2004年11月30日
中央省庁タクシー・ハイヤー代管理体制の問題点とランキング

 NPO法人情報公開市民センターは、中央省庁のタクシー・ハイヤー(タクシーと略称。以下同じ)使用の管理体制を情報公開請求によって調査し、評価とランキングを行った。
1.調査の趣旨と概要
 タクシー代は、省庁の業務を行うために恒常的に支出される経費の中でも、会議費や旅費などと同様に、適正に管理しなければ安易に無駄づかいされやすい。
 またタクシー代を業者に水増し請求させたり、不正経理で作った裏金や外郭団体等から裏で受け取った利用券で私的にタクシーを利用したりすることが、広く行われていると考えられる。以下に発覚した事例を紹介する。
1. 各県の労働局 不正経理による裏金(04年8月〜)
厚生労働省労働局が、作った裏金をタクシー代・懇親会代などにあてていた。裏金の額は兵庫労働局で2億円以上、広島労働局で1.7億円。不正にかかわった職員を処分。会計検査院は全国の労働局を検査する方針。
2. 道警報償費不正 裏金の使途(04年2月11日 各紙)
元北海道警釧路方面本部長で、旭川中央署長も務めた原田宏二氏が10日、札幌市内で記者会見し、在職していた95年まで、捜査費や報償費を組織的に裏金としてプールし、署長交際費、異動時の餞別、部内の懇親会費、冠婚葬祭費、タクシーチケットなどに使っていたと明らかにした。
3. 静岡県警の不正経理問題(04年4月16日 各紙)
県警は県警総務課の95年度分の経理に関する調査結果を報告。カラ出張などで捻出した約940万円の裏金のうち、使途が裏付けられなかったとして返還対象となったのは、本部長激励費、同慶弔費、同公舎修繕代、タクシー代、総務課慰労会費など計約316万円。総務課については96−03年度の旅費、食糧費を5月末までに調査し、他の県警本部各課と全署についても、年内をめどに旅費、食糧費、捜査費、捜査報償費を調査する方針。
4. 外務省 九州・沖縄サミット ハイヤー代水増し請求詐欺事件(01年8月)
小林裕武参事官、大隈事務官が水増し請求詐欺で8月6日に起訴、懲戒免職。またこの裏金から多額のタクシー・クーポン券、ハイウェイカードを配布し、受領した職員多数が処分された。
5. 大阪府全庁の支出書類を開示請求 タクシー代のほとんどは不正請求か?
(大阪の市民オンブズマン「見張り番」会報60号 98年4月23日)
97年暮に大阪府が内部調査結果を発表。長年の慣例で全部署で裏金をプールしていた。見張り番は支出書類を情報公開請求。タクシー代は目的・利用者などの記載がなく、半券は廃棄され、明細書は自製のもので、ほとんどが不正支出と思われる。
6. 高知県 公務と無関係にタクシー券を支給(高知地裁 97年11月28日)
住民の請求により県職員がタクシー代13万円を県に返還。和解調書上も「不適切な支出」と確認。
7. 宮城県 財政課、秘書課でもタクシー代支払文書の一部を書換え。
(仙台市民オンブズマン 96年6月22日 新聞報道)
94年のタクシー代の支払文書の一部を書き換え、毎回の金額を同一にするなどして、使用実態と異なる記載をしていたことが、情報公開請求で分かった。
 情報公開市民センターは、主要15省庁のタクシー代の管理体制と支出額の実際を調査することとし、本省の2003年度一般会計予算分について次の事項の情報公開請求を行った。
(1) 年度予算の策定・要求に際して、どのような根拠にもとづき算出しているか
(2) タクシー使用について、目的・時間帯など具体的な基準の規程が定められ、それを遵守する体制がとられ、個別の使用状況を使用簿によって把握しているか
(3) 局課別に使用実績の把握・集計を行い、予算・実績対比の管理を行っているか
2.タクシー代の支出額と使用目的
 各省庁にタクシー代の月別局課別支出額集計表を請求したが、不存在として開示されなかったのが、内閣官房・内閣府・総務省・法務省・外務省・国土交通省・警察庁・会計検査院の8省庁にのぼった。環境省と防衛庁は年度の集計表がなく、月別の業者別・局課別明細が開示された。年度分の集計表が開示されたのは5省庁だけであった。
 集計が開示されなかった省庁の支出額を知るためには、タクシー業者からの請求書に対応して省庁が作成する支出決定決議書のすべてから集計するか、または諸々の経費が混然と記載されている「庁費」の支出決定簿(=一覧表)からタクシー代の支出を拾い出して集計をしなければならない。これらの文書は枚数が多く、開示手数料も計算の手間も膨大になるため、一部の省庁については1〜4か月分を入手して、その集計結果から年間の支出額を推計した。
(1)他に抜きんでる支出額の国土交通省
 15省庁の本省一般会計分の支出総額は、60億円前後であると推計される。
 最も多額に支出しているのは国土交通省で、第4四半期の3か月の合計が3億5千2百万円である。年額では12億円を超えると推定される。次いで厚生労働省が年額7億2百万円、文部科学省が6億3千3百万円、内閣府が5億3千万円(推定)、農水省が4億9千7百万円を支出している。
 外務省の支出額は開示されず、04年1月分を当センターが集計し3千7百万円であった。年額を4億6千万円と推計した。外務省の使用要領は97年度(平成9年度)に作成されたものであるが、その中に
 「深夜タクシーおよびタクシー乗車券の使用料金が、平成8年度には298,800千円および70,764千円もの多額に達し、平成9年度においても4月分28,022千円および5,757千円、5月分30,262千円および6,004千円、6月分27,386千円および6,427千円にも達する増加傾向にあり、予算執行を強く圧迫している」
 という記述があるのが注目に値する。
 支出額が少ない省庁は会計検査院で年額1千5百万円、法務省が7千万円(推定)であった。
(2)使用の大半が深夜帰宅用
 タクシーの使用目的は、その大半が時間外業務後の帰宅のためであることが、各省庁の使用規程*に記された規程作成の趣旨、および10省庁から開示された使用簿*の記載内容から見て取ることができた。深夜におよぶ業務が恒常化しないような執務体制の改革が必要であろう。(*使用規程および使用簿の名称は省庁によって異なる)
3.中央省庁のタクシー代管理の問題点
(1)有名無実の予算制度
 年度予算要求にあたって、各省庁は国会審議用に歳出予算説明参考書(資料)を作成している。タクシー代を予算計上している省庁は、自動車借料(または借上料)として算出している。
 タクシー代は今回の開示請求によって判明したように高額で主要な費目である。たとえば財務省では一般事務処理費(00および01年度 8億円)のうち、自動車借上料は58.7%を占めている。
 ところがタクシー代予算を不存在としたところが、外務省・経済産業省・国土交通省・環境省・防衛庁・警察庁の6省庁ある。これらの省庁は自動車借料を他の経費と一括して、各種の借料または庁費の中に含めているのかもしれない。しかしタクシー代は独立項目として、予算を作成し執行すべき費目であろう。
 予算を作成している9省庁のうち7省庁で、予算を大幅に上回る額を支出しており、いずれも予算の1.5倍を超えている。なかでも厚生労働省は予算7千767万円に対して支出額はその9倍、文部科学省は予算1千695万円に対して37倍である。いくつかの省庁にこの点を質したところ、「予算は前年度比増額が認められないので、または人頭経費として決められているので、不足額は各局施策の事務経費・庁費の中からあてている」旨の回答であった。
 国会で決められた予算に従って費目ごと、部局・事業ごとに予算の範囲で執行するという予算統制・予算管理が行われておらず、予算対実績の差異を分析して是正するという体制がなく、また支出が予算を大幅に超過しても、それが決算として通用するという、予算制度が有名無実になっている実態が明らかになった。さらに諸々の施策の予算には、実は大幅な水増しが仕込まれているということも明らかになったといえる。
(2)使用規程と個別使用の把握が不十分
 使用規程を持っていない、あるいは不文律しかないのが法務省・厚生労働省・国土交通省・防衛庁の4省庁である。使用規程を持っていても概略の規定しか定めていない省庁が6省庁ある。タクシーが目的に従って適正に、節約を旨として使用され、安易に乱用されないように、また裏金作りに利用されないようにするには、詳細な規程と使用簿による管理が不可欠である。
 使用簿は、単に記録として作成・保管するのでなく、的確に活用すれば不適正な使用を牽制・防止するのに役立つであろう。使用簿による個別使用の把握・記録がなされていない省庁は、総務省・法務省・財務省・外務省・経済産業省・国土交通省の6省庁である。外務省は使用簿を開示請求したのに対して、使用要領に規定された使用届を、霞が関・永田町地域の用務での使用分についてだけ開示した。存在するはずの深夜タクシーの使用届は秘匿したのであろうか。それとも深夜タクシーは規定に反して届を提出せずに使用しているのであろうか。
(3)支出額集計をしない省庁が多い
 支出額を月別・局課別に集計して年度の集計表を作成しているのは5省庁にとどまっている。これを作成していないのは前述のように、月毎の集計のみを行っている環境省と防衛庁、まったく作成していない内閣官房・内閣府・総務省・法務省・外務省・国土交通省・警察庁・会計検査院の10省庁である。
 多くの省庁がタクシー業者からの請求に対する支払手続きをするだけで、タクシー代の支出実績の集計把握をしないとはどういうことであろうか。考えられないことである。
4.省庁別の評価項目と評価の基準
(1)予算の作成
 タクシー代予算を自動車借料(または借上料)として、部局や事業目的ごとに算出している省庁は満点とし、省庁一本だけで算出しているところは減点した。
 タクシー代は高額にのぼる主要な費目であり、独立の予算項目として算出しない省庁は0点とした。
 なお、予算作成のための方針・要綱類を開示請求したが、タクシー代に関してのものがあるとする省庁はなかった。この文書の有無は評価の対象に含めないことにした。
(2)使用の基準を定めた規程
 タクシー使用の基準を詳細・具体的に規定し、かつ個別の使用を事前と直後に使用簿を用いて記録・管理することを定めた使用規程がある省庁は満点とした。詳細な規程はあるが使用簿を定めていない省庁、概略の規程しか定めていない省庁は減点し、規程を定めていない省庁は0点とした。
(3)使用簿による個別使用の把握
 使用者・時刻・乗車区間・金額を使用簿によって把握・管理している省庁は満点とした。これらの項目の記載の程度に従って減点し、また使用の前および直後の記入ではなく、後日に整理して作成した使用簿と見られるものについても減点した。使用簿を用いていない省庁は0点とした。
(4)月別・局課別支出額の集計表
 月別・局課別の支出額集計表を開示した省庁は満点とした。月別に集計しているが年度の集計をしていない省庁は減点した。この文書を不存在とした省庁は0点とした。
(5)予算と実績の整合
 年度支出実績が予算と対応している省庁は満点とし、超過が2倍までの省庁は減点、2倍以上は0点とした。予算を作成していない省庁も0点とした。
5.省庁ランキング
 総点を100点として次のように配分し、前項の評価基準に従って各省庁を採点しランキングを行った。(別表を参照
予算の作成 20点
使用規程の充実度 20点
個別使用の把握 20点
支出額の集計 20点
予算と実績の整合 20点
 1位は会計検査院で75点、2位は農林水産省で70点、3位は財務省で65点、ワーストの15位は国土交通省で0点であった。省庁別の評価は次のとおりである。
1位 会計検査院(75点)
予算は部局ごとに作成している。使用規程を定めており使用簿を定めている。使用簿は時刻・区間・金額を記載している。支出額の集計をしていない。当センターで集計した支出実績は予算以内である。
2位 農林水産省(70点)
予算は部局ごとに作成している。使用規程は簡略なものであり、使用簿を定めている。使用簿は券交付の記録であり時刻・区間・金額の記載がない。支出額の集計をしている。支出実績は予算を2倍近く上回っている。
3位 財務省(65点)
予算は部局ごとに作成している。使用規程はあるが送迎対象幹部向けと業務使用のためのものだけで、夜間帰宅に関しては利用時刻の規定だけである。使用簿は用いていない。支出額の集計をしている。支出実績は予算以内である。
4位 文部科学省(50点)
予算は省一本でしか作成していない。使用規程は簡略なものである。使用簿は時刻の記載がないが、区間・金額が記載されている。支出額の集計をしている。支出実績は予算を大幅に(37倍)上回っている。
5位 環境省(45点)
予算を作成していない。使用規程を定めているが使用簿の定めがない。使用簿を実際には用いており、時刻・区間・金額の記載がある。支出額の集計は月別局課別では行っているが年度の集計がない。当センターで実績の集計をしたが、予算と実績の対比はできない。
5位 厚生労働省(45点)
予算は省一本でしか作成していない。使用規程を作成していない。使用簿を用いており、時刻の記載がないが区間・金額は記載されている。支出額の集計をしている。支出実績は予算を大幅に(9倍)上回っている。
7位 内閣官房(40点)
予算は部局ごとに作成している。使用規程は簡略なものである。使用簿を用いており、一部の課で時刻が不記載であるが、時刻・区間・金額を記載している。支出額を集計していない。支出実績は予算を4倍以上(推定)上回っている。
8位 内閣府(35点)
予算は部局・事業目的ごとに作成している。使用規程は簡略なものである。使用簿を用いているが時刻・区間・金額の記載がない。支出額を集計していない。支出実績は予算を3倍以上(推定)上回っている。
8位 総務省(35点)
予算は部局ごとに作成している。使用規程を定めているが使用簿の定めはない。使用簿は用いていない。支出額を集計していない。支出実績は予算を2倍近く(推定)上回っている。
8位 経済産業省(35点)
予算を作成していない。使用規程は詳細であるが使用簿の定めはない。使用簿は用いていない。支出額の集計をしている。予算と実績の対比はできない。
11位 法務省(30点)
予算は部局ごとに作成している。使用規程を定めていない。使用簿は用いていない。支出額を集計していない。支出実績は予算を5割以上(推定)上回っている。
11位 警察庁(30点)
予算を作成していない。使用規程は詳細で、04年度から使用簿を定めている。使用簿は金額は記載されているが時刻・区間の記載がない。支出額の集計をしていない。当センターが実績を集計したが予算と実績の対比はできない。
13位 外務省(20点)
予算を作成していない。使用規程は詳細であり、使用届の定めはあるが使用簿は定めていない。支出額の集計をしていない。予算と実績の対比はできない。
13位 防衛庁(20点)
予算を作成していない。使用規程を定めていない。使用簿を用いているが、時刻・使用者名の記載がない。支出額の集計は月別の業者別局課別明細・集計のみで月度の集計・年度の集計がない。予算と実績の対比はできない。
15位 国土交通省(0点)
予算を作成していない。使用規程を定めていない。使用簿を用いていない。支出額の集計をしていない。予算と実績の対比はできない。
6.おわりに
 今回の調査で判明したタクシー代の支出額は、一部推計も含めて年額60億円であった。これは15省庁の本省一般会計分だけであり、省庁全体としてはその他の各庁・外局・地方機関分、および特別会計分がこれに加わるので、国家予算からのタクシー代支出総額はこの数倍になるであろう。さらに、外郭団体等から手に入れる利用券や裏金プール金を用いた、飲食遊興の行き帰りや夫人の買い物などの私用のタクシー利用は、その一角が時おり国民の目に触れるが、その全貌は闇に包まれている。
 情報公開市民センターの調査と評価は、開示された文書によって表面的に管理体制を推定するものであり、管理と利用の実態を知るのは、立ち入った調査ができる別の機関に俟たなければならない。ランキングで高得点を得た省庁といえども、たとえば、支出実績が予算以内に収まっていても、実は潤沢な予算を使いきれないのかもしれない。集計表や使用簿を作成していても、それが適正な使用の管理につながっているかは、極めて疑問である。
 限られた手法を用いた今回の調査によっても、一般事務処理費の大きなウェイトを占めるタクシー代の管理体制に不備が多いことが明らかになったといえよう。
 各省庁とも次のような改善を行うことを望みたい。
1. 深夜までの業務を常態化させないような、業務遂行体制の抜本的改善
2. これによるタクシー代支出額の大幅削減
3. 支出実績とその財源の分析をもとにした、独立項目としての適正な予算の確立
4. 使用規程の充実・整備
5. 個別使用の的確な記録と管理
6. 支出状況の常時把握と予算管理の徹底
(鈴木祥宣)