2010年5月13日


「行政透明化検討チーム」の「情報公開制度の改正の方向性について」(枝野試案)

枝野行政刷新担当大臣「行政透明化検討チーム」御中

特定非営利活動法人

情報公開市民センター 

理事長  高 橋 利 明

     (弁護士)


情報公開制度見直しに関する意見書

はじめに―不足はあるが、基本的には全面賛成である

 当情報公開市民センターの創立は、情報公開法が施行となった2001年4月のことである。その後の活動は、同法の施行とともに歩んできたことになるが、当市民センターの活動範囲は決して広範なものではない。創立当初始めた、中央省庁の情報開示度ランキングにおいて、報償費(機密費)の不開示で外務省が最悪であったことなどから、外務省への開示請求が続くことになり、外務省の会計支出の決裁項目の過半について、公開請求を行い、不当な不開示があれば異議申立や不開示処分の取消訴訟などを提出するようになった。それが、なお今日まで縁が切れない。当市民センターが平成14年月12日に異議申立を行った案件などが、未だに未処理のまま放置されている。総務省の調べでも、最も古い情報公開審査会未諮問放置案件とされている。

 報償費の支出決裁文書の不開示処分については、01年6月に提訴した取消訴訟(平成13年(行ウ)第150号)が中心となっている。田中真紀子外務大臣当時のことである。一審の東京地裁判決では、大門裁判長の下で全面勝訴の判決。控訴審の東京高裁(平成18年(行コ第99号))では開示度は大幅に後退したが、多くの文書の部分開示が命じられた。在外公館での議員接待の支出決裁文書などは、ほぼ全面開示であった(以下の「意見」の中で、「不開示処分取消訴訟」とか「訴訟」というときには、この不開示処分取消訴訟のことを指します)。

 こうした中で、現行の情報公開制度の問題点をいろいろ体験させられた。2005年の「情報公開法の制度運営に関する検討会」に対しても、当市民センターの経験した事例にもとづいた「情報公開法改正を求める意見書」を提出した。しかし、制度そのものの見直しには至らなかった。

 今回の「行政透明化検討チーム」の「情報公開制度の改正の方向性について」(枝野試案)に基づいて法改正がなされるとすれば、法案準備から法制定とその後の運用という約10年の中で議論されてきた大きな問題点については一応の対応がなされたものとなる。情報公開制度の一つのスタンダードな姿としてはかなりの前進が認められる。枝野試案には基本的に賛意を表する。

しかし、挙げられていない部分には、まだ大きな問題点がある。法5条3号、4号で、「行政機関の長の裁量判断」を削除するとの提案は大賛成であるが、いまだ、「……おそれがある情報」という抽象的な規定が残されることになっている。今回の改正を早期に実現したいが、法5条各号の「不開示事由」の規定には問題点が存在し、これを限定する条項への改変が求められる。特に、5号の不開示事由の規定には問題がある。専門家による審議や見解の表明に当たって、いまだに氏名を伏せた議事録を公表している省庁がある。

このように問題点のすべてが解消されるものではないが、情報公開制度発足の時点でこれが実現していれば、外務省報償費の開示についても、東京高裁判決よりも、もっと大幅な開示を勝ち取ることができたことは確かであろう。こうした体験を踏まえて、枝野試案を支持する見解を述べることとする。

 まず、順次、枝野試案を挙げて、以下に当市民センターの賛否の意見を述べ、主要な事項について、前記不開示処分取消訴訟における外務省との攻防に基づいて意見を述べることとする。

そして、最後に「付帯意見」を付した。この付帯意見は、住民が、この情報公開制度で入手した情報を活用して、「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」ための最終工程として、住民や国民に納税者訴訟を創設し、そして、行政訴訟を真に機能させるために、最高裁判事の任命方式の検討を求めるものである。「行政透明化検討チーム」であれば、こうした問題点も究極のテーマとして取り組んでもらいたい。

 


   情報公開制度の改正の方向性について

国民の知る権利を保障し、より充実した国民参加を目指すため、行政機関の保有する情報の公開に関する法律をはじめとする情報公開制度を、以下の方向で見直すことを検討すべきではないか。

第1 目的の改正(行政機関情報公開法第1条、独立行政法人等情報公開法第1条、公文書管理法第1条関係)

法律の目的において、「国民の知る権利」の保障の観点を明示するべきではないか。

意見 賛成である。

理由

当情報公開市民センターが原告となった外務大臣に対する報償費(機密費)の不開示処分取消訴訟において、当市民センターは、情報公開制度は「国民の知る権利」に由来するものであるとの主張を行ったところ、外務省は、訴訟第1審の第1準備書面において、「説明責任、又は民主主義ないし国民主権という理念によって、直接に法的な基準が導き出せるものではない」などとし、さらに、「情報公開法は、行政機関が保有する情報に対する国民の開示請求権としての「知る権利」を目的規定に掲げていないのである(以上につき、宇賀克也・情報公開法の逐条解説[第2版]16,17ページ)」などと主張し、それに沿う最高裁判例等を挙げて激しく争い、「いわゆる『知る権利』の趣旨、目的等からいきなり解釈基準を導き出したり、それらに沿うように情報公開請求権の範囲等を決したりすべきではない。」(8〜9頁、10頁)と反論した。

形式的な論理としては、これを全く否定することは出来にくいが、こうした主張の内実では、表向きの説明とは全く違う使用実態があった。外務省は、「公にしない外交工作や情報収集の経費」であると言いながら、公のレセプションの開催経費、国会議員に対する在外公館での接待費、在外公館員と外務省からの出張職員との会食の経費などまで報償費(機密費)で賄っていたのである。

関係判例等も存在するので、疑義のないような明確な規定で「国民の知る権利」を規定し、情報開示の原則を示して、これを解釈指針とできるような規定を創設されることを強く望む。


第2 開示・不開示の範囲等に関する改正

開示請求が行われた際に、不開示又は部分開示になる場合について、現行の情報公開制度を以下のとおり改正し、より充実した開示内容になるようにすべきではないか。

1 個人に関する情報(行政機関情報公開法第5条第1号、独立行政法人等情報公開法第5条第1号関係)

公務員等の職務の遂行に係る情報について、当該公務員等の職及び職務遂行の内容に加えて、当該公務員の氏名も原則として公開する。

意見 賛成である。

理由

現行規定は法制定時から反対があった。公務員の氏名を不開示とする理由はない。


2 法人等に関する情報(行政機関情報公開法第5条第2号、独立行政法人等情報公開法第5条第2号関係)

法人等が行政機関・独立行政法人等の要請を受けて公にしないとの条件で任意に提供した情報を不開示情報とする旨の規定を削除する。

意見 賛成である。


3 国の安全、公共の安全等に関する情報(行政機関情報公開法第5条第3号・第4号関係)

公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ等がある情報の不開示要件について、それらの「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」とあるのを、それらの「おそれがある情報」と改める。

意見 賛成である。

理由

(行政庁の対応―裁判所より大臣の判断が優先と主張)

 「行政機関の長の裁量判断」を尊重する趣旨の規定の挿入には、情報公開法制定の準備段階から強い反対があった。果たして、法の施行の中で、この規定が大きな障害となった。この規定の削除に大いに賛成である。しかし、今回の改正案には含まれていないが、「……おそれがある情報」という趣旨の規定は、抽象的であいまいであり、行政庁の恣意的な解釈を許すから、これを制限する規定に変更するべきである(このままでは、これが大きな欠陥となる)。

 外務省は、当市民センターとの不開示処分取消訴訟において、この条項を最大限に使って、最終段階まで情報の具体的説明を拒んできた。外務大臣は、次のような解釈論を展開し、機密費の開示を拒み続けた。

 「情報公開法5条3号に定める国の安全等に関する情報の判断については、行政庁に比較的広範な裁量権が付与されていると解すべきである。したがって、この判断については行政事件訴訟法30条が適用され、これに対する司法審査は、処分の存在を前提として、当該処分に社会通念上著しく妥当性を欠くなど裁量権を逸脱、濫用したと認められるかどうかを審査する方法によるべきである(最高裁昭和48年9月14日第2小法廷判決・民集27巻8号925ページ、小早川光郎・情報公開法その理念と構造100ページ)。裁判所が行政庁と同一の立場から当該処分に係る判断をし、その結果と行政庁の処分とを比較して、処分の適否を審査する実体的判断代置方式を採ることは許されないというべきである。」(外務大臣準備書面(1)25頁)

と主張した。

(目も耳もふさがれて、立証責任は転換)

 外務大臣はこのように主張する一方、「外務省報償費」については全面不開示処分をなした上、5条3号の事由を抽象的に主張するだけであり、不開示情報について、ヴォーン・インデックス方式の説明も拒み、もとよりインカメラ方式の審査も拒んだ。

 こうした状況の中で、「行政機関の長の裁量判断」を認めると、いわゆる立証責任の転換となって、この種の情報の開示は絶望的となる。即ち、行政庁はつぎのような論理を展開する。

   「前述のとおり、法5条3号の要件判断については、行政機関の長に裁量権が付与されており、その適否に関する裁判所の審査は、行政庁の第一次的判断を尊重し、それが合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうかという観点からされるべきである。このような場合には、行政事件訴訟法30条が適用されるのであるから、上記の原則的な考え方とは異なり、裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったことを基礎づける事実については原告が主張立証責任を負担するというべきである。したがって、不開示決定が情報公開法5条3号に該当するとの理由によるものであることが明らかになった場合においては、原告が、被告の判断が裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったことを基礎づける事実を立証しなければならないというべきである。」(同27頁。外務大臣準備書面(3)6〜13頁で再述)

 文書の中身を、原告にはもとより裁判官にも見せないでおいて、行政庁の権限濫用を立証しろと言うのである。不可能を強いることは改めて指摘するまでもなかろう。だから、法5条3号、4号該当を理由に不開示となった文書の開示請求は、事実上、不可能となるのである。

 情報公開法の実効を期すため、この規定の削除を強く求めたい。そして、次の段階での検討事項なのかもしれないが、「……のおそれがある」という条項についても、これを限定する改正規定が必要である。


4 審議・検討等に関する情報(行政機関情報公開法第5条第5号、独立行政法人等情報公開法第5条第3号関係)

国等における審議・検討等に関する情報で、公にすることにより、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれのある情報を不開示情報とする旨の規定を削除する。

意見 賛成である。


5 部分開示(行政機関情報公開法第6条第1項、独立行政法人等情報公開法第6条第1項関係)

開示請求に係る文書に不開示情報が記録されているときは、不開示情報が記録されている部分とそれ以外の情報が記録されている部分を区分することが困難である場合を除き、当該不開示情報が記録されている部分を除いた部分につき開示しなければならないものとする。

意見 賛成である。

理由

 情報公開条例に関してであるが、平成13年3月27日最高裁判決(判例時報1749号25頁)が出されて以後、行政庁側は「情報の単位」などという用語を用いて、「情報は全体として一つ」であるから、一部に不開示情報が含まれているときは、全体を不開示とする主張が展開されたことがあった。外務省との報償費不開示取消訴訟では実害は発生しなかったが、外務大臣はながながと準備書面でこれを論じ、外務省報償費でもこの適用があるかのような主張を展開した場面もあった。

 国民にとって、行政から発せられる情報の有用性は、当該文書に載せられている文章や文節が国語的に完結しているか否かなどは二次的な問題である。片々たる情報からも行政の体質をかぎ取ることができるのであって、「独立した一体的な情報」などという括りを持ち出すことは、およそ情報の価値を知らないか、なるべく情報を出さないようにしようと考える人たちのやることである。この「独立した一体的な情報」を細分化したとして、誰が迷惑をし、誰が損害を被るというのか。

 枝野試案でも、「不開示情報が記録されている部分とそれ以外の情報が記録されている部分を区分することが困難である場合を除き」としているが、「困難である場合」というのは、そう想定できないのではないか。ともかく、馬鹿げた最高裁判決の影響を消去できるような明確な条項を設けてほしい。

先の最高裁判決は現実離れしていた。だから、そう実害は多くは広がらなかったと思われるが、そうしたこじつけの不開示処分を許さないために、6条1項のより明確化した規定を設けることを望む。


第3 開示請求から実施までの手続きに関する改正

迅速かつ安価な開示手続が実現できるようにするため、手続面での改正をすべきではないか。また、不開示や部分開示となった場合にも、その理由がより明確になるような改正をすべきではないか。具体的には以下のとおり。

1 不開示決定の通知内容(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係≪新設≫)

行政機関の長・独立行政法人等は、不開示決定をするときは、当該決定の根拠となる条項及び当該条項に該当すると判断した具体的理由を書面により示さなくてはならないものとする。

意見 賛成である。

理由

(不開示決定には具体的な理由の記載はない)

 外務省の報償費支出決裁文書の不開示決定通知書では、法5条3号該当の説明について、「経費の使途に関する情報であって、公にすることにより関係国等との信頼関係が損なわれるおそれ、関係国等との交渉上不利益を被るおそれがあるため。」としか書かれていなかった。これでは請求者には、不開示の実質理由は何も伝わらない。そして、こうした極めて不誠実な通知の裏側で、外務省報償費は、会計検査院や情報公開審査会から指摘されるような不適切な支出を繰り返していたのである。条文だけを連ねて不開示事由の説明とするのでは、説明責任を果たしたことにはならない。今、不開示決定通知を見返しても、「具体的な理由」の記載は見られない。

(外務大臣の説明、二転三転)

 外務省報償費訴訟では、外務大臣は、報償費の定義的な説明を二転三転させた。だから、不開示事由も当然変わってくる。こうしたことがないように、是非、この改正を望みたい。

外務大臣は、「外務省報償費」について、@当初は、「その都度の判断で機動的に使用する経費であり、外務省では、情報収集及び諸外国との外交交渉ないし外交関係を有利に展開するために使用する経費」(外務大臣答弁書。要旨)としていたが、この「機動的に」が使用実態とは全く合わない事実が出てくると、A「公にしないことを前提とした外交活動の経費」(同準備書面(8)5頁以下。16頁)と変更した。しかし、「五類型」の経費とか、海外を訪問した国会議員に対する会食の経費が明らかになり、身内の職員の会食費用の支出の疑いが隠しきれなくなると、東京高裁においては、B「直接接触に係る文書」と「間接接触に係る文書」という説明に切り替えてきた(高裁・外務大臣準備書面(3)11頁以下)。「直接接触」というのは、任地での外国人等に対する直接の働きかけをいうのである。報償費の支出について、A級とB級があるいう主張を展開し、自らトカゲの尻尾切りを演じたのである。このように外務省は、追い詰められて、報償費の使途を段々絞り込まざるを得なかったのである。これでもなお外務省は正直には事実を説明していない。しかし、はじめから、この程度の事実でも明らかにしていれば、裁判はもっと短くて済んだであろう。特に、外務省の対応は卑怯・卑劣と言わざるを得ないが、どこの省庁でも、厳しく対応しないと、秘密の懐を深くする対応をする。以上のような事案を、充分に参考にしてほしい。

(どう書かせるのか「具体的理由」)

 法5条各号の不開示事由については、行政庁側に主張立証責任が存在することは、行政庁側(外務省)も認めるところであるが、「不開示決定通知書」にも実質の理由は記載しないし、特に、法5条3号などが問題となる事例では、上述のとおり、訴訟になっても実質の説明や答弁を行わないのである。それゆえ、不開示とすべき事由の存在についての挙証責任を実質的に果たさせるためにも、「決定通知書」に不開示事由が通常の常識で分かるように記載させることを求める。しかし、実務では、なかなか難しい側面も出てくるのではないか。要は、行政側が、闇雲に隠そうとするのか、できるだけ出そうとするのかの姿勢の違いの問題であると思われるが、「具体的理由」を、どう具体的に書かせるか、難しい問題ではあると思われる。


2 内閣総理大臣への報告と内閣総理大臣による措置要求(行政機関情報公開法関係≪新設≫)

(1)行政機関の長が、開示請求に係る行政文書の全部を開示しない旨の決定をしたときは、内閣総理大臣に対し、その旨を報告するものとする。

(2)内閣総理大臣は、特に必要があると認めるときは、行政機関の長に対して不開示決定の取消その他の必要な措置をとるようにもとめることができるものとする。

意見 一応賛成である。

理由

  「全面不開示」については、行政機関の内部で慎重に検討して結論を出すという配慮がなされたことは評価できるが、こうした経過で「全面不開示」の決定がなされると、その後の不開示処分取消訴訟では、この結論が覆る可能性は極めて小さくなる。現在でも、裁判所は中央省庁の処分を覆すことは極めて希であるが、それが総理大臣の判断となると、裁判で、これについて、どこまで真摯にその正当性を検証しようとするかを考えると、はじめから絶望的とも見える。こうした関係から、疑問を持ちながら「一応の賛成」という結論となった。


3 開示決定等の期限(行政機関情報公開法第10条第1項、独立行政法人等情報公開法第10条第1項関係)

開示決定等は、開示請求があった日から14日以内にしなければならないものとする。

意見 賛成である。

理由 地方自治体では、当初からそうなっている。これまで、国が特別扱いされていたのである。


4 開示決定等の期限の特例(行政機関情報公開法第11条、独立行政法人等情報公開法第11条関係)

開示決定等の期限の特例を適用する場合において、行政機関の長・独立行政法人等は、開示請求に係る行政文書のうち相当の部分につき開示決定等をした日から60日以内に残りの行政文書について開示決定等をしなければならないものとする。

意見 賛成である。

理由 

 当市民センターでは、外務省から、ごく一部の文書についてだけ開示を受け、大半の文書について何の決定もせず、1年も2年も店ざらしにされた例がある。これが、「……相当の部分につき当該期間内に開示決定等をし、残りの行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる。」という現行規定の運用の実態である。


5 みなし規定(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係≪新設≫)

開示請求者は、行政機関の長・独立行政法人等が法廷の期間内に開示決定等をしないときは、行政機関の長・独立行政法人等が当該行政文書について不開示決定をしたものとみなすことができるものとする。

意見 賛成である。


6 手数料(行政機関情報公開法第16条、独立行政法人等情報公開法第17条関係)

開示請求に係る手数料を原則として廃止するとともに、開示の実施に係る手数料を引き下げる。

意見 賛成である。

理由

開示請求手数料は無料にすべきである。もし、無料でないときは、開示請求の件数カウントの運用を見直し、関連文書は1ファイルとみなす措置をすべきである。

同一種類の文書であっても、所管部署・課が異なるごとに別件請求としてカウントする省庁が多い。1ファイルに編綴されていても、複数文書として認定され、請求手数料の負担が過大となっている。

開示実施に係る手数料は引き下げるべきである。また、政府の活動について知る公益を目的とする旨を請求者が申告した時は、その申告に疑問のないケースでは、開示手数料をさらに減免するよう改めるべきである。

各種の開示請求に際して、費用負担が過重なため、請求者は @請求対象期間を限定する、A複写の交付のかわりに閲覧のみに止めるなどの制約を強いられている。


第4 審査会への諮問等に関する改正(行政機関情報公開法第18条、独立行政法人等情報公開法第18条関係)

開示決定等について不服申立てがあった場合における情報公開・個人情報保護審査会に対する諮問は、当該不服申立てのあった日から14日以内にしなければならないものとしてはどうか。また、審査会を裁決機関とすることについて検討してはどうか。

意見 審査会に対する諮問の付議期限を14日内とすること。 賛成である。

理由

請求人から異議申立があった場合に、一定期間内(試案では14日以内)に審査会に付議することを明定することは必要である。当市民センターが異議申立を行った多くの事案で長期間放置されているものがある。冒頭の「はじめに」でも述べた平成14年4月提出の異議申立の他、既に6年も7年も放置されているものがある。これは処理の遅延などというものではなく拒絶というべきものである。

その一例であるが、当市民センターが外務省に情報公開請求した、平成11年度等の米国など5カ国大使館の飲食供応・便宜供与に関する会計文書の開示決定を2年延長され、そのうち報償費分を不開示処分とされたことに対して、平成16年2月10日に異議申立を行ったが、外務省はいまだに審査会に諮問を行わず、棚上げとしたままである。

当市民センターでは、これらの異議申立の諮問遅延について、訪問時とか、あるいは電話などで情報公開室の担当官に問い合わせても、常に、のらりくらりの返事で事務は進まない。こうした事態は、放置しておいても、行政庁には何の不利益も生じないために生ずるのである。是非、改善をしてほしいところである。


意見 審査会を裁決期間として検討すること。  何とも言えない(メンバーの人選次第)。

審査会が、これまで充分に機能してきたかは大いに疑問がある。審査会の法的性質論もあるとはいえ、見直しが機能するか否かはその選ばれるメンバー次第である。発足当初は、制度の看板になるような人物が選ばれたこともあったが、その後の長い実施期間中で、審査会の決定はお茶を濁す程度のものであったという感想を持っている。

 この改正で、裁決機関となれば、機能も変わるし、委員の選任権の所在も変わるであろうから、従前とは異なった審査会の運営が期待されはする。だから、もとより「審査会を裁決機関とすること」の検討には賛成である。


第5 情報公開訴訟に関する改正

訴訟による事後救済を確実に行うため、いわゆる「ヴォーン・インデックス」の作成・提出に関する手続(下記2)を創設するとともに、いわゆる「インカメラ審理」(下記3)を導入してはどうか。また、原告の訴訟にかかる負担に配慮し、各地の地方裁判所でも訴訟ができるようにしてはどうか。具体的には以下のとおり。

1 訴訟の管轄(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係≪新設))

開示決定等又はこれに係る不服申立てに対する裁決・決定に係る抗告訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)は、行政事件訴訟法第12条に定める裁判所のほか、原告の普通裁判権の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができるものとする。

意見 賛成である。

理由 

 現行制度は、請求者に大きな負担となっている。法の制定時から問題とされてきた。これを試案の方向で正すべきである。

2 不開示決定に係る行政文書の標目等を記載した書面の提出(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係≪新設)≫

情報公開訴訟においては、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため必要があると認めるときは、行政機関の長・独立行政法人等に対し、当該開示決定等に係る行政文書・法人文書の標目、その開示しない部分についてこれを特定するに足りる事項、その内容の要旨及びこれを開示しない理由その他必要な事項を、その裁判所の定める方式により分類又は整理して記載した文書の作成・提出を求めることができるものとする。

3 審理の特例(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係≪新設≫)

(1)情報公開訴訟においては、裁判所は、裁判官の全員一致により、審理の状況及び当事者の訴訟遂行の状況その他の事情を考慮して、不開示事由の有無等につき、当該行政文書・法人文書の提出を受けなければ公正な判断をすることができないと認めるときは、申立てにより、決定で、当該行政文書・法人文書を保有する行政機関の長・独立行政法人等に対し、当該行政文書・法人文書の提出を命ずることができるものとすること。この場合においては、何人も、裁判所に対し、提出された行政文書・法人文書の開示を求めることができないものとする。

(2)裁判所は、(1)の決定をするに当たっては、あらかじめ、当事者の意見を聴かなければならないものとする。

(3)裁判所は、(1)の決定をしたときは、同項の行政機関の長・独立行政法人等に対し、2の書面の作成・提出を求めなければならない。ただし、当該書面が既に提出されている場合は、この限りではないものとする。

意見 ヴォーン・インデックスおよびインカメラ方式の採用   賛成である。なお、ヴォーン・インデックス制度については、「……文書の作成・提出を求めることができる」ではなく、インカメラ方式に合わせて、「……文書の作成・提出を命ずることができる」が望ましい。

理由

(訴訟の進行経緯の説明)

 外務省の報償費の開示請求は、一定期間を区切ってその間に支出された報償費の支出決裁文書の開示を求めたものである。前例がないこともあって、1件ごとの請求した文書が複数存在するのか、付属文書が存在するのか、はたまた問題の文書が持つ情報が果たして外交上の機密性をもつものかについて、請求者は疑問を持ちながらも、決定的な傍証を持ってはいない。このような状況の中で、外務大臣は、「外務省報償費は、外交工作活動や情報収集活動に用いているのであるから、法5条3号の事由が存在する。これ以上の説明は行わない。」と主張したのである。

 一審の裁判所から再三、支出決裁文書の概要を説明するように求められて、文書の件数や記載項目だけを明らかにした。1070件ほどであった。しかし、それ以上の情報開示を拒んでいたが、その途次、会計検査院から「『五類型』については報償費から支出するのは適切でない。」との指摘がなされ(平成13年9月)、ついで、審査会からは、平成16年2月10日、会計検査院の勧告にそう範囲で、報償費の支出決裁文書を開示すべきとの答申が行われた(外務大臣準備書面(11)3頁)。このことから、外務省の厚い秘密の壁の一部の崩壊がはじまった。一方、外務省内では公務員の不祥事が、平成13年春以降相次いで発覚しており、外務省の秘密体質が腐敗の温床となっている事実が次々に暴かれていた。

こうした経緯の中で、一審の途中、「五類型」と呼ばれた、@公式レセプションに係る経費、A酒類購入経費、B在外公館長の赴任時の贈答品等の購入経費、C在外公館の壁に掲げる日本画の購入費、D在外公館を訪問した邦人への車両の借上経費、などの文書が開示されることになった。この「五類型」などは、外務省が公言してきた外務省報償費(機密費)の定義には、いかなる角度から見ても適合しないものであった。しかし、こうして開示されても、外務省は、訴訟の中では、「五類型」について、なお「本来的には不開示とすべきもの」と言い張った(外務大臣準備書面(14)55頁)。彼らには、人の持たない気位はあるのかもしれないが、常識とか反省という言葉は無縁の集団のように思えた。

(一審では全面勝訴の判決であったのだが)

一審判決では、こうした一連の事件が重なり、さらに、当市民センターが外務省から広汎に収集した資料の中に「在外公館交流諸費」という、お金の使用実態では報償費とほぼ同様となっている会計文書類があり、これが開示されている事実を立証できた経緯もあって、東京地裁では、法5条3号該当の不開示事由の立証がないとして、報償費の支出決裁文書の全面開示を命ずるという画期的な原告勝訴の判決となった。こうした不祥事や幸運な立証がなければ、全面勝訴などの判決は勝ち取れなかったであろう。それは、先にも述べたが、外務大臣は、「行政機関の長の裁量判断」を根拠にして、「その濫用の事実の主張立証責任は原告・請求者が負うべきもの」として、具体的事実については何の説明もせず、しかも、東京地裁大門裁判長のような決断ができる裁判官は稀有なことであるから、外務省の報償費には陽が当たることはなかったと思われる(東京高裁では、開示範囲は大幅に後退したが、外交工作や情報収集に直接係わらない経費はほぼ開示、直接係わった活動の経費とされた多数の文書についても、多くは金額と支出日の開示を命ずる判決)。

 野放図な秘密保持体制が腐敗を生むことは、改めて指摘するまでもないであろうが、これまでの情報公開法の実務では、行政庁が、公務の支障よりは、自身にとって都合の悪い情報は出さないというやり方が優先されていることは明らかである。

外務省だけではない。国土交通省にも恣意的な情報の隠蔽がはびこっている。地域住民や関係住民が、過大に設定されていると考える大河川の基本高水流量を検証しようとしても、肝心の情報、利根川に例をとれば、流域の分割図などを「業務に支障」とだけして、一切開示請求に応じないのである。

(ヴォーン・インデックス、インカメラ方式の必要性)

 前置きが長くなったが、こうした状況で、原告側では、開示請求している情報について、ヴォーン・インデックスを求め、また、裁判所だけによるインカメラを求めたが、外務大臣は応じなかった。最終的に、高裁において例示的に文書のインデックス的な情報開示はなされたが、インカメラについては、原告の申立に対して裁判所は却下した(却下は一審裁判所でなされた)。

 こうした原告の目を覆い、手足を縛った状況で、「行政機関の長の権限の濫用」を、どうして原告が立証できるというのか。この外務省報償費は、海外出張した外務省職員と在外公館の職員同士との会食費用にも使われていたが、外務大臣は、これを「海外での情報収集のための会食」と言い張って最後まで隠蔽し、この文書を「直接接触に係る文書」(「第3の1」の「理由」での説明を参照)の分類に閉じ込め、裁判所を騙して開示を免れてしまった。インカメラ方式が採用されたのなら、こうした馬鹿げた誤判は起こらないだろう。裁判官も自身の目で確かめれば、行政への配慮もそこまでは出来なくなるだろうと思われるからである。

 現在の日本の裁判官の保守主義からすれば、ヴォーン・インデックスやインカメラ制度が導入されたとしても、それだけで直ちに情報公開判例が一変するとまでは期待できないとしても、被告・行政庁の不当な隠蔽に対して大きな牽制となり、原告の主張が充実することは明らかである。そして、なによりも、今回の制度改正がなされれば、行政の透明性を求める価値観が社会に浸透し、行政の現場にも裁判官の世界にも徐々に浸透し、これまでのような「何でもかんでもの秘密主義」の壁が薄くなってゆくことが期待できると考えている。なお、これまでの不十分な情報公開制度でも、それがあるとないとでは、国民からの行政監視の力が、何倍もおそらく何十倍も大きくなったであろうことは、確信を持っていうことができる。

 情報公開制度のいっそうの充実のために、この制度の実現をぜひとも望む。


第6 適用対象の範囲等に関する改正

現行の情報公開制度の対象を、国民の知る権利を保障する観点から、以下のとおり拡充すべきではないか。

1 国会関係

衆参両院の事務局・法制局・国会図書館等の保有する立法行政事務に係る文書の公開の在り方について、行政機関情報公開法と同等の開示制度導入の検討を促す。

2 裁判所関係

最高裁判所事務総局等の保有する司法行政事務に係る文書の公開の在り方について、行政機関情報公開法と同等の開示制度導入の検討を促す。

3 政府周辺法人関係(独立行政法人等情報公開法第2条第1項・第22条関係)

国からの出資、国から交付される補助金等が年間収入に占める割合、業務内容の公共性等の観点から、「独立行政法人等」に含まれる対象法人を拡大する。また、情報の提供に関する施策をさらに充実させる。

意見 国会関係、裁判所関係、政府周辺法人について情報公開制度を拡充することについて。いずれも賛成である。


第7 行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の所管に関する改正(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法、内閣府設置法、総務省設置法関係)

行政機関情報公開法及び独立行政法人等情報公開法の所管を総務省から内閣府に移管してはどうか。

意見 賛成である

理由

 外務省所管文書ばかりではなく、防衛省や警察庁の文書もほとんど公開されない。公開できない性質の特殊な事務が多く存在することは理解しているが、庁内の不正や不都合を隠蔽する意図によるものとの疑いも拭いきれない。歴史的な行政文書の開示を含め、内閣総理大臣のリーダーシップの下で、法5条3号、4号の事由を厳格に絞り、行政の透明性を拡大する運用となることを切望する。この「第7」の改正事項は、「第3の2」の改正と連動しているものと理解されるが、この改正では、情報公開制度の今後の命運は、内閣総理大臣(実質は、官房長官?)の資質や価値観に大きく左右されることになるかもしれない。注視をしてゆきたい。


第8 情報公開条例の扱い(行政機関情報公開法≪新設≫)

第5の1から3は、情報公開条例(地方公共団体又は地方独立行政法人の保有する情報の公開を請求する住民等の権利について定める当該地方公共団体の条例をいう。)の規定による、開示決定等に相当する処分又はこれに係る不服申立てにおける裁決・決定に対する抗告訴訟に準用する等の措置を講じてはどうか。

意見 賛成である

 


情報公開市民センターの付帯意見

 

1 住民訴訟の代位訴訟の復活と納税者訴訟の創設を求める

 法1条の目的規定にあるように、地域住民たちが「……国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政に資する」ために、実効的な活動を行うには、情報の効果的な開示だけでは道半ばである。

 情報公開法制定に先駆けて、都道府県では情報公開条例が各地で制定され、住民たちはこれを駆使して、地方行政の官官接待やカラ出張、闇のプール金、不明朗な首長の交際費等を白日の下に曝した。そして、そうした当事者たちが自ら反省して弁償しないとなれば、地方自治体に損害を与えている者に対して訴訟を起こし、自分たちの住む自治体の損害の回復に努めてきた。

 地方自治法が2002年に改正されるまでは、今風に言えば、住民が違法行為を直接「仕分け」する権能を持っていたのである。これが機能して、地方自治体の透明性の向上と汚濁の浄化には少なからぬ効果があった。しかし、その効き目が大きくなりすぎて、恐れた首長たちの連合勢力によって地方自治法は改悪され、首長に直接代位して加害者に賠償請求する道は塞がれてしまった。

現在は、住民たちは、自治体に損害をかけている者を直接仕分けすることが出来なくなっている。新政権においては、地方自治法を再改正して、直接の代位請求訴訟を復活させてもらいたい。そして、中央省庁についてもこの住民訴訟のスタイルを認めて欲しい。いわゆる「納税者訴訟」の創設である。日常的に国民の仕分けの目が霞ヶ関に向かえば、時折の仕分け作業よりもその監視力と抑制力は何倍にもなるはずである。

国民は裁判員や検察審査会のメンバーとして重責を負わされ、これを果たしている。国の機構の一部の運営を担っていると言っても言い過ぎではない。そうであるのに、住民や国民は、どうして納税者訴訟という権能を取り上げられなければならないのか。新政権において、十分に検討してもらいたいものである。国民がそうした権能を持つことによって、今回の情報公開制度の最終目的はより効果的に達成されると思うのである。


2 真の司法改革のために、最高裁判事の任命方式を考えてもらいたい

 言い古されてきたことであり、言い尽くされてもきたことであるが、日本の行政訴訟は、ほとんど機能してこなかった。これが官僚天国を許してきた大きな要因の一つとなっている。

 日本の裁判官には、憲法の定める三権分立の下で、司法府が行政府に対して司法統制を働かせるという役割について、ほとんど認識とか気概を持ち合わせていない。彼らは、どうしたら、地域住民や国民の訴えを門前払いできるかと常に考えている。われわれには、裁判官は、6尺棒を構えて奉行所の門前立つ門番とも映る。

 行政訴訟の中でも、情報公開訴訟の勝訴率はいくらか高いから機能している方であるがその分母たる通常の行政訴訟は惨憺たる有様である。枝野大臣は充分にこの実情をご承知であろう。長い間の司法改革は、弁護士の増員と最高裁の仕事減らしだけに終わっている。裁判所の中央行政をかばう保守主義は根っから身にしみたもので変化を期待しようもない。被告席に立つ行政側は、よもや裁判所が自分たちを負かすはずがないと考えている。法廷の彼らには緊張感はさらさらない。裁判所は、いつも行政の保護者でていねいにカバーする。われわれの目から見ると、裁判官はキャッチャーの後ろにいるもう一人の敵方チームの野手でもある。

 こうした裁判の実情から生じている裁判所と中央省庁との癒着と精神的腐敗体質は、裁判所の内部からの改革を待っては百年河清を待つことになる。新政権においては、望ましい裁判官像を廣く議論したうえで、最高裁判事の任命に当たっては複数の候補者に国会で意見表明をさせるなどの任命制度を検討して欲しい。現憲法の枠内でも可能なはずである。今後、十年の計で、裁判所改革の道筋も付けてほしい。

近時、改正が期待される情報公開法も、こうした真の司法改革の下で大きく花が開くことを期待している。