気になる裁判官の氏名情報提供

第一群の表に記載した事件で、情報公開に積極的な判断を行なった裁判所と、後ろ向きな判断を示した裁判所の構成をお知らせします。(敬称略)

○情報公開に、先駆的・積極的な判断を示した裁判所の構成裁判官
▼消極的な裁判官はこちらです
番号 判決年月日 裁判所 構成裁判官の氏名
21 平8.7.29 仙台地裁 信濃孝一 深見玲子 穂阪朱美
懇談会参加者氏名の原則公開を命ずる判例の流れに先鞭をつけた判決。

市民オンブズマンによる官官接待の追及は、1995年(平成7年)からはじまり、スミ塗りで開示された懇談費の支出決済文書の全面公開を求める情報公開請求訴訟が、全国各地で起こされた。都道府県の公文書公開条例が「個人が識別され得る個人情報は非開示とする」と規定する中で、懇談会参加者として記載されている個人氏名を開示すべきか否かが大きな争点となった。

この仙台地裁判決は、「公費によって開催された懇談会について、県民には税の無駄遣いを監視する上でも可能な限り具体的な情報の開示を受ける利益がある」とし、公務員の氏名の開示は、「プライバシーが問題になる余地はない」と明快な判決を出した。一定条件にある民間人参加者の氏名の開示も認めた。

25 平9.3.25 大阪地裁 鳥越健治 遠山廣直 山本正道
平成4年の提訴事件。大阪市財政局財務課の懇談会に参加した相手方氏名の開示の当否が争われた。個人氏名の開示基準を理論化し、公開を一歩進めた判決。

判決は、個人情報には、戸籍的事項に関する情報、学歴・経歴などに関する情報、心身に関する情報、財産などに関する情報、思想・信条に関する情報、家庭状況・社会的活動状況に関する情報があるが、公文書公開条例の「規定の趣旨からして、これらの個人に関する情報とされている情報であっても、プライバシーに関係しないことが明らかな情報については、非公開とすることは許されない」との原則を示し、「相手方のプライバシーが問題となるのは、相手方が当該会議等に出席(予定)したという情報であり、その出席(予定)が当該相手方にとって私的な領域の問題といえるか否かである。

そうすると、当該相手方が、個人としての資格を離れて、公務として、あるいは所属する団体の職務として大阪市の右会議等に出席する限りは私的な領域の問題とはいえず、出席したという情報自体は相手方のプライバシーとは関係ない事柄ということになる」とし、相手方として参加した公務員、議員・議会関係、審議会関係、外国からの来賓、医療関係及び大学関係、金融関係、報道関係の参加者氏名の開示を命じた。

32 平9.9.29 鹿児島地裁 蓑田孝行 山本由利子 富田敦史
懇談会に参加した個人氏名の開示の範囲は前例踏襲だが、情報公開の必要性を高らかに謳ったアメリカのジェームズ・マジソン(憲法起草者の一人)やラムゼイ・クラーク司法長官の演説の著名なフレーズを引用して情報公開の意義を説いた。この種の名句を判決理由中に引用することは珍しい。

60 平11.2.9 鳥取地裁 内藤紘二 一谷好文 三島 琢
多くの都道府県では議会が情報公開の実施機関とされていないことから、知事は、議会・議員関係の支出決裁文書の公開を求められても、関係文書を議会が保管していることを理由にして、「文書不存在」とか「不受理」の処分を行うことが多い。鳥取県でも住民の請求に対して、請求書を返戻して受け付けなかった。

これについて鳥取地裁は、地方自治法の解釈として、「少なくとも予算執行に関する文書については、その作成又は管理の権限が法的には知事に属している」として、知事の「不受理処分」を取り消した。この種の判決はこれが始めて。

63 平11.3.18 福岡地裁 古賀 寛 金光健二 秋本昌彦
福岡県では60億円以上の県庁ぐるみの不正支出が内部調査で明らかになった。その調査過程で、知事部局に設けられた「旅費問題調査委員会」には、不正支出が記録された「補助簿」や預金通帳が集められた。住民はその公開を求めたが、知事は「公文書ではない」として開示を拒否したのが、このケースである。

裁判所は、本件文書は、知事が「職務上作成し、又は取得したもの」と認定して、不開示処分を取り消した。はじめての判例。

30 平11.3.31 東京高裁 高木新二郎 末永 進 藤山雅行
地方自治体では、公共工事等の入札における「予定価格」は、入札後でも公開をせず、住民の公開請求に対しては非開示処分を行なう。事後の公開でも事前公表と同じ効果をもち、「公開すると、今後これらの単価等の決定のための見積が適正に行えず」というのが理由であった。

東京高裁は、予定価格の不公表は談合組織を不当に利しているとし、「発注者としては、公共工事の適正な執行に責任を負うべき者として、予定価格を遅くとも事後的に公表することによって、予定価格自体につき広く一般の批判にさらして以後の査定を適切なものとすることを目指し、併せて談合組織が予定価格直下での落札を繰り返すといった極端な行動を取ることを牽制することこそが、入札制度の健全化に資するものと考えられるのであって、その公表を怠ることは、談合の存在及び予定価格自体の問題点を一般の目から隠し、問題の解決を困難にするものであって、その職責に反するものというほかない」として、予定価格の開示を積極的に支持し、一審原告敗訴の横浜地裁判決を取り消して、公開を命じた。その後、自治体の予定価格の事後開示は広がりはじめる。

58 平11.9.28 高松高裁 井土正明 溝淵 勝 杉江佳治
県会議員や議会職員らの食糧費、出張旅費等に関する支出決裁文書の公開を求めたものであるが、高裁判決としてはじめて。県の内規で保管権限を移しても、知事(被控訴人)の保管権限は変わらないとした。

「地方自治法149条8号が、長の事務として、証書及び公文書類を保管する事務を定め、徳島県会計規則48条1項が、収入及び支出の証拠書類は、年度経過後5年間保管しなければならない旨を定めていることからすると、長は、予算執行事務終了後においても、予算執行事務処理の過程で作成ないし取得した文書を、証拠書類として管理する権限と責任を有するものといえる。

そうであるから、本件請求に係る文書は、被控訴人の本件併任事務吏員が、その専決ないし代決権限事項である予算執行事務を補助執行するする上で、作成ないし取得し、予算執行事務終了後も、被控訴人の併任事務吏員の立場で、証拠書類として管理している文書であるといえる。被控訴人の指摘する諸規程も、右のように解釈することの妨げとなるものではない。そうすると、被控訴人は、本件請求に係る文書を、その法的権限に基づき、管理しているものというべきである」として、一審原告敗訴の判決を取り消し、県の不受理処分を取り消した。

43 平12.3.17 仙台高裁 武藤冬士己 畑中英明 木下徹信
議員・議会職員の旅費や県政調査費に関する支出文書、並びに警察本部総務課員の出張に関する資料の開示請求事案であるが、「本務としては議会や県警本部の職員に任ぜられている者であっても、その者が右のとおり被控訴人に専属する予算執行権の行使を補助する趣旨で(明示若しくは黙示の併任により)、関係文書の作成、取得に当たる場合には、その職務内容は、法律上、被控訴人部局の職員として職務を担当・遂行するのと同様の性質を帯びるものというべきである」とし、かかる文書は、「特段の事情がない限り、少なくとも、被控訴人ないしその部局の職員が直接作成、取得する文書と、情報公開の関係において、これを別異に扱うべき理由はない」として、一審原告敗訴の判決を取り消した。



○情報公開に消極的な判断を示した裁判所の構成裁判官
▲積極的な裁判官はこちらです
番号 判決年月日 裁判所 構成裁判官の氏名
49 平10.8.7 新潟地裁 仙波英躬 清水研一 丸山 徹
懇談会出席者の「相手方の氏名」の公開の当否が争われた。

判決は、条例10条2号の解釈として、「この規定は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、従来から公開されていた情報及び公益上公開することもやむを得ないと認められる情報として本号但書で認められるものを除き、個人に関する一切の情報は非公開とすることを定めたものである」として、相手方の氏名を開示しなかった県の処分を支持した。この判決は、東京高裁で取り消されている。

51 平10.8.25 広島地裁 矢延正平 橋本眞一 名越聡子
判決文には、情報公開制度への警戒心が強く現れている。

「昨今の情報化社会においては些細な情報ですら社会に潜む悪意者(残念ながらこの種の人物が存在することは過去社会的耳目を集めた事件の個人情報が明るみに出た場合の例において知られているところである)や営利業者等の格好の標的となる危険性があり、個人の識別が直ちに当該個人の生命、身体の安全、自由、幸福、生活の平穏を左右する場合すらある。したがって、個人情報の管理保護に関して細心の注意が必要であり、そのあり方については情報公開の側面からだけではなく、人権尊重等種々 の側面からも十分議論が尽くされるべきものである。当面の公文書公開の要請に気をとられて安易にプライバシー保護の枠を限定することは憲法一三条の趣旨にも反し、許されないものというべきである。」という。

こうした前提に立って、「本条例九条二号は公務員の公務遂行情報が原則として個人識別情報に含まれ、例外事由に当たる場合にのみ公開される趣旨と解するのが相当で ある」として、「個人氏名は原則非公開」との立場を強く打ち出し、公務員をはじめ懇談会参加者の氏名公表を求める住民の請求を全面的に棄却した。この判決のように言うのなら、情報公開制度を否定するに等しい。また、憲法の人権保障規定を、「知る権利」の権限としてではなく、情報公開を制限する根拠だけに使うというのも例がないのではないか。

当然というべきか、この判決は広島高裁で取り消された。

69 平12.3.29 仙台高裁 喜多村治雄 小林 崇 大沼洋一
県が管理する食糧費の支出決裁文書(平成六年度の執行予算)の開示請求事案であるが、裁判所は、「行政庁が保持する個人に関する情報は、どのような内容であれ、それがみだりに公開されると悪用され、プライバシーの侵害を惹起する」とし、「保護すべきプライバシーの範囲を一律に決定することが極めて困難なこと」から、「特定個人が識別され、識別され得る個人情報については、プライバシーに該当するか否かを問わず、そのすべてを原則非開示とする」とした。

もう少し紹介を加えよう。「文理上、個人は国家又は社会集団に対する概念であり、それらを構成する個々別々の人を意味するから、個人の中には、公務員以外の者のみならず、公務員も含まれる」「個人名の開示は、場合により特定の公務員個人に対する社会的非難、責任追及を招き、公務員個人の名誉、社会的地位等個人としてのプライバシーの領域に属する法的利益に対し深刻な打撃を与えるおそれを生じ得るというべきである」とした。

裁判所は、全面公開を命じた一審判決を取り消し、個人名について非開示とした岩手県知事の処分を支持した。

今日、都道府県の実務では、懇談会参加者の個人名を非開示とする自治体は、極めて少なくなっている。そうした中で、最低レベルの行政実例に合わる開示基準を示したものとして注目される。21事件の仙台地裁、25事件の大阪地裁判決の対極にあるもの。


(弁護士 高橋利明)