第3 情報公開法の解釈の在り方
1  原告は、情報公開の効用などと述べて、できる限り行政文書を開示するように情報公開法を運用すべきであり、不開示とする範囲を限定すべきであるかのように主張しているかのごとき論述をしているので、情報公開法に関する個別の間題点について論ずるに先立ち、情報公開法の解釈の指針について述べておく。

2  情報公開法1条は、「この法律は、国民主権の理念にのつとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」と定めている。

 ところで、この「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務」とは、憲法の定める民主主義の制度に由来するものではあるが、それ自体は政治的な責任にすぎず、実体的な法的責任ではない。説明責務、又は民主主義ないし国民主権という理念によって、直接に法的な基準が導き出せるものではない。

 また、いわゆる「知る権利」については、憲法上の明文はなく、同法21条の規定する表現の自由は、国民が直接に行政機関の保有する情報の開示を請求し得る権利としての「知る権利」の保障を含むものではないとの見解が有力であり、最高裁判所の判例においても、そのような請求権的権利としての「知る権利」は認められていない。このようなことから、情報公開法は、行政機関が保有する情報に対する国民の開示請求権としての「知る権利」を目的規定に掲げていないのである(以上につき、字賀克也・情報公開法の逐条解説[第2版]16、17ページ)。

 したがって、国民に行政運営に関する情報に対する開示請求権を付与するか否か、いかなる限度で、どのような要件の下で付与するかは、あげて立法政策の問題であり、具体的な開示請求権の内容、範囲等は、専ら情報公開法の定めるところによることになる。

 ちなみに、最高裁判所平成6年3月25日第二小法廷判決(裁判集民事172号163ページ、判例時報1512号22ページ)(注1)は、地方公共団体に対し情報の公開を請求する住民の権利は、表現の自由に内包する権利(憲法21条)、国民主権(憲法前文)、参政権(憲法15条)、住民自治の原理(憲法92条)を根拠とする権利、個人の尊厳、幸福追求権(憲法13条)、生存権(憲法25条)を根拠とする権利を法的根拠とするものであつて、このように憲法上の権利であることに配慮して条例の解釈、行政処分の適否を決すべきであるとする上告理由に対し、開示請求に係る文書が京都府情報公開条例5条6号所定の情報が記録されている公文書に当たるとの原審の判断を是認した上、「条例の規定が憲法21条1項その他所論の憲法の各規定に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日判決・民集37巻5号793頁、最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日判決・民集38巻12号1308頁、最高裁昭和63年(オ)第436号平成元年3月8日判決・民集43巻2号89頁)の趣旨に徴して明らかである。論旨はいずれも採用することができない。」と判示しているが、同判決は住民に公的な情報公開請求権を付与するか否か、いかなる限度で、どのような条件の下で付与するかについては、いずれも当該地方公共団体における条例の定め方の問題である旨の見解を前提とするものと解されており(千葉勝実・最高裁判所判例解説民事篇平成6年度65ペ−ジ)、情報公開法に関する上記の理も、この判例理論と軌を一にするものといえる。

3  このように、開示請求権は、情報公開法によって創設されたものであって、その立法政策によってその範囲が決まるものであるから、同法の解釈に当たつては、開示請求権の内容、範囲等について、いかなる立法政策が採られているかを各条文の文理に即して探究すべきであり、同法の規定を離れて、国民主権やいわゆる「知る権利」の趣旨、目的等からいきなり解釈基準を導き出したり、それらに沿うように情報公開請求権の範囲等を決したりするべきではない。
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