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政務調査費は議員のお小遣いか!
都内市区町村条例をチェックする
3 問題提起/不思議なおカネ,政務調査費
従来から都道府県市区町村では,議員報酬条例に基づいて議員に対して報酬のほか,交通費,宿泊費などの必要経費と日当を支払ってきたが,それ以外に全都道府県と一部の市区町村では会派・議員に政務調査費を交付して来た。交付金額は1議員あたり年額数万円から都議会のように月額60万円(年額720万円)という議会もある。
政務調査費はたいてい会派単位で交付されることになっており,「(1議員あたりの月額)×(会派議員数)」が一月あたり当該会派に交付される金額となる。会派活動を熱心にして支出した経費について事後に清算するのではなく,何に使われるのか具体的に決まっていない状況で,「行ったきり」の一方通行で交付されるお金だ。事後に首長に提出される収支内訳書は書式化されたA4の紙切れ1枚。「人件費」「調査費」などの支出項目が印刷されており,各項目の金額と使途概要を簡単に書き込むだけのものである。使途が適切かどうかをチェックすることなど到底できない。する気もない? まるで首長と議会の馴れ合いだ。そしてほとんどの会派の収支報告書では「(収入=政務調査費)−(支出)=0」となっている。つまり1円も残さず,政務調査費を全額使い切っているということである。使い道が分からず,他者のチェックもなく,1円も残らない。こんな公金の使い方を住民の政治的代表であるはずの議員たちが決め,首長がこれに応じているという関係は,住民不在の“談合”である。
今年3月以前は,地方自治法が「報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない。」(203条5項)と規定していることとの関係から,条例に根拠を持たない政務調査費の支出は違法だと言うことさえできた。
こんな「?」だらけの政務調査費に国会が出した解決策は,「条例を定めれば支出してかまわない」という地方自治法改正だった。それが今年4月に施行された改正地方自治法100条12項・13項である。これによって政務調査費は初めて法的根拠を与えられることになったが,これは政務調査費の交付が地方自治法203条5項違反にならないようにする方法を示しただけで,上記の疑問を解決したわけではない。したがって,政務調査費への疑問を払拭するには各議会がどのような条例を作り(制度),各会派がどのような対応をしているか(運用)が重要である。
今回,私たちは都内市区町村が制定したすべての政務調査費条例を集め,比較検討を行なった。各条例は都道府県議会議長会や全国市議会議長会が作成した雛型をもとに条例を作成しているものなので,条文の構造,規定の仕方はかなり似通っていた。しかし,各議会の議員の問題意識によって重要な差異が条文の規定の仕方に現れていることを確認できた。
以下に報告する。
4 被交付者/だれが政務調査費を受け取るのか?
地方自治法100条12項は「会派又は議員」への交付を認めている。
県議会議員には会派が存在するようであるが,市区町村になると明確な会派と言える存在があるとは限らない。かなりの議員が地域推薦の無所属議員で,政策や考えを共通にする会派を形成していない。地方自治法はこのような実態を承知していて,「会派」ではなく「会派又は議員」という規定の仕方をしたのだろう。
議員個人に対して政務調査費を交付するもの(例えば青梅市)や会派と議員に交付するとしたもの(例えば足立区)があり,議員報酬との区別がつきにくくなった。
会派に対する交付だけを予定している条例(例えば江戸川区・葛飾区)もあるが,他方で一人会派を認めている(例えば江戸川区は「所属議員が一人の場合を含む。」としている。)ので,議員個人への交付を認めているのと結局は同じである。一人会派を認めないとしても,どのような会派形成をするかは議員の自由に委ねられているので,政務調査費を受け取るためだけの会派を作ることも技術的には可能であり,これによって実質的には会派を形成していない1議員でも政務調査費を受け取ることができる。
したがって,交付の対象を会派にかぎったとしても,議員の第二の報酬という疑いは払拭されない。
5 使途範囲/政務調査費はどんなことに使うおカネ?
(1) 「議員の調査研究に資するため必要な経費」
条例は一般に,「議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として」と規定している(1条)。「調査研究」の定義規定を設けている条例はない。何が議員としての調査研究に当たるかは社会常識で考えるしかない。強引な解釈をすれば何でも調査研究になり得る。しかも,「調査研究に必要な」ではなく,「調査研究に資するため必要な」としているので,「調査研究」に直接費消するのでなくても,「資するために必要」であればよいとして,調査研究費よりもかなり広く運用される可能性がある。そうなると,報酬との区別がますますつきにくくなる。1条を読む限り,「調査研究」とそれ以外とを明確に区別しようとしている条例は見当たらない。
(2) 使途基準を何で定めているか
各条例は政務調査費が際限なく何にでも使われてしまうことを防ぐために,「政務調査費を・・使途基準に従い使用するもの」と規定している。使途基準を示すことでそれ以外への使用を防ごうということである。
問題は,使途基準を何で定めるか(条例かそれ以外か)と,使途基準の内容である。
使途基準は全議員に及ぶ問題であるとともに,公費支出の項目の妥当性という重要な問題であることからして,一部の議員や首長の判断で決めるべきではなく,議会の責任において決めるべきである。ところが,使途基準を条例で定めている議会は5つ(中野区・中央区・調布市・東村山市・檜原村)しかなかった。中央区は条例で定めるほかに,規程でより詳しい「使途細目」を定めている。
それ以外の議会は以下のような法形式で定めている。
施行規則 |
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荒川区・板橋区・北区・江東区・新宿区・杉並区・墨田区・世田谷区・台東区・千代田区・豊島区・文京区・昭島市・あきる野市・青梅市・小金井市・国分寺市・小平市・狛江市・多摩市・西東京市・八王子市・羽村市・東大和市・府中市・福生市・三鷹市・武蔵野市・武蔵村山市 |
規則 |
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江戸川区・稲城市・国立市・清瀬市・日野市・町田市 |
施行規程 |
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大田区 |
規程 |
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足立区・品川区・港区・目黒区 |
町規則 |
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瑞穂町・奥多摩町 |
議会運営委員会決定 |
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練馬区 |
条例の改正は議会で行なわなければならない(地方自治法96条1項1号)が,施行規則や規則であればその必要がないという便利さがある。そこが使途基準を条例で定めないことにした動機なのかもしれないが,住民の立場からすれば,使途基準は首長や議長の一存で変更されるべきでなく,全議員の自覚と責任において変更されるべきである。
規程は組織内部の取決めのようなものであり,法令ではない。「規程違反をしても違法ではない」という弁解が出される可能性がある。中央区の場合は,条例で規定した使途基準の内容をさらに詳しく規定した規程で読み込むという関係になるものと考えられる。
練馬区は「議会運営委員会決定」で決めたとのことであるが,これが法律的に規則・施行規則・規程などのいずれに属するのかは不明である。
使途基準に該当するか否かで適法違法が直ちに決まるわけではないにしても,実際の運用において重要な指標であることは間違いない。
(3) 会派経費であること
人件費・調査費・研修費・資料購入費・資料作成費・活動費・会議費・広報費・事務費はほぼ共通に認めている。内容の説明では,どの項目についても「会派が・・・する経費」となっているので,公費支出が相応しい会派活動と評価できない事項について政務調査費を支出することは,どの条例でも認めていない。
(4) 「その他の経費」
人件費等の項目以外に「その他の経費」という基準を設けている議会が多数ある(荒川区・大田区・葛飾区・江東区・墨田区・世田谷区・台東区・港区・あきる野市・稲城市・青梅市・清瀬市・国立市・小金井市・国分寺市・小平市・多摩市・西東京市・羽村市・東村山市・日野市・福生市・武蔵村山市)。
「その他」という基準はときとして際限なく拡大するおそれがあるので要注意である。
「その他の経費」では必ずしも「会派が・・・する経費」という説明の仕方をしていないが,人件費等他の項目との比較からして会派活動の経費であるべきことは言うまでもない。
国分寺市は施行規則では「その他の経費」で「上記以外の経費で会派の行う調査研究活動に必要な経費」としか書いていないのに,議会政務調査費経理要領では「3 調査費の例示」の「その他の経費」で「弁護士等報酬」を例示し(認め)ている。「研究研修費」で「講師謝礼」を入れているから弁護士を呼んでの学習会のようなものは「研究研修費」に含まれるはずである。どのような場合を想定しているのだろうか。議員個人が被告とされる住民訴訟を想定しているのだろうか。事件報酬を念頭に置いているのであれば,それは会派活動と言えない。
(5) 具体例の例示の有無
抽象的な支出基準だけの方が会派としては自由裁量が幅広く認められて好都合かもしれない。しかし,政務調査費は報酬ではなく,会派活動に対する公費援助であるから,会派活動に有効に活用していることを示せるような使い方でなければならないのであって,そのような観点からの制約が働くのは当然である。具体例を示すことは,恣意的または誤解による支出基準からの逸脱を防ぐ上で有効である。
具体例を挙げるかどうかは各議会の選択である。例えば,練馬区議会では「研修費」の内容として「研修会,講演会等を開催するために必要な経費又は他の団体の開催する研修会,講演会等へ参加するために要する経費」と説明するに止まっているのに対して,中野区議会では「研究研修費」の内容として「会派が研究会又は研修会を開催するために必要な経費及び会派の所属する議員が他の団体の開催する研究会又は研修会に参加するために要する経費」と説明し,具体例として「(会場費,講師謝金,出席者負担金,会費,交通費,旅費,宿泊費等)」を挙げている。
もちろん,具体例を挙げているかどうかが直ちに適切な支出に繋がるわけではないし,「等」が入っていることで際限なく広い解釈運用(こじつけ)をされてしまうかもしれない。具体例を示していなくてもしっかり自制する会派・議員はいるだろう。
*具体例を挙げている議会
江戸川区・荒川区・北区・杉並区・目黒区・品川区・墨田区・新宿区・千代田区・中央区・あきる野市・稲城市・青梅市・清瀬市・国立市・小金井市・国分寺市・小平市・狛江市・多摩市・西東京市・八王子市・羽村市・東村山市・東大和市・日野市・福生市・武蔵野市・武蔵村山市・檜原村
*具体例を挙げていない議会
足立区・板橋区・大田区・葛飾区・渋谷区・台東区・豊島区・練馬区・府中市・奥多摩町・瑞穂町
(6) 飲食代は政務調査費に含まれるか
飲食を伴う懇談会等は首長や議長の食糧費や交際費で大いに問題にされてきた。議会,会派,議員についても公費による飲食費の支出であることの問題性は基本的に同じである。議員であろうがあるまいが,どこにいても飲食をすることに変わりがないのであるから,自己の飲食は自分で負担するのが原則である。公費負担は例外だと考えるべきである。
この点に関連して,最も飲食に大らかなのが品川区議会である。同区議会では「研究費」で「食料費,飲食費」を,「研修費」で「飲食費」を,「会議費」で「会議に伴う食費・飲料代」を認めている。従来飲食を伴っていたような項目ではそのまま飲食を認める,という感がある。使途基準がこれほど大らかだと,実際の支出もさぞかし飲食が多いのだろうと推測したが,情報公開請求の結果はまさにそのとおりになった。「基準さえ作ればこっち(議員)のもの」というわけである。
品川区ほどではないが,杉並区では「研修費」で「懇親会費」を認めている。研修会後の懇親会は慰労を兼ねて酒が入ることがあるだろう。江戸川区では「賄費」(食事?)を認めている。千代田区は「飲食等の経費は一人5千円を目途とする。また,例外についてはその事情を付記しておく」と認めている。これらは酒類を含んでもよいように読めなくはない。調布市は「広聴費」で「会議賄費」を認めている。江戸川区も調布市も「賄費」の範囲が問題である。
国分寺市では,施行規則の使途基準に飲食費が明示されていないが,議会政務調査費経理要領では「使途基準に関する確認事項」で「食事付きでない宿泊の場合は,朝食夕食共に各1,200円以内の実費額とする。」とし,「3 調査費の例示」の「研究研修費」「調査旅費」で「食卓料」を認める一方で,「4 調査費に充ててはならない経費」として「(5)飲食に要する経費(但し宿泊費に含まれる食事代は除く)」としている。これは原則として飲食費を禁止し,例外的に一定の限度での支出を認めるというものである。金額からして酒類への支出までは認めていないようである。
大田区は「会議用の弁当代」としているので明確である。これ以外の飲食費への支出は認めないということである。
これと対照的に立川市では,施行規則別表2で「調査研究費として認められない経費」を明記し,「研修,公聴等に係る会議に伴う食糧費」という項目で,「食事代,弁当代,飲食代(茶菓子代を除く。)等」としている。東大和市も施行規則別表の「2 対象外経費」で「(6)飲食費(講師に対する飲食費を除く。)」を明記している。
荒川区・江戸川区・文京区・港区・昭島市・稲城市・青梅市・清瀬市・小金井市・小平市・狛江市・東村山市は「広聴費」で「茶菓子代」,町田市は「研修・会議費」で「茶菓子代」,武蔵野市は「会議費」で「会議に伴う茶菓代」,日の出町・檜原村は「会議費」で「茶菓子」,西東京市は「広聴費」で「茶代」,世田谷区は「広報公聴費」で「茶菓子代」を認めている。食事や酒類は否定しているものと解される。
北区・新宿区・墨田区・目黒区・あきる野市・国立市・立川市・多摩市・日野市・八王子市・羽村市・東大和市・福生市・武蔵野市・武蔵村山市は飲食代も茶菓子代も明記していない。これはこれらをすべて認めない趣旨と読める。十分に合理性がある。
(7) 支出禁止基準
支出してはいけない基準を明記することは,使途基準が曖昧であるだけにルーズな支出を抑制する上で有意義である。立川市(条例)・江戸川区(規則)・東大和市(施行規則)・国分寺市(要領)が基準を設けている。
ここで禁止されている事項は住民感覚からすれば当然と言えるようなものばかりであるが,他の議会の支出基準と比較すると,「飲食費」や「新聞購読料」のように,他の議会が支出を認めているものについて明確に禁止している場合がある。例えば,自分の所属政党ないし関連団体が発行している新聞・雑誌等は党員ないし政党支持者として購読しているはずであり,政務調査として購読するものではないのではないだろうか。
どのような支出基準でも設けてしまえばそれが合法違法を分ける基準になると考えるべきではない。仮に支出基準に合致する支出だとしても,基準自体が住民感情からすると著しく不合理だというものについては,違法と判断されることもあるだろうし,住民の意思を尊重して支出基準を変更すべき事態も起こり得るであろう。
政党活動や選挙活動の経費を禁止している点は共通している。幾つかの議会が酒類を伴う飲食を認めているような基準を立てているのに対して,禁止基準を示している議会は概して飲食に対して制限的である。
【江戸川区議会/規則】
「2 支出できない経費
1 交際費的な経費
2 政党本部の活動に属する経費
3 選挙活動に伴う経費
4 会議に伴う食費以外の飲食費
5 その他 」
【立川市議会/施行規則】
「調査研究費として認められない経費
・政党本来の活動に属する経費(党費及び党大会賛助金,参加費,参加のための交通費等)
・交際費的な経費(せん別,慶弔,寸志,病気見舞,慶弔電報,年賀状(印刷代を含む)等)
・研究,公聴等に係る会議に伴う食糧費(食事代,弁当代,飲食代(茶菓子代を除く。)等)
・市民に対する宣伝のために要する経費(議会報告のためのチラシ等の印刷費,通信費等)
・レクリエーション等の経費
・選挙活動に伴う経費
・その他議員個人の私費的経費(新聞代(会派購入分を含む。)等) 」
【東大和市議会/施行規則】
「2 対象外経費
(1)交際費, (2)政党活動に要する経費, (3)選挙活動に要する経費
(4)備品の購入に要する経費, (5)新聞購読料
(6)飲食費(講師に対する飲食費を除く。), (7)レクリエーション等に要する経費
(8)議員個人に支給する経費 」
【国分寺市議会/要領】
「4 調査費に充ててはならない経費
(1)交際費的な経費(せん別,慶弔,寸志,病気見舞い,年賀状購入・印刷代,名刺印刷等)
(2)政党本来の活動に属する経費(党費,党大会賛助金,党大会参加費,党大会参加のための旅費等)
(3)会派が発行する機関紙等の発行・配布に要する経費
(4)選挙活動に伴う経費
(5)飲食に要する経費(但し宿泊費に含まれる食事代は除く)
(6)レクリエーション等の経費
(7)当面の海外研修に要する経費
(8)その他名目の如何を問わず議員個人に支給する経費 」
6 交付金額
交付金額は条例で定められている。従って,交付金額を変更するには条例改正が必要である。
市区を比較すると区が圧倒的に高額である。議員ひとり当たりの年間交付額は世田谷区288万円,大田区276万円,練馬区252万円,江東区・渋谷区240万円,区の最低額は台東区150万円である。これと比較すると,市で最も高額な八王子市でも78万円で,次いで町田市72万円,府中市・日野市54万円である。少ない市は武蔵村山市12万円,東大和市13万2000円,立川市・福生市24万円。
町では日の出町5万円,瑞穂町8万円。村では檜原村3万5000円である。
ちなみに東京都議会の1議員あたり月額60万円,年間720万円はダントツの全国一である。
この金額の差をみると,議員としての仕事の差に本当に反映しているのだろうかという疑問が沸く。
どの条例でも「会派所属議員数」は「各月1日」を基準にすることにしているので,月半ばに辞職や会派替え,死亡などの事情が発生した場合,会派は辞職等のあった議員の一ヶ月分全額を受け取ることができる。月半ばで議会が解散した場合も,同様である。
7 議長への領収書の提出
政務調査費はいわばどんぶり勘定で交付される補助金のようなものである。支出の適正を確保するための仕組みが必要である。
地方自治法100条13項は,政務調査費の交付を受けた会派・議員に,収支報告書を議長に提出すべきことを義務づけているが,それが支出の適正をチェックする上で実効性を持つかどうかは各議会によって対応がかなり異なる。
議会が情報公開条例の実施機関になっている自治体では,議長に提出される文書が情報公開請求の対象になり得るので,政務調査費条例がどのような文書の提出を義務付けているかが重要である。住民に対する説明責任について議会がどの程度積極的であるかを知る基準になる。他方,会派に文書保管を義務づけている条例もあるが,会派は情報公開条例の実施機関ではないので,会派に対して情報公開請求することはできない。任意提供に応じてもらえるかどうかというレベルの問題になるから,拒まれればそれまでである。
地方自治法に定められた最低限のことだけをしていればよいと考える議会では,1年に1回収支報告書が提出されるだけで,収支報告書の記載内容の正確性を裏付ける証拠書類(領収書等)は一切添付されない。都道府県議会議長会及び全国市議会議長会が作成し全国の議会に出回った政務調査費条例の雛型には証拠書類の添付を義務づける規定はなかった。これをそのまま踏襲したということである。
他方,「会派活動に関わる情報とは言え,公費で賄われている以上は,納税者に対して説明する責任がある」という自覚をしっかり持っている議会では,1年に1回の収支報告書以外にもっと短い期間を単位として精算報告書を提出したり,領収証等の証拠を添付したりしている。
千代田区議会では4半期ごとに「中間報告書」(条例)と「支出の内容を明らかにする領収書等の原本」(施行規則)を,毎会計年度終了後に「政務調査研究費決算報告書」(条例)と「第4四半期分の領収書等の原本及び会計帳簿」を議長に提出することが義務づけている。
品川区議会では4半期ごとに「政務調査費収支報告書」(条例)と「明細書,領収書及び支払証明書」(規程)の提出を義務づけている。
新宿区議会では4半期ごとに「四半期政務調査費収支状況報告書」(条例)を,各年度終了後に「年度政務調査費収支報告書」(同)を議長に提出することを義務づけているが,証拠書類等は会派の経理責任者に1年の保管を義務づけているに止まる。報告回数が多いのはよいが,領収書等の証拠書類は議会が情報公開条例の実施機関になっていても公開請求の対象にならないということであるから,住民によるチェックという点からすると問題がある。
文京区議会は新宿区議会とほぼ同様である。
大田区議会では4半期ごとに「精算報告書」(施行規程)の提出を義務づけている。
台東区議会では「各半期(6ヶ月)終了」ごとに「区政調査研究費収支報告書」(条例)の提出を義務づけている。
領収書等の提出を義務付けている議会は次のとおりである。
領収書等の証拠書類,実績報告書(条例):三鷹市
領収書等(条例):昭島市・西東京市・町田市
関係書類(条例):小金井市
領収書等の証拠書類,実績報告書(施行規則):立川市
会計帳簿,領収書等(施行規則):国分寺市
領収書等(施行規則):千代田区・武蔵村山市・奥多摩町
明細書,領収書及び支払証明書(規程):品川区
実績報告書と領収書等の写し(条例):葛飾区
領収書の写し(条例):稲城市・東大和市
証拠書類等の写し(条例):練馬区
領収書の写し(施行規則):小金井市
支出内訳及び領収書等の写し(規程):目黒区
「1件の支出金額が5万円を超えるものがあるときは,それを記載した政務調査費領収書(写)」(規程):足立区
領収書等の提出を義務づけていないが,領収書等の提示や出納簿の写し等の提出を義務づけている議会がある。
領収書等を議長に「提示」する責任(条例):あきる野市
政務調査費の収支を表す出納簿の写し(条例):杉並区
政務調査会計帳簿の写し(条例):世田谷区
実績報告書(条例):江戸川区
実績報告書(施行規則):荒川区
地方自治法で明記している最低限の文書だけ議長に提出すればよいという条例が大多数を占めるのではないかと懸念していたが,予想外に多くの議会が収支報告書以上の説明責任を果たす決断をした。
上記以外の市区町村では議長に提出する文書は1年に1回の収支報告書だけである。
条例で会派や議員に領収書等の保管を一定期間義務づけているとしても,情報公開請求の対象にならないので住民が権利として公開を請求することはできない。
8 議長の調査権限
収支報告書や領収書等が議長に提出されても,不明な点について議長が調査する権限がなければ,上記提出義務は議長にとって儀式でしかない。議会の独立性という観点からしても,議長の調査権限があることは重要である。
議長の調査権限を条例で規定している自治体は19区(足立区・江戸川区・大田区・渋谷区・新宿区・杉並区・墨田区・世田谷区・千代田区・中央区・豊島区・港区・目黒区・大田区・杉並区・豊島区・墨田区・足立区・江戸川区)だけであり,それ以外の自治体では議長の調査権限を明記していない。議長への収支報告書提出義務を実効あらしめるには,地方自治法100条13項の解釈として議長の調査権限が認められているというべきである。そうすると,上記19自治体の規定は創設規定ではなく確認規定としての意味を持つことになる。
9 剰余金の返還義務
残預金が出た場合の処理について,会派に返還を義務づけている自治体と,首長に返還命令の権限を与えている自治体とがある。後者では首長が命令しないかぎり返還しなくてよいということになる。剰余金があるかどうかは,議会が情報公開条例の実施機関になっていて,かつ議長に領収書等(写し)が提出されていなければ,外部からは分からない。
「会派代表者は・・首長に返還しなければならない」:足立区・板橋区・江戸川区・大田区・葛飾区・北区・品川区・渋谷区・千代田区・練馬区・文京区・あきる野市・青梅市・国立市・国分寺市・小平市・西東京市・町田市・八王子市・東村山市・福生市・武蔵村山市
「返還するものとする」:荒川区
「議員は・・返還しなければならない」:青梅市
「首長は・・返還を命ずることができる」:江東区・新宿区・杉並区・墨田区・世田谷区・台東区・豊島区・中野区・港区・目黒区・昭島市・稲城市・清瀬市・小金井市・狛江市・立川市・多摩市・調布市・羽村市・日野市・府中市・武蔵野市・三鷹市・奥多摩町・日の出町・瑞穂町・檜原村
10 基準違反の支出金の返還
基準違反の場合について返還義務を明記した条例は4つだけであり,意外と少なかった。明記していない議会においても同様の義務があるものと解釈運用すべきである。そうしないと支出基準を設けた意味がない。
「議長は・・当該支出に係る経費の全額の返還を求めなければならない。」:千代田区
「会派は・・首長に返還しなければならない。」:東村山市
「区長は・・当該調査費の交付の全部又は一部を取り消すことができる。」:文京区
「区長は・・返還を命じるものとする。」:墨田区
11 まとめ/住民の監視に耐えられる公金支出を
今回,私たちは制度比較だけでなく,政務調査費の支出に関する文書の情報公開請求も行なった。各自治体の情報公開度が高ければその比較検討をするつもりであったが,政務調査費条例が今年4月にスタートしたばかりで議長への報告書提出時期が年度明けとなっている議会が多い関係から,領収書まで公開した議会はまだごくわずかしかなく,比較検討は困難だった。公開度の比較,公開文書の詳細な分析は,来年春以降に実施する。
しかし,制度面と運用の実態の一部が見えたことで政務調査費条例の問題点がかなりはっきりした。
条例(制度)について言えば,使った費用の領収証を収支報告書に添付する自治体が17.1(11市,5.1区(足立区は0.1),1町)あった。足立区は5万円を超えた場合にしか領収書の提出を義務づけておらず,しかも領収書の金額を5万円以下にすることは技術的に容易であり,ほとんど領収書が提出されない可能性があることから,他の16議会に遠く及ばない。都道府県議会議長会などの雛型が領収書の添付を義務づけていないことと比較すれば積極的に評価してよいが,各自治体の住民の立場からすれば領収書の情報公開請求ができない住民が圧倒的に多いということであるから,到底納得できない。領収書等の証拠書類の提出を義務づけていない条例についてはこの点の改正を直ちに実施していただきたい。
公開された文書についてみると,項目と金額が書いてあるだけで一体何に使われたのかが明らかにならない報告書(議長にも分からないはず)や,領収証等がついていてもどうみても会派活動とは思えない,驚き呆れる内容の支出もあった。4例を挙げる。
【品川区議会/自民党】
双葉鮨で29,589円, 好乃鮨で92,900円, うなぎ専門店藍の家で29,850円,
炭火焼肉牛小屋で20,580円, 焼肉大繁苑で39,994円・・・ひたすら飲食。
【千代田区議会/区民ネット】
「サントリーラウンジ」での飲食金14,563円の内金1万円
歌舞伎町の「ショークラブリバティ」での飲み物代28,600円の内金2万円
「リカーワールド新宿店」で買った酒代1,546円
以上をすべて「会議費」として計上。
【豊島区議会/公明党】
「負担金」という科目(内容は不明)に320万円を支出。
【瑞穂町議会/自民クラブ】
「自由民主党三多摩議員連絡協議会会費」に一人当たり18,000円を支出。
これらの支出は住民の立場からすると「政務調査」とは到底認められない。品川区議会は支出基準で飲食を大らかに認めた(?)ことが実際の使途にはっきり反映したのだろう。他の議会にしても,基準に当てはめることさえできればよいと開き直った考え方でこのような支出をしているのか,条例・基準の解釈当てはめをまちがえて支出しているのか,これは今後の追跡調査で明らかになるはずである。
今後もこのような支出があちこちの議会で多発するようであれば,住民監査請求・住民訴訟があちこちで起こることになるだろう。
地方分権の時代。地方で決めるべきことは今後も増え続ける。議会は地方分権の主要な担い手である。議会がどれほどの役割を果たすかが各自治体の発展を左右することはまちがいない。政務調査費はそのような会派・議員活動をたすけるための公費であって,それ以外のなにものでもない。政務調査費は政務調査のためだけに使う。これが出発点である。会派・議員が常にこのことを意識して行動するならば,住民に説明しにくい,あるいは住民の立場から納得できない支出はなくなるはずである。
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