1,はじめに |
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第7回情報公開度ランキングを発表します。全国市民オンブズマン連絡会議に所属するオンブズが2002年の12月に各地で実際に情報公開請求して入手した開示文書を資料とし、各自治体に直接問い合わせをした結果も加味して評価しました。47都道府県、12政令市のほか、地元の各市民オンブズが任意に情報公開請求した34の市、町と一部の情報については関東地方整備局と日本道路公団、都市基盤整備公社も対象としました。
今回の調査の特徴は、評価項目、得点を前回から大幅に変更したことです。主な変更点は以下の通りです。
・新たに県警本部長の交際費(但し都道府県のみ)、工事成績評定文書、定期監査に関する監査関係書類を対象とし、昨年から引き続いて調査したのは首長交際費の相手方公開度のみとしたこと。
・交際費の相手方公開度の配点を昨年までの半分としたこと。
変更の理由は後に述べますが、情報公開度ランキングも7回目を迎えるようになると、この調査での評価項目が一人歩きしてしまい、私たちの評価と当該自治体の実際の情報の開示度が乖離するおそれが出てきます。尤も、それだけ各自治体がこの調査を意識し、情報公開に取り組むようになった、とも言えますから、このランキング調査の第1回を発表した97年の頃と比較して、うれしいこととは言えるでしょう。しかし、ランキング採点をする以上、実際の開示度と本ランキング結果が乖離することも好ましくありません。そこで、本情報公開度ランキングの基本視点である、共通の評価項目を定点観測的に調査することで、情報公開度の進展をみる、ということだけでなく、常に新たな事項を評価項目として、自治体の情報公開への取り組みを評価する、という視点が重要になってくるのです。今回の変更の理由もそこにあります。
したがって、今回は、評価項目の変更が昨年度までの順位に変更をもたらしたかどうかが注目されます。 |
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2.評価項目・採点基準等 |
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評価の項目は例年通り、文書公開度と制度運用状況から構成しました。
(1) 文書公開度について
47都道府県の開示度の評価項目と配点は次の通りです。
1)首長交際費の相手方情報の公開度(15ポイント)
2)県警本部長交際費の相手方情報の公開度(15ポイント)
3)最も最近に竣工検査が終了した工事に関する工事成績評定文書(45ポイント)
4)直近の県警に対する定期監査の資料(45ポイント)
(合計得点120ポイント)
県警のない政令市、その他の市については2)をはずし、4)の監査書類は教育委員会に対する定期監査とし、満点を105ポイントとして評価を実施しました。
(2) 評価対象の変更について
今年も昨年同様、政策形成過程の情報に対する配点を大きくしましたが、評価対象を昨年と大きく変えました。
昨年は「議会の海外視察」と「庁議等情報」を評価対象としましたが、今回は対象からはずしました。「議会の海外視察」に関しては、情報公開度ランキングとは別の機会に、議会の情報公開度調査を独立して行い、その評価項目の一つとして行うべき、と考えたからです。議会関連の情報公開度については政務調査費の使途の情報公開度の調査結果を2002年の全国大会で発表しましたが、政務調査費の使途の公開度を代表例として、議会や会派を巡る情報の公開度は総じて知事部局に比べて遅れている、という実感が私たちにはあります。そういう状況では、知事部局の情報の公開度と議会の情報公開度を別の機会に評価する方が効果的と思われるからです。
一方、「庁議等情報」は知事や市長部局の政策形成過程の情報の公開度をチェックする上では有益な面もあります。しかし、厳密にみると、自治体による政策形成の場は自治体毎に様々で、庁議が単なる情報伝達の場としてしか機能していないところでも、別の会議で充実した政策形成の議論がなされている場合があったり、庁議の議事録は充実していたとしても、庁議に議題が提出された段階では既に政策の骨子が決定されているなどの可能性もあります。このあたりの問題点については、できるだけ正確な評価を期すために、昨年のランキング調査の際にも追加調査を行いましたが、「庁議」情報の公開だけが一人歩きしないためには、今年は昨年以上の正確な調査をする必要があると考えます。そのためには、「庁議」以外にも目を向けなければなりませんが、残念ながら、今回の調査までにその正確な分析ができていません。
そこで今回は調査項目から庁議をはずした次第です。
これに変わるものとしては、首長部局に関しては、工事成績評定書類の調査をすることで、首長部局における工事評価のプロセスを調査することと、監査委員事務局に関し、直近の県警に対する定期監査の資料を対象とすることで、監査委員事務局における政策形成のプロセスを調査することとしたわけです。これら二点の新項目の調査の趣旨については後に説明します。
(3) 制度運用について
評価項目は昨年に引き続いてコピー代だけとし、金額に応じて0?30ポイントを配点しました。配点も昨年同様、コピー代についてA4一枚を基準とし、1円?10円を満点の30ポイント、11円?20円を10ポイント、1枚21円以上を0ポイントとしました。
また、例年同様、閲覧手数料を徴収する自治体は「失格」として順位をつけないこととしました。なお今年「失格」となったのは東京都だけでした。
(4) 総合ポイントと配点
その結果、都道府県については合計150ポイントを満点とし、それ以外の自治体に関しては135ポイントを満点として、それぞれ100点満点に換算して得点を決定しました。
交際費は昨年まで30ポイントを配点していましたが、今回は知事、県警本部長とも昨年の半分の15ポイントとしました。このように交際費の配点を下げたのは、多くの自治体が交際費の相手方情報を公開するようになったことにともない、点差がつきにくくなったこと、自治体の中には交際費の相手方の公開には力を注ぐものの、それ以外の情報公開は交際費の相手方の情報の公開に比較して積極性がみられないなど、交際費の相手方情報の公開度が当の自治体の情報公開度を必ずしも正確に反映しなくなっていることが理由です。
前回も指摘しましたが、情報公開制度で最も重要な点は、政策形成過程の情報がどれだけ公開されるか、という点です。そこで、工事成績評定文書と監査関係書類にはそれぞれ45点を配点しました。
また、開示された文書の評価に際しても、単に公開、非公開のみを判断するだけでなく、議論の過程が詳細に汲み取れるような記載がなされているかどうか、という、文書から得られる情報の量と質に着目し、公になっている情報以外の情報が多く得られる場合には、できるだけ高得点が得られるような評価をしました。そのため、文書が全面的に公開されていても、公開された文書に記載された情報だけでは結論に至るプロセスが判然としないような場合や、記載されている情報が刊行物で既に公にされているものと大差ない場合には得点が伸びないという結果も発生しました。
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3.調査日時、方法 |
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一部の自治体を除き、昨年(2002年)の12月11日に全国市民オンブズマン連絡会議に所属する各地のグループが自治体宛に情報の公開請求を実施し、開示された資料に基づき、開示度を全国市民オンブズマン連絡会議の情報公開度ランキング判定委員会で判定しました。今回の調査には、全国市民オンブズマン連絡会議に加盟する50を越えるグループとそのメンバーが参加しました。
今回のランキングでは、県警本部長交際費の相手方の開示度を調査項目にしたのですが、いくつかの自治体では県警本部長交際費の支出例が少なく、開示資料だけでは評価することが難しい場合もありました。そこで、県警本部長の交際費の支出の評価については、県警の他の部局での交際費の支出事例の追加調査をするとともに、直接県警の情報公開担当宛に問い合わせをし、回答を参考にして最終評価をしました。
一次評価をした段階で、昨年同様、一次評価結果を各自治体に送付し、3月20日を期限として一次評価に対する自治体の意見を聴取したうえで、最終的な評価をしました。
各項目の採点基準の詳細は別紙の採点基準表をごらんください。 |
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4.調査結果 |
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(1) 全体の傾向
今回上位の自治体は、知事部局のみならず、監査委員事務局を含む県庁全体で政策形成過程の情報の公開に積極的と評価できるでしょう。今回も一位は宮城県でした(100点換算で93点)。最下位は長崎県(100点換算で26点)で、宮城県との獲得ポイントの差は実に101ポイントもあります。
因みに、東北地方では宮城県のほか、岩手県、秋田県も上位に居ますし、東北6県は山形県を除いて開示度が高い傾向にあります。近隣の自治体相互で情報公開制度について研究をしている姿勢がうかがえます。そういう点からすれば、山形県の42位という低迷は際だっています。山形県の順位は第5回以降、じりっ、じりっと落ちています。同じ傾向は今回最下位の長崎にも言えることですが、前回の第6回、今回と政策形成過程の情報への配点が大きくなるにつれ、ランクが落ちている、ということになります。こういう傾向が見られる自治体の知事さんは、情報公開制度が政策形成への県民の参加のために存在する、という点を十分に理解していないか、政策形成に直接、県民の意思が入り込むことを嫌っているか、ではないでしょうか。
東北地方の好成績と対照的なのが九州地方の県の低迷です。九州7県中最も成績の良い県ですら26位の大分県で、29位に熊本県、35位に鹿児島県、37位に佐賀県、38位に宮崎県、42位に福岡県、最下位に長崎県というさんざんな成績です。近隣の自治体がいずれも情報公開に熱心ではないと、ついついそれに合わせておけば大丈夫と思ってしまうのでしょうか。政策形成過程の情報の公開を嫌う、ということは、政策形成に県民の意思の流入を歓迎しない、という姿勢の現れです。九州地方の知事さんが軒並み政策への県民意思の直接的な流入を嫌う、という考えであるとすれば、大きな問題です。
さて、最下位の長崎県ですが、その最大の原因は47都道府県で唯一、工事成績評定書の工事名、業者名ともに非公開としたことにより、工事成績評定書の採点で1点もとれなかったことです。工事名、業者名以外の項目については比較的詳細な評価を公開していることをみれば、工事成績評定書をすべて0点にすることは酷だ、という意見もあるかもしれません。しかし、工事名、業者名を非公開とする場合と、公開する場合とでは情報のもつ意味には雲泥の差があるのです。工事名や業者名を非公開とした場合にわかることは、県が工事成績評定という仕事をしている、ということだけで、県の実施した成績評定が適正になされているかどうかを県民がチェックすることはできません。工事名、業者名を非公開にする、ということは、工事成績評定という作業は県がちゃんとやっているから、県民は県の行ったことに口を挟む必要はない、という姿勢を示していることになります。これでは情報公開制度とは言えないでしょう。長崎県の最下位は長崎県知事が情報公開制度を理解していないことの結果と言えるのではないでしょうか。
評価項目が変わったことが順位に影響を及ぼした自治体と、影響を及ぼさない自治体とがありました。前回ベスト5入りをした長野県、前回6位の北海道、第2回から第5回調査まで4回連続ベスト10入りをしていた高知県などが大きくランクを落としています。ランク落ちの原因はいずれも監査委員事務局の県警本部への定期監査の書類の公開度にあります。長野県、北海道は事務局監査や委員監査での質疑や議論の十分な記録を残していません。そのため、文書が公開されても、公開された文書から読みとれる情報が貧弱なのです。高知県については監査関係の書類は非公開です。これではランク落ちも当然です。皆、知事部局の公開度が悪くないだけに残念です。これらの自治体では、知事の情報公開に対する姿勢が県庁全体に広がっているとは言いがたいと思われます。
知事交際費の相手方について、せっかく原則公開、または全面公開、という運用をしていながら、下位に低迷している自治体がいくつかあります。高知県もそうですが、その他、兵庫県、香川県、広島県、滋賀県、熊本県、徳島県などです。兵庫県は知事交際費と事務局監査の資料の公開度は高いものの、コピー代も含め、それ以外の項目についての評価が低いことが低迷の原因です。香川県は知事、県警本部長とも交際費は良いのですが、それ以外の項目で目立ったものはありません。広島県、熊本県は監査委員監査での質疑内容の情報が不十分なことが低迷の理由です。滋賀県、徳島県も知事交際費以外は工事成績評定書、監査書類とも十分とは言えない内容です。
交際費の相手方情報さえまともに公開しない自治体がいまだに存在していることと比べれば、知事交際費の情報を公開するだけ良いかもしれませんが、これらの自治体では情報公開と広報との違いが十分に理解されているか疑問です。情報公開とは、自治体側の公開したいか、公開したくないかといった意向に関わりなく、情報を明らかにしなければならないことで、自治体側が政策を理解してもらうために、自治体側から見て、公開したい情報のみを公開する広報とは質的に違うのです。これらの自治体では知事交際費の相手方を公開する、という姿勢そのものを自治体の情報公開の積極さに対する広報と位置づけているかもしれません。それ自体は良いのですが、せっかく努力するのであれば、他の情報についても公開の充実をはからないのでは不十分です。情報公開制度が充実していれば、調査項目がかわっても十分な情報が公開されることは宮城県をはじめとする上位常連の自治体が示しています。
政令指定都市では昨年調査まで閲覧手数料を徴収していた千葉市、北九州市が閲覧手数料を廃止し、失格がなくなりました。1位は仙台市で、結果だけを見れば今年は宮城県勢が首位を独占です。しかし、内容的には仙台市の情報の公開度は宮城県に遙かに劣ります。政令指定市が都道府県よりも情報公開に積極的でない、という状況を象徴しています。
政令市の得点は昨年まで、各自治体間にあまり大きな差はなく、全体的に低迷、横並びの状態でした。今年はやや差が出たことに特色があります。昨年2位の名古屋市が100点満点換算で37点しか獲得できず最下位に、昨年1位の神戸市も100点満点換算で52点で11位に転落しました。名古屋市については開示度の得点は市長交際費の相手方の氏名と監督員の氏名のみの公開だけで、政策の形成に関する情報は一切非公開でした。神戸市の場合には長崎県同様、工事成績評定書で工事名と業者名を非公開としたことが得点が伸びなかった要因です。
もっとも、他の政令指定市についてみても、委員監査の質疑内容の得点が低いことに示されるように、広報と情報公開の相違が意識されないまま、自治体にとって都合の悪い情報は非公開とするという運用が行われているのではないでしょうか。
なお、千葉市の事務局監査の復命書や委員監査の質疑内容文書は未入手のため、採点できなかったことから千葉市のデータは参考値です。
(2) 交際費情報
首長交際費は第2回ランキング調査から連続して評価項目としています。今年は47都道府県全てにおいて県警が情報公開条例の実施機関となったことから、県警本部長の交際費の相手方情報を警察情報の公開度という観点から評価項目に加えました。なお、評価基準は知事交際費と同じです。
【県警交際費の開示度】
県警交際費については、個人情報を理由とする非公開の外に、交際の相手方が警察職員であった場合に、階級によっては当該職員の氏名を公開しない、という開示基準を設けている場合もあります。これについて今回は、相手方が非警察官の場合の公開度を調査しました。しかしながら、私たちの予想と異なり、多くの県警において県警本部長の交際費の支出は僅かで、自治体によっては支出が皆無のところや京都府のように本部長交際費という費目のないところもありました。そこで採点にあたっては、(一部)公開された資料を見つつ、各県警に開示基準についてのアンケート調査をして採点しました。なお、京都府については本部長交際費に準ずるものとして本部長報償費の開示請求をし、この結果ならびにアンケート結果をもとに評価しました。
今回の調査で最も県警本部長交際費の公開度が高いと判断されたのは山口県警でした。ただし、支出件数が少なかったため、病気見舞いも含めて全面公開、というアンケートの結果を最終的な判断資料としました。
準拠する情報公開条例は知事部局と同じである以上、論理的には県警と首長のそれぞれの交際費の相手方情報については公開度が同じになるはずです。しかし、多くの自治体では本部長交際費と知事交際費とで開示の度合いが異なるという結果となりました。県警の交際費についてアンケート結果から明確な公開基準を設けていないと判断される場合には、情報の公開を期待できないため、ある程度きびしい評価をせざるを得なかった場合もありますが、知事交際費と別個の開示基準を設けている自治体もあります。宮城県はその典型ですが、他にも県警の交際費の公開については、相手方が個人の場合はそのケースによって公開、非公開を決める(7点)と答えた例が多く見られました。非警察官が交際の相手方の場合に、アンケートには病気見舞いも含めて公開、と回答していながら、実際の運用では香典の相手方の個人情報を原則として非公開としていた三重県のような例もありました。
県警本部長の交際費と知事交際費とで支出の相手方の公開に差を設ける必要はあるのでしょうか。捜査上必要な費用は交際費から支出することはないはずですから、県警本部長の交際費の支出は儀礼的なものに止まるはずです。交際費の支出については、相手方情報を公開した場合に、知事については交際業務が害されることはないが、本部長の交際事務は害される、というようなことが起こり得るのでしょうか。本部長が交際費を交付する相手方は、本部長から交際費を受領したことを隠さないといけないほど、デリケートな相手方なのでしょうか。知事交際費と扱いを異にする合理性はない、と思うのですが。
【首長交際費の開示度】
2001年3月27日に出された、情報公開に極めて消極的な最高裁第三小法廷判決の影響に昨年以来注目してきました。前回第6回調査と今回を比較して、開示度を最高裁判例なみに後退させた、という自治体はありませんでした(神奈川県と沖縄県の評価が昨年に比べて悪くなっていますが、これは昨年誤って高い評価をしすぎたのを訂正したためで、運用が変わったわけではありません。)。
昨年、知事交際費で1)「病気見舞いの相手方氏名」の全面公開をした自治体は北海道・岩手県・宮城県・鳥取県・岡山県・山口県・熊本県の7道県でした。今回はこれに秋田県、福島県、栃木県、千葉県、三重県、和歌山県が加わり、13道県が知事交際費の全面公開に踏み切りました。
2)病気見舞いについて場合によっては非公開にすることがある、という自治体は、昨年は青森県・東京都・三重県・高知県・山口県・沖縄県の6都県でしたが、今回は青森県、東京都、富山県、山梨県、長野県、愛知県、滋賀県、大阪府、兵庫県、広島県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、大分県、沖縄県の16都府県になりました。知事交際費で病気見舞いまで公開する都道府県は29都道府県に増えたことになります。
一方、昨年、交際費の相手方について一部しか公開しなかった自治体は山形県・茨城県・山梨県・静岡県・石川県・福岡県・鹿児島県でしたが、今回は山梨県が原則公開に踏み切り、昨年、一件の支出しか相手方を公開しなかったことで、全面非公開の評価を受けた奈良県が今回はこれに加わったため、この非公開同盟のメンバーは山形県・茨城県・静岡県・石川県・奈良県・福岡県・鹿児島県になりました。奈良県以外に昨年0点だった佐賀県・宮崎県も開示度を改め、佐賀県が病気見舞い以外の個人名の公開(10点)、宮崎県が個人名の一部と非個人の公開(7点)としました。この結果、今回の調査で、知事交際費の相手方を一切公開しない、という都道府県は消滅したことが明らかになりました。
しかし、29都道府県が病気見舞いも含めて原則的に公開する、という運用をしている中で、いまだに非個人の一部を公開するに止まっている7県の知事さんの姿勢には違和感すら覚えます。これら7県の知事さんの公費によるお付き合いには、29都道府県と比較して、相手方の多くを非公開にしなければならないなどの特殊な事情があるのでしょうか。
政令指定都市で北九州市が頑迷に0点を続けています。相手方全面非公開という都道府県はないだけに、交際費の相手方情報の非公開は北九州市長のポリシーとでもいうほかありません。こうなるとどこまで非公開を貫かれるか、7県と並んで注目したいと思います。
(3) 工事成績評定書類
【調査の趣旨】
今回はじめて評価の対象としたものです。自治体が発注者となった工事に関しては地方自治法234条の2で自治体が検査をすることが義務づけられており、また、2001年3月9日の閣議決定「入札、契約適正化指針」において検査関係書類の公表が奨励されています。また、私たちの談合を根絶するための活動や提案に対して、談合をなくした場合には手抜き工事が増える、という理由の談合容認論も根強く残っています。しかし、工事成績の評定が適正になされるかどうかについての書類が公開されれば、自治体が適切な検査を行っているかを市民がチェックすることで、「手抜き検査」もなくなり、最終的に業者の手抜き工事を防止することにつながるはずです。このような観点から、今回のランキング対象としたわけです。
【評価の対象と基準】
開示請求対象の文書は工事評価を行った自治体の内部資料と結果の業者への通知文書で、前段の内部文書としては工事成績採点表と工事成績評定書といわれる文書が代表格です。尤も内部文書については自治体毎に違いがあるので、開示された内部文書全体をみて、監督員の氏名、評価内容、監督員の所見がわかるかどうか、という観点から調査しました。通知書についても同様です。
市民が手抜き工事を監視する、という観点から見れば、評価の結論だけでなく、その結論に至る理由や根拠ができるだけ具体的にわかることが好ましいことは言うまでもありません。そこで今回はそれぞれの文書について、結論に至る理由の公開度を重視した評価をしました。すなわち、内部文書については工事のチェックポイントに対する評価の理由が具体的にわかればわかるほど、高得点を配点しました。自治体の中には、採点表と評価基準を別個に作成している例もありますので、その場合には両者を見て採点しました。一見詳細な評価基準でも、評価内容の説明でしかないもの(評価表でa,b,c,dと書かれたことの意味を説明するだけのもの)については、結論しかわからない、として10点しか配点しませんでした(山形県、愛知県、京都府など)。通知書についても同様で、なぜ、どのような理由によって当該評価がなされたかが詳細にわかるかどうかで採点しました。今回15点をとった自治体は、評価項目別に評価の根拠となった複数の理由が挙げられ、評価の過程を理解しやすいものになっていました。
なお、通知書について、通知された業者が求めた場合には詳細な採点内容を交付するので、そのような工事については情報公開によって詳細な採点内容が公開できる、と主張して、通知書に対して10点(総合点のみわかる)ないし8点(ランクのみわかる)の評価をした一次採点の結果にクレームを付けてきた自治体(宮城県、大阪府など)もありましたが、業者が求めない限りは市民には評価の結果が明らかにされない、というのでは情報公開制度としては評価できません。したがって、そのようなクレームは採用しませんでした。
【調査の結果】
岩手、東京、山梨、長野、三重の5都県が満点でした。反対に、都道府県では長崎県が、政令市では神戸市がそれぞれ工事名と業者名を非公開とする処分をしてきたため、0点となりました。因みに長崎市は工事成績評定文書をすべて非公開としましたので0点となりました。長崎は県も県庁所在市もいずれも0点です。長崎県地方では工事成績を知らせたくない特別の事情があるのでしょうか。
政令指定市では満点を獲得した自治体はありませんでした。
福井県、兵庫県、山口県、佐賀県では業者宛の通知書がない、という結果でした。これらの自治体では業者への通知を今後行う予定とのことですが、2002年12月の段階で通知書を作成していない、というのは怠慢、と言わざるを得ないでしょう。
今回、関東地方整備局、日本道路公団、都市基盤整備公団についても調査しましたが、関東地方整備局、日本道路公団については、評価の内容が詳細にわかる資料がありませんでした。
(4) 監査書類
【調査の趣旨】
監査委員が自治体の不正支出のチェックに無力であり続けた、という問題点は以前から指摘されていましたし、これまで私たちも事あるごとに問題視してきました。その一方で、裏金つくりの疑惑を初めとして、警察予算に関する不祥事がしばしば取りざたされています。しかし、県警が保管している捜査関係費をはじめとする費用の支出に関する会計文書は、捜査上の秘密などを理由としてこれまで十分に公開されてきませんでした。このような現状では警察予算の適切な執行を監督するうえで、監査委員による監査が重要になってきます。そこで今回は、都道府県の監査委員が定期監査で県警本部の予算の執行状況についてどのような調査をしているかのチェックを兼ねて、都道府県の代表監査委員に対し「直近の県警本部に対する定期監査(監査通知〜広報掲載)の過程で職務上作成し、または職務上取得した書類、資料、メモの一切」の公開請求を行い、監査の過程で事務局職員や監査委員が具体的にどのような質疑をし、監査公表に至ったか、という過程の情報の公開度を調査することとしました。
また、市については、教育委員会への定期監査の資料の公開度を調査しました。
【評価の対象と基準】
今回資料の公開請求をした定期監査とは、地方自治法199条1項および4項に定められたもので、毎会計年度少なくとも1回は委員による監査をしなければならない、とされているものです。手続的には、監査通知、事務局職員による帳票・簿冊等の予備監査(事務局監査)を経て、監査委員による説明聴取や質疑等からなる本監査(委員監査)、委員協議会による協議、監査結果通知、広報掲載という過程を経ます。
監査の課程をチェックするためには、監査委員の定期監査の結論である広報記載事項がどのような調査や議論を経て決定されたか、という課程が公開されることが重要です。つまり、広報記載という監査委員の意思形成過程の情報がどれだけ公開されているか、という観点から、事務局監査での復命書や報告書の記載および公開、委員監査での質疑内容の記載および公開について、広報記載事項以外の事項が記載されているか、その内容がどれだけ詳細か、という、公開文書から得られる情報の量と質に着目して公開度を評価しました。
【非公開事例と非公開理由】
47都道府県中、事務局監査、委員監査を通じて検討資料全般を非公開としてきたのは高知県です。高知県の非公開理由は「このような最終的な整理、検討が行われていない状態にある報告書を開示することは、個人的見解や未確定な資料を提供する事となり、県民や監査対象機関に無用の不信感を与えることとなる。」「このことは、厳格な監査を期待する住民や監査制度の法益を損なうことにもなり、監査本来の目的が損なわれ、公正かつ円滑な監査業務の執行に著しい支障を生じるため」というものです。この理由は政策形成過程の情報を非公開にする側の代表的な論理と言えます。文面からみるかぎり、さぞや詳細な検討を行っているようにも思えます。しかし、そうだとすれば、情報を公開した場合には監査制度への信頼が増しこそすれ、不信感を与えることなどないはずです。
大分県は委員監査の協議会資料を非公開にしてきました。大分県の非公開理由は「いわゆる監査のノウハウに関する情報が記載されており、公開することにより、今後の監査に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがある。」というものでした。これも文面を見ると、ずいぶん充実した討議がなされているようです。しかしながら、すくなくとも他の自治体の討議会資料を見る限り、「監査のノウハウに関する情報が記載されており、公開することにより、今後の監査に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがある。」ような内容のものはありませんでした。しかも、大分については、一部公開してきた監査調書など事務局監査の内容の評価は0点です。事務局監査の記録が不十分であるが故に委員監査を充実せざるを得なかった、とも考えられますが、他の自治体の例から見ても、そのような事態はまず、考えられないのですが。仮に大分県の監査委員がそのような討議をしていたとすれば、都道府県随一の委員監査と言えたでしょうに。惜しい限りです。
政令指定市では名古屋市が「他に公開されないことを前提として事務局職員の暫定的な評価や疑義を抱いた点等未確定な情報についても幅広く記載しているものであり、公開することにより今後の監査事務の公正又は適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」という理由で監査の指摘事項が記載された全資料を非公開としてきました。
【調査の結果】
高知県以外の都道府県では、事務局監査や委員監査の結果を記載したなんらかの文書が公開されました。しかし、情報を全面的に公開した場合であっても、文書中に指摘事項が復命書に詳細に記載されていなければ評価できません。事務局監査については、文書に広報記載事項以外の記載事項の見られなかったところは0点で、広報記載事項以外の事項の指摘があるものの、その内容があまりにも乏しい、という場合には2点を配点しました。高知県以外の都道府県は復命書や報告書を公開しているのですが、そのうち、点数が0点や2点の自治体は、事務局による予備監査段階での記載事項がそのまま広報記載事項となってしまう、ということを意味します。このことからみて、これらの自治体では調査先での調査事項や指摘事項は事務局がすでにお膳立てしてしまい、実際上は委員監査はその追認だけを行っているにすぎないのではないか、という疑いがあります。
委員監査では委員の質疑内容と発言者名の記載、公開をチェックしました。委員の発言が全く記載されていない場合は0点ですが、発言が記録されていても、その発言内容が広報記載事項と全く同じであったり、特に具体的な指摘をしているとは評価できない場合にも0点という評価をしました。抽象的な意見の表明をしているにとどまる場合には5点を配点しました。事務局監査の復命書には詳細な記載があるのに、委員監査には5点以下の不十分な記載しかない場合についても、監査委員は事務局監査の追認をしているに過ぎず、委員監査が本監査の名に値しないのではないか、という疑問を抱かせます。
これを裏付けるような指摘が自治体側からありました。第一次評価についての青森県からのクレームは、本監査に際しては委員は県警に行って委員監査をやっていないので、質疑応答文書などは作りようがない。これを0点と評価するのはおかしい。というものでした。詳細に尋ねたところ、「青森県では県警への定期監査に際して、委員は事務局監査で事務局員が入手した資料と報告のみを見て、県警に行かないで監査を終了したので、質疑資料はない。」ということでした。クレームそのものについては、県警には行かない、という内容の質疑資料を残せたはずなのに残していない点に問題がありますので、採用しませんでしたが、問題なのは定期監査のやり方です。事務局員の調査だけで現場に足を運ばない、という方法は委員監査の形骸化ではないでしょうか。今回青森県についてはたまたまそのようなクレームから、定期監査の際、委員が現場に赴かないで事務局員の報告のみで監査を終了させる、ということが明らかになったのですが、ほかの自治体でもこのようなことが行われていないはずはありません。特に委員監査の質疑内容が0点のところについては、実際に委員が現場に赴いて、自分の目で監査しているかどうか、地元のオンブズでも調査する必要があるでしょう。
監査の点数が45点満点だったのは宮城県、神奈川県、岐阜県、福井県、大阪府、和歌山県、岡山県、沖縄県です。
都道府県では、県警から入手した資料を公開してきましたからこの項目で0点はありませんでしたが、教育委員会に対する定期監査について調査した政令指定都市では名古屋市が0点で、復命書や委員の質疑内容を記載した文書だけでなく、監査委員が入手した教育委員会が提供した資料すら公開しませんでした。千葉市については開示資料の謄写をしなかったため、資料未着として、評価できませんでした。
(5) 制度運用
昨年同様、コピー代が安価であることが充実した情報公開制度には不可欠という観点から、一枚21円以上のコピー代を徴収するところは一律0点とし、10円までのコピー代を徴収する場合には満点の30点を配点しました。
昨年、コピー代は1枚10円とする地方自治体は21県でしたが、今年は28自治体になりました。昨年1枚あたり30円としていた日本一の高額県新潟県・富山県・佐賀県の3県ですが、富山県は今年10円にしました。新潟県、佐賀県は20円に値下げしましたが、一枚20円のコピー代はいまだに全国で最も高額です。せっかくコピー代を軽減するのであれば、この二県も富山県のようにコピー1枚につき10円とすべきでしょう。政令指定都市は広島市を除いて11市が10円になりました。広島市は相変わらず20円のままです。
コピー代10円はスタンダードとなったと言って良いと思います。
(6) 失格について
閲覧手数料を徴収する自治体は例年同様、失格としました。去年政令市で失格だった北九州市、千葉市が手数料を廃止したので、都道府県、政令市での失格は東京都だけです。
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5.まとめ |
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今回の調査でも、常連の情報公開先進県と下位の県との二極化は解消されていません。下位の県も交際費の相手方情報の公開などの面で公開度を改善していますが、その歩みは遅く、先進地区は下位県が一歩改善する間に数歩先を歩んでいる、という状態にあります。
今回の調査で山形県以下の5県(山形県、福岡県、静岡県、奈良県、長崎県)に共通する点は、交際費の相手方の公開度が低いだけでなく、監査委員の本監査の質疑の公開度も低い、ということです。監査関係の情報公開度は知事部局ではなく、代表監査委員の決定によるものですから、県庁組織全体が情報公開に消極的だ、と言えるでしょう。
冒頭でも指摘しましたが、情報公開制度は広報とは異なります。たとえて言えば、交際費の相手方の情報の公開だけに邁進しても、他の情報の公開に積極的でなければ情報公開とは言えません。知事や実施機関の責任者が公開度を高めたい情報だけ公開すればよい、というものではないのです。今回のランキングは政策形成過程の情報の公開度をかなり重視しました。情報公開制度の要諦は政策形成過程の情報がどこまで公開されるか、という点にありますから、今回ランクを落とした自治体は、情報公開制度の意義づけにどこか問題があった、と言わざるを得ません。
反対に今回大きくランクを上げたのは和歌山県、千葉県、山口県です。しかし、地元のオンブズによると、千葉県では非公開処分を争う異議申し立て1万3000件が滞留しているとか、手数料の有料化や大量請求に対する拒否の制度の検討などがなされている、と聞きます。もしこのような制度を設けるとしたら、情報公開に逆行します。
今回は監査関係文書の復命書や質疑内容の記載について、結果的に、やや緩やかな採点となりました。これは、実際に監査委員が行った質疑の内容が乏しい場合でも、内容の乏しいなりにすべてが記載されていれば配点せざるを得ないことによります。特に、質疑内容について5点を配点したところの多くは、指摘事項が交通事故に対する口頭注意であったり、ひったくりが多いがその対策は、といった、社会見学の質問のようなものに止まった、という印象でした(そういう資料を読んだ上で改めて高知県や大分県の非公開決定通知書を読むと、理由に合理性があるとは到底思えないのですが。)。
非公開でない場合には、ランキングとしては加点されるにしても、本監査の際にその程度の質問しかなされないことも問題と思われます。これでは監査委員の存在意義そのものが問われます。監査の実態についてはまた別の機会に問題にせざるを得ない、という思いを強くしましたが、少なくとも次回以降は監査委員において積極的な質疑がなされ、これが記録されることを期待したいと思います。 |
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