事件番号 平成22年(行情)諮問第178号
事件名 平成12年2月及び3月に支出された報償費に関する文書等の一部開示 決定に関する件
異議申立人 情報公開市民センター
処分庁 外務大臣 岡田克也
平成22年7月5日
意 見 書
情報公開・個人情報保護審査会 御中
異議申立人
特定非営利活動法人 情報公開市民センター
理事長 高 橋 利 明
はじめに
外務省は「理由説明書」という反論書を提出したが、その中で、外務省は、まず、@外務大臣が開示すべき情報は、不開示処分取消訴訟の東京高裁判決(平成20年1月31日付け。以下「原判決」という)が、原判決の理由中で明示的に不開示情報ではないとしている「支払予定日」などの4項目だけを開示すればよいのだと独自の論理を展開し、次いでA申立人主張のように、文書の一体性や独立性の判別が出来るようにしたり、開示された文書の各頁が判決別表のどの通番に該当するかを分かるようにするには、行政文書を新たに作成するまたは既存の行政文書を加工しなければならなくなるが、そのような義務を負ってない、などと主張している。
外務省の反論の@は、判決主文の意味内容の検討も回避して自己の都合に合わせて判旨を勝手に曲げて解釈している。外務省担当者には、この度の開示は、外務省自身が敗訴判決の執行を受けているのであるという認識が欠落しているのであろう。そして、Aについては、異議申立人の主張を故意に曲解し問題を反らして反論を行っている。申立人は、この開示に当たって、外務省に新たな文書の作成などを求めてはいない。原判決が不開示にしていない、元々の文書の標題や文書名等まで墨を塗るなといっているのである。原判決は、基本的には、報償費の支出関係文書の内、「請求書」と「領収書」は不開示文書とし、支出決裁文書については、その中の不開示情報を限定して、それ以外の文書記載事項は開示せよと命じているのである。だから、その通りに開示を実施せよと求めているだけなのである。
以下に、この2点について反論を行う。
第1 外務省の「判決の趣旨に従った開示をしている」との主張の誤りについて
1 原判決の主文
原判決は、主文において、その「3」では、次のように判決している。
「3 控訴人が被控訴人に対し、平成13年6月1日付けでした、外務省在外公館である在米大使館において平成12年2月及び3月に支出された「報償費」に関する支出証拠、計算証明に関する計算書等一切(別表の「部署」欄に「在米大」の記載のある文書300件。ただし、次の(1)ないし(4)の部分を除く。)についての不開示決定(括弧内省略)を取り消す。
(1) 省略
(2)別表の「使用目的」欄に「A2」、「B2」、「C2」のいずれかの記載があり、かつ、「類型」欄に「直接」の記載のある文書
そのうち、「書面名」欄において、「請求書」及び「領収書」とされる書面並びに同書面以外の書面の「文書作成者」、「決裁者名」、「支払予定先」、「支払先」、「目的・内容」、「支払方法」、「取扱者名」の記録部分」
となっている。
この判決主文は、「直接接触」の開示命令の基本形となっており、他の在外公館の直接接触の文書の例でも同様の開示命令となっている。
2 原判決主文の命令内容
(1)原判決の命令内容
上記の主文から明らかなように、「請求書」と「領収書」は文書そのものが不開示とされており、判決が開示を命じている文書は、基本的に「支出決裁文書」を想定していることは明らかであるが、その想定された文書の中で、「文書作成者」など7項目の「記録部分」だけに限定して不開示としているのである。くどく言う必要はないと思われるが、主文は、外務大臣が、平成13年6月1日付けで異議申立人に行った報償費の全面不開示処分は取消すとしている。ただし、「直接接触」に係る支出決裁文書や会計文書等については、「請求書」と「領収書」は全面的に除き、その他の文書については、「文書作成者」などの7項目の「記録部分」(手書きされた部分を意味する)を除く、としているのである。そこで、外務大臣は、原判決が不開示とした部分を除いて、その余の文書については、すべてを、加工せずに、記載事項をそのまま開示する義務があるのである。
したがって、申立人が開示請求している文書は、一定時期の在米大使館等の報償費の支出関係文書であるから、それに該当する「支出決裁文書」が文書として開示され、その中で、先の限定された「7項目の記録部分」だけを不開示とした文書開示が行われることが命じられているのである。原判決が、7項目の不開示事項について、特に「記録部分」と記載しているのは、たとえば、「文書作成者」の欄に、「文書作成者」の記名がなされているであろうが、この部分を不開示にしてよいと言っているのであって、「文書作成者」の欄全体を墨塗りにしてよいというのではない。その欄に書き込まれた作成者の氏名のみを墨塗りなどで不開示にすることを想定しているのである(「想定」だけでなく「命令」なのであるが)。この部分の解釈に二義はないはずである。
(2)処分庁の許されない行為
以上のところから、「文書作成者」の欄があるか無いかも分からないようにして、その部分を含めて全面を真っ黒に塗りつぶすことは、原判決が想定するところではなく、そうした全面墨塗り開示は、原判決の命令に反するものである。原判決の命令は、報償費についての一定の支出状況は開示されるべきとの判断から命令が下されているのであるから、開示された文書の標題は、標題が付いている限り、そのまま開示されるべきが当然である。黒い紙に、ただ日付や金額だけが、牢獄の窓のように開いていればよい、というものではないことは言うまでもないことである。
総じて言えば、例えば、「支出決裁文書」において、上記の7項目についての、手書きなどで記入されている人物の名前やレストランその他の面談・会食等の場所の名前、会合の目的等だけを不開示とする措置だけが許されるのであり、その余の記載や情報をマスキングすることは許されないのである。これが原判決の主文における命令内容である。
3 外務省の開示状況、開示内容
では外務省の、895件あるとされている「直接接触」に係る文書の開示状況はどうであったか。末尾に、「添付文書その1」として、異議申立人が開示を受けた文書の2枚を添付した。このように、「日付欄と日付」、「金額欄と金額」だけしか開示されていない。そのほかは、用紙全面が墨塗りされており、どのような文書であるのかも、開示された文書からは、何も分からない文書であったのである。
4 外務省は「判決主文」を良く読むべきである―主文から脱漏した勝手な解釈
(1)外務省の主張の要旨
外務省は、「理由説明書」において、今回の開示について、次のように弁明している。
「異議申立人は、「標題」や「文書名」についても開示すべきと主張するが、裁判において審理の対象となったのは、別表におけるそれぞれの「外形的事実等」、すなわち、これら「標題」や「文書名」と具体的な記載部分が一体となった情報の単位であり、そもそも、「標題」や文書名については、これらが単独で裁判の審理対象とはみなされていない。このことは、判決文中に、「外形的事実等も事項ごとに有意性が認められるものである」(判決63頁)と記されていることからも明らかであり、以上を鑑みれば、「標題」等のみを以て「有意な情報」とする異議申立人の主張は、明らかに失当である」としている(「理由説明書」4頁)。
(2)外務大臣は、判決の命令に従って、「不開示部分」以外は、そのまま開示すべきなのである
外務省は、申立人の主張を正しく理解していない。申立人は、「標題」や「文書名」を開示すべきと主張したが、それは、それ自体を開示すべきとするよりも、外務省がこれを不開示情報扱いすることが許されない、原判決はこれを不開示情報だとしていないのだから、これに積極的に墨塗りをすることは許されないと主張しているのである。
そして、このことは別の角度からも指摘できる。即ち、報償費が支出された日付や金額は開示するべきなのであるから、その情報と一体となっている「標題」や「文書名」の秘匿は許されないということでもある。外務省は、この度の「理由説明書」では、むしろ、「標題」や「文書名」は、「外形的事実」と一体となって意味を持っているとの主張を行っているところである(前記引用部分)。そうであれば、開示される「日付や金額」の情報と一体として開示されるべきなのである。外務省の言い分だと、「標題」や「文書名」は、「文書作成者」とか「目的・内容」などの情報とセットで開示される場合だけに開示されるべきだということになるが、そのような馬鹿げた解釈が成り立つはずはない。
そして、「2 原判決主文の命令内容」の項で述べたように、不開示にしてよい情報は、原判決が主文で明示した7項目の手書きされた「記録部分」だけなのであり、それ以外の事項については、墨塗りをしてはいけないのである。
外務省は、「理由説明書」の「3の(1)」での主張では、原判決の主文の命ずる意味について、何の議論も展開していない。外務省は、審理の対象の議論から始めるのではなく、まず、「主文」の意味の理解にまじめに取り組み、主文が自己に命じている義務内容をかみしめることから始めるべきなのである。
5 「間接接触」についての開示状況
(1)末尾に「添付文書その2」として、この度外務省から開示を受けた「間接接触」の開示文書を1件(2枚)添付した。見て分かるとおり、原判決が不開示とした部分だけに墨塗りを施して、その他は、すべて原文書のまま開示されている。例えば、会合の場所や支払先は不開示となっているが、その情報が記載されている欄、すなわち、「場所」とか「支払先」という印刷文字が、そのまま開示されている。「標題」も「設宴決裁書」とそのまま残されている。こうした開示が通常の社会通念に従い、かつ、情報公開法5条に従った開示方法であり、また、この度の判決の趣旨に沿った開示である。外務省は、「間接接触」については、こうした開示を行いながら、「直接接触」では、どうして全面の墨塗りとなるのか釈明を求める。「間接接触」では、「標題」自体を対象として、裁判所で開示・不開示の審理をしたというのか。そのような馬鹿げた審理をするはずはない。
(2)要するに、外務省の前記、「直接接触」の情報開示に関しての主張(「理由説明書」の「3」の主張)は、法解釈としてもデタラメであり、かつ自己の他の処分とも整合しないその場限りの言い抜けにしか過ぎないものである。こうした自身の矛盾にも気が付かないのは、問題点を理解する能力が欠けているのか、綱紀の緩みであるのかはわからないが、ともかく、この度の開示処分は、外務省が敗訴判決の執行を受けているとの認識が全く欠落してからである。
第2 「開示文書を説明する新たな行政文書の作成義務はない」との主張の誤りについて
1 外務省の反論の要旨
外務省は、「異議申立人は、文書の一体性や独立性の判断がつき、また、墨塗り開示された文書の各頁が判決別表のどの通番に該当するかがわかるよう、行政文書を新たに作成するまたは既存の文書を加工することを求めていると思われるが、情報公開法上、開示請求権は、開示請求時点で行政機関が保有している文書をあるがままの形で開示することを求める権利であり、行政庁が新たに行政文書を作成・加工する義務はない。」と反論している。
2 申立人は、原判決の命令に従った開示を求めているだけである
申立人は、外務省に対して、新たな行政文書の作成などを要求していない。これまでに述べたように、外務省が実施したこの度の開示処分では、「直接接触」に係る文書では、基本的に全面墨塗りで、「日付欄と日付」、「金額欄と金額」、それに起案日等だけについて、闇の中で窓を開けるようにして開示をしてきた。こうした開示状況では、開示された文書がどのような文書であるのかも判明しない。このような開示処分は原判決の主文の命令にも反するし、原判決の命令に従った開示処分が為されれば、これらの問題はほぼ解決がなされる。このような状況であるから、原判決の命令のとおりに開示をせよと主張しているのである。要するに、申立人の、本件外務省の開示処分の違法性に関する主張は、「第1」で述べたとおりである。申立人の主張のように開示がなされるならば、新たな行政文書の必要などは起こることもないのである。
添 付 資 料 (省略 09年11月12日に掲載の開示文書例を参照)
1 「添付資料その1」2枚 「直接接触」の開示文書の開示状況を示す
2 「添付資料その2」2枚 「間接接触」の開示文書で開示状況を示す