2009年11月12日

外務省機密費の支出文書が初めて開示

−官官接待や端数のない巨額の「会合費用」など数々の問題点−

  情報公開市民センター

代表  高 橋 利 明

情報公開市民センターは外務省機密費(報償費)不開示処分取消訴訟の最高裁確定判決を受けて、このほど会合の経費の部分開示文書953件分を入手した。

開示を受けた文書には、外交官が本庁や在外公館で情報収集や外交活動を行うため相手方と直接接触した会合の支出関係文書(「直接接触」)と、在外公館を訪問した国会議員や邦人との会合の支出関係文書(「間接接触」)とがあった。

前者の開示文書では、支出日と金額以外はほとんどが黒塗りであったが、アメリカ大使館分で2万5千ドル、外務省の官房で140万円といった、会合の経費としては巨額で、かつ端数のない不自然な支出がいくつもなされていた。

後者の開示文書では、会合の趣旨や目的が分かる程度の開示がなされており、会合の相手方は、在外公館を訪問した国会議員や、外務省や他の省庁・行政機関の職員らであった。任地での外交交渉や情報収集とはおよそ無関係の内輪の会合で、議員への接待や「官官接待」であり、いずれも報償費から支出することが不適切なもので、かつ「秘匿性」があるなどとはいえない会合の支出であった。「官官接待」などは、地方自治体では返還請求が可能な支出である。

これまで開かずの扉として一切不開示とされていた、外交交渉や情報収集のためとする外交機密費の一端が明らかになったが、これで、外務省が「外交活動のための支出であるから一切公開できない」としていた言い訳に嘘があることが明らかになった。インカメラ制度もなく、外務省のいう「直接接触」と「間接接触」の区分も、外務省のいいなりである。外務省のこれまでの説明に明らかな嘘があったのだから、「直接接触」についての開示度を広げる要求をしてゆかなければならない。


1 情報公開市民センターの報償費訴訟経緯と結果

1) 一審はほぼ全面開示を命令

情報公開市民センターは情報公開法が制定された2001年6月に、外務大臣を被告として外務省の報償費(機密費)不開示処分取消請求訴訟を提訴し、06年2月28日、一審の東京地裁は、当市民センターが開示を求めていた外務省本省大臣官房とアメリカなど4つの在外公館で、2000年2月と3月に支出された1069件の報償費支出決裁文書のほぼ全面開示を命じた。

2) 高裁は不開示を拡大

これが二審の東京高裁(08年1月31日判決)では、外務省が「情報収集の対価」として支払ったとする支出分については全面不開示。情報収集・外交交渉のための会合・会食の経費として支出したとする支出分(「直接接触」の経費 895件)については、支出決裁文書のうちの支払日と支出額の開示を命じ、国会議員はじめ邦人との会合・会食の経費として支出したとする支出分(「間接接触」の経費 58件)については、支出決裁文書のうちの会合・会食の目的、在外公館側・客側の出席者、開催日、支払日、金額等の開示を命じ、不開示は会合・会食場所と領収書だけとした。

3) 最高裁は棄却を決定、高裁の判決が確定

この東京高裁判決に対しては、情報公開市民センターが上告ならびに上告受理申立を、外務大臣が上告の申立を行ったが、今年2月17日、最高裁は市民センターと外務大臣双方の申立を棄却する決定をした。これにより東京高裁判決が確定した。

4) 高裁が開示を命じた情報

高裁判決は、外務省側が「外交活動に使った」と主張した支出分については、その言い分のとおりに認め、そうした支出分については「情報収集の対価」(64件)を除いて、会合・会食の支出日と支出金額の開示を命じ、外交活動の経費としては認められない国会議員や各省庁の役人との会食・接待費などについては、会合の場所の情報以外の情報の開示を命じたということになる。「情報収集の対価」を別にすると、外交交渉や情報収集活動であっても、金銭の支出日や支出金額は国民に公開すべしとの判断があったことになる。

特に、齊木尚子会計課長(当時)が、国会議員との会食費について「在外公館員は、在外公館を訪問してくる国会議員を道具として使って外交活動を行っている」と証言したが、高裁判決も、齊木証言を信用しなかったのでこれらの情報は開示されることになったものである。


2 開示された報償費支出文書から読み取れること

1) 開示の実施が大幅に遅延

情報公開市民センターは外務省に対して、2月に確定した判決に従った報償費文書の開示を早期に行うよう、度々申し入れと督促を続けたが、外務省は開示の予定時期を当初6月としたものを再々延ばし、10月16日付で開示決定を行った。市民センターは開示文書を10月22日に入手し、内容の点検を行った。

2) 開示された文書の支出件数と金額

外務省報償費開示文書の、4大使館の直接接触と大臣官房分の、2000年2,3月分の支出件数と合計金額は次のようである。

       開示件数 (判決での件数)  金額     金額円換算

在米大使館    325  (322)    142,166.07ドル 15,766,284

在仏大使館    153  (153)    296,192.45フラン 4,866,442

在中国大使館   185  (185)    360,820.73元   4,834,998

在フィリピン大使館 67  ( 57)    680,526.00ペソ  1,953,110

大臣官房     338  (178)     3,155万円

3) おかしな大金の支出

「直接接触」の文書の中に次のような支出があった。

・外務省官房の支出

140万円という大金が2000年2月初めと3月初めの2回支出されている。外交活動や情報収集の「会合の費用」であるから、こうした大金でしかも端数がつかない費用はきわめて不自然である。これらの支出の起案・決裁は会計年度当初の前年4月で、1年近く使用されず年度末になって支出されたという点も不自然である。

・アメリカ大使館の支出

アメリカ大使館の直接接触の支出では、2万5千ドルおよび6千ドルの2件の、端数のない巨額の金が支出されている。しかも2000年3月29日という年度末である。

4) 秘匿性があるはずもない「間接接触」の支出

「間接接触」の支出件数58件のうち、夕食は26件、昼食(弁当等含む)は17件、合計43件で、それらのうち国会議員との会食は16件、本庁から出張した官僚との会食(弁当等含む)が18件、他省・行政機関の官僚を含む会食が9件である。

その他は、食材・飲料の購入が6件、車両の借上げや空港VIP室料、ポーターチップなどが9件である。

外務省職員同士のレストランでの会合費用が、どうして報償費から出せるのか説明がつかないはずである。明らかに目的外の使用である。自庁内のお役人同士の会食費を報償費から支出していたからこそ、秘密にしなければならなかったのだと思われる。これでは彼らのいう「機密・秘密」を信用できるはずがない。

開示文書により、2000年1月に訪米中の会計検査院長ら一行4人と在米大使館の公使ら4人が会食していたことが判明した。報償費で接待を受けていたのだから、会計検査院も不適切使用を指摘できなかったのであろう。

これらすべての「間接接触」支出について、外務省は、訴訟時の準備書面や、証人の齊木会計課長(当時)の証言で、「秘匿性がある外交活動であり全面不開示とすべきものである」と主張していた。

支出目的欄の記載や、設宴決裁伺書の記述を読むと、多くの支出は実際には「秘匿性」とは無縁のものであることが明らかである。


3 黒塗りの仕方にも問題

部分開示の仕方について、開示された「直接接触」文書は、年月日と金額以外の部分をべた黒塗りしたものであった。確定判決では、文書作成者名、決裁者名、支払予定先、目的・内容、支払方法、取扱者名の記録部分を不開示とし、支払日、金額を含むその余の部分は開示することを命じている。開示文書では、書面名、部署名、あらかじめ印字された記載項目名などが分からず、確定判決の指示に反している。


4 新聞報道が大きな反響、官房長官が「不適切」と謝罪

東京新聞が11月6日の1面と特報面で、外務省報償費の支出文書の開示を大きく報道した。1面トップ記事で会計検査院長一行を在米大使館公使らが接待したことを明らかにした。

平野官房長官が、同6日の記者会見で、この会食費を外務省報償費から支払っていた問題について「不適切だった」と謝罪した。(東京新聞6日夕刊)

毎日新聞(7日朝刊)などもこの問題を報道した。

官房長官が「不適切」と釈明しても、外務官僚は相変わらず、官官接待や国会議員への食事提供を「公にしない外交活動の一環だ」と言い張っている。開示文書のうち、会計検査院一行との会食の支出文書の1枚は「設宴決裁書」であり、設宴目的欄に「当国の会計検査院の実情に関する意見交換」と記載されている。公にしない外交活動の一環であるわけがないことは明らかである。

テレビ朝日の「スーパーモーニング」(10日)では、「民主党は野党時代に、官房機密費、外交機密費の不適切使用について繰り返し追及し、政権をとれば明らかにするとしてきたのであり、これまでの機密費をオープンにするのが政権交代の意味ではないか。」と論評した。


5 新政権下の情報公開に期待

情報公開市民センターは、政権交代が情報公開の前進に好機となると期待しており、これらの問題点について、外務省に説明と是正を求めることにしている。

新しい民主党政権下の外務省は、こうした過去の悪い慣行を白日にするとともに、これからの報償費の不開示は最小限に収めてもらいたいものである。

(担当:鈴木)