な見解を述べたものではない。執筆時間等が勤務時間外であるというだけでは、公務性の外観をうち消すことはできない。また、その外観は当該公務員が積極的に作出したものであるから、当該公務員は、後刻、公務性に由来する不利益を免れるために「実は公務ではない」と前言を翻すことは、禁反言の法理からも許されないところである。
 当該公務員の執筆した作品や講演は、前記の1)〜4)の条件が揃うから需要もあり、値打ちが出るのである。それらの作品は、前述の通り、公務そのものであり、かつ、執筆者の肩書きの表示など公務性の外観を自らが押し出して対価等を得ているのである。そうであるのに、そのことによって得た報酬等を「プライバシー」を盾に秘匿することは、公平の観念にも著しく反する。
 民法や商法には、表見制度や外観制度が存在する。これらの制度は「表見代理人」なり「表見取締役」なり、そうした外観を信頼して取り引きをした相手方を保護しようとする「取引の安全」を図る制度であるが、これらの制度は禁反言法則(エストッペルの法理)に由来するものである。すなわち、自らが宣言したり作り出した外観(権限の授与等)には、自らが責任を負うべきであるとの法則が基本にある。この理は、公務性の外観を自ら作出した場合には、それが不利益に転じようとも、その効果を甘受するべきであることを示唆している。公務員が、対外活動を行うについて、自らの官職を表示して行った活動については、そのことに関してのプライバシー保護を放棄したものと見なすべきである。

4.保護すべき個人の権利・利益について

 諮問庁は理由説明書6項(1)の中で、「確かに、職員が当該原稿の執筆又は講演を行ったということ自体は公になっている」ことを認めている。続いて「当該職員が執筆又は講演により支払を受けた報酬の価額までが公にされているものではなく、当該職員が行った執筆又は講演に対する報酬の価額が贈与等の報告を要する5千円以上であるかどうか、またその報酬を受け取ったか否かも明らかにされているものではない。」としている。これによれば、諮問庁は、保護すべき個人の権利利益とは当該公務員が報酬を受け取った事実とその報酬額という情報を指していると受け取れる。
 しかし、執筆原稿等は公刊されており、当該公務員が幾ばくかの対価を得ていることは十分に推認できることであり、「一定額の報酬の取得」という情報が開示されても、プライバシー情報(他人に知られたくない個人情報)の新規の開示という側面は小さく、当該公務員の「プライバシー」がことさら暴かれたというものではない。そして、その対価は、前述の通り、勤務時間外の作業であるという他は、通常の公務と変わらない外観の下になされた作業であり、かつ、その外観は当該公務員によって作出されたものであるとの事情も加えるならば、諮問庁が挙げる当該公務員の「個人の権利・利益」は、不開示という保護には値しないものというべきである。
 異議申立書で申し立てたとおり、諮問庁が一部不開示処分を取消して全面開示とすることを求めるものである。

5.法6条2項による部分開示の仕方について

 公務員倫理についての国民の関心は高く、諮問庁は開示請求があれば情報公開法の精神とその規定に従って最大限の開示をすべきである。
 本件の場合、諮問庁が認めるように、当該公務員が原稿の執筆または講演を行ったということ自体は公になっているのであるから、「報酬額」欄の不開示ならともかく、原処分のように、報酬額の部分を開示して、その他の公になっている部分すなわち当該公務員の所属・官職・氏名、起因事実、事業者の部分を不開示にするという、実質的に全面不開示に近い処分をすることは法の趣旨に反し不適切であり、違法である。
以上